スプリ、オロバスと図書館に行く
ゲームが女性でも一般的に楽しむようなくらいに身近になった近未来、クラスメイトに紹介されてVRゲームを始めた少女小瀬春香が、ゲームの中でオロバスという名前のプレイヤーと知り合うことで、ゲーム自体の秘密に関わることになり、ゲームの謎に挑みながらゲームの中で強くなっていく近未来系作品。
「あの、本当に良かったんですか」
「なにが」
セントシ魔法学園の廊下をくねくねと歩く私たちは、周りから少し珍しそうな視線を向けられた。シスターと普通の学生のような服装の組み合わせはそんなに珍しいのだろうか。
そんな図書館に行く道すがら、私はオロバスさんに質問をした。これは確認しておかないと後で禍根を残しそうだと思ったから。
「大丈夫だったんですか。お時間とか」
「ああ、それは大丈夫。俺時間だけは無駄にあるから」
「そうですか」
「それに、こういうのがないと気分転換にもならないし」
「そういってもらえると嬉しいです」
「……無理しなくて大丈夫だぞ」
「え」
そう突然、オロバスさんから言われた。
「知らない奴の前だからと無理しているのかもしれないけれど、別に俺は素の状態でも大丈夫だぞ」
「いや、それは」
「どうなんだ? この間カーミラと話していた時はすごく楽しそうにしていたけれど」
「あはは、私だって初めて話す人とは距離感掴めなくもなりますよ。さすがに男性相手なら」
「そういうもんか」
「そんなものです」
「まあいいか、ついたぞ。ここが図書館だ」
オロバスさんに言われながら入ったその場所の光景に、私はちょっと猫を被っていたのも忘れて驚いた。
「わあ、すごい!」
「所詮フレーバーみたいなものだからあれだけれど、学園として生活する上では充分過ぎるぐらいの蔵書数がある。その数数千はくだらないそうだ」
「そんなにあるんですか!」
「ああ、だからハートの連中にとっては、普通は天国だろうな」
そういうオロバスさんはどこか物悲しげに語っていた。
「どうしたんですか」
「いや、俺も他のハートの連中みたいにこのフレーバーの山を見ても楽しめるようなやつだったらもう少しゲームを楽しめたのかもしれないなと思ってさ」
「楽しめますよ。今からでも」
「根拠は」
「無いです」
「おい」
「ですけど」
そりゃあそうだ、私はゲームを始めったばっかりだもの。だけれど。
「ゲームで苦しくなっていては楽しめるものを楽しめなくなっちゃいます。だったら、まずは楽しくゲームをできるように苦しまない方法を探せばいいんですよ」
「そういうもんか」
「はい」
「気長に言うけど、俺の場合は理由があってのことだぞ」
「言っていたじゃないですか、私に図書館紹介するのが気分転換にもなるって」
「ああ」
「そういう気分転換の積み重ねが嫌なことを忘れさせてくれる日が来るかもしれませんから」
私はそう答えた。すると予想していなかったのかオロバスさんはきょとんとした反応の後、少しだけ笑みをこぼしていた。
「そうか、まあ頑張るよ」
「はい」
「じゃあ入り口で何時までもいたってしょうがないし、入るとしよう。ただし、図書館で喋らないのは現実世界と同じでマナーだから守るようにな」
「そうなんですね、了解しました」
「ああ、なにせ図書館の中でもこうして会話が出来てしまっているからな。他のプレイヤーにだって筒抜けだ」
「そうだったんですか。じゃあ、外で大声出しても」
「そいつはノイズキャンセリングが働くかもしれないけれど、まあ基本会話は垂れ流しになるな」
「それは注意しないといけないですね」
私は今更ながらこのゲームでの注意をしなくてはいけないことを学んだ。会話が誰にでも聞こえてしまうのであれば、そのせいで変なことが起きるかもしれない。
「ですけれど気を付けていればいつも通りの図書館と同じように利用出来るんですよね」
「まあ」
「じゃあ図書館利用してきますね」
そういうと私はオロバスさんと別れると図書館の中に入っていった。
なんでこんなことになったのか。俺は今更ながらに考えていた。
歯車が狂い始めたのはいつからだったのか。
正直ろくでもない人生だったとは思う。身内と呼べる身内はいなかったし、好きなものはゲームだけで、今時珍しくもなんともないがゲームだけで食べていこうと考えてしまった結果人生踏み外したようなものだった。
そんな時に転機が訪れたのだから。
そしてその転機があれこれ作用しもがいた結果、今の図書館案内とかいう意味の分からない出来事に繋がっていると思う。
「これはイベントなのか? にしては変なイベントだよな」
俺は良く熟考する。図書館なんて最初に来る場所、というよりこの学園を利用しようと思うプレイヤーのほとんどは何らかの情報を求めてここにやってくる。
そんなことも知らないで図書館の案内をしてくれなんて頼まれるほどに、世間知らずと言ってもいい希少な初心者プレイヤーなんてNPCかと思ったが、随分と流暢にしゃべるしその場その場に適した言語を介するし、何より感情があったように思える。
だとすると相当な無知のプレイヤーってことになるのだが、必然的にそれはそれで変なプレイヤーだと思う。
だが。
「感情がある人と上手く話せるとしたら、珍しいな」
学校でだって仲間外れみたいな俺が珍しく女子と話せた。正直進歩と言ってもいいんじゃないだろうか。
もしそうだったら、少しは仲良くなれるのかな。
そんなことを考えていた。
ビービービー。
「なんだなんだ!?」
突然図書館に警告音が鳴り響いて胸騒ぎがした時のことだった。
初投稿です。休日投稿を基本していますが、書きだめしないと続かない性分なので遅れたりした時は温かく見守っていただけると嬉しいです。
追記:最近は少し筆の進みが早いので今日は金曜日ですが投稿しました。皆様も良い週末が送れることを願っております。