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聖水作りの一コマ

ゲームが女性でも一般的に楽しむようなくらいに身近になった近未来、クラスメイトに紹介されてVRゲームを始めた少女小瀬春香が、ゲームの中でオロバスという名前のプレイヤーと知り合うことで、ゲーム自体の秘密に関わることになり、ゲームの謎に挑みながらゲームの中で強くなっていく近未来系作品。

 クローバーの寮の裏側、教会に隣接する場所には聖神教のお墓があり学園から提示されるクエストやミッションで死亡した場合にここに名前が刻まれるとフレーバーテキストには記載されている。

 そんな場所で私は、カーミラさんから洗礼に関する準備の仕方を教わっていた。

「まずはこの井戸から水をくみ上げて、その水を聖水に変えるための魔法を唱えないといけないのだけれど、ちょっと休憩入れましょうかしら」

「いえ、だい、丈夫です」

「大丈夫には見えないわよ」

 何とか作業を終えた私は、ゲームの中であるにもかかわらず肩で息をするありさまで

ある。別にやること自体は簡単なのだ。

 問題はその回数である。

「でも、一度にやらないといけないんですか。もう汲み上げる作業五十回はやりましたよ」

「ごめんなさいね。洗礼の義で使う器がこんなに大きいものだから作業に時間かけさせちゃって」

 水槽のような巨大な金製の容器になみなみと水が入っているのはそれだけ頑張った証拠であると同時に、こんなことを聖水の用意するたびにやらなくてはいけないのかと思うと少し途方もなくなる量ではある。

 しかし、きっとこの学園の先輩たちは同じようなことをしてきたのだろうし、私が文句を言えるような立場ではないために、私は従うことにした。

 そして、もう一つ疑問に思ったことを口にする。

「それは問題ないんですけれど。この量の水に魔法をかけるんですか」

「ええ、魔法をかけてあげるとこの水全部が聖水に変わるの」

「すごいですね、でも。一回の魔法でできるものなんですか」

「そこはまあ、ゲームってことなんじゃないかしら」

「あ、すみません」

 なんか触れちゃいけないような話に足を踏み込んだ気がする。そんな私の様子を見てか、カーミラさんが訂正に入る。

「大丈夫よ、別にスプリちゃんが悪いわけじゃないし」

「そうですか。わかりました」

 納得した私は引き下がることにした。

「じゃあ、魔法の呪文を教えるから私の後に復唱して」

 彼女は十字に手を切った後に何かを空に払うような動作をする。

「はい」

 言われるままに、私は彼女の呪文の詠唱を復唱する。

「聖神教の神々よ。あまねく怨嗟の声を断ち切り人々の理に祝福を与える者たちよ。今ここに御身の祝福の一端の力を顕現せよ。力あるものに勇気を、知識あふれるものに知恵を、御身を守るものに度胸を、全てを慈しむものに愛情を。太陽神の祈りよ、月の髪の慈愛よ、今ここにすべての生き物たちに祝福を」

 一言一句違わず、私は言い切り同じようにしゃべりきる。するとその風呂のように大量にある水を前にしてカーミラさんが私にこう伝える。

「大丈夫よ。これで聖水は出来たわ」

「本当ですか。良かったです」

「とりあえずこれで出来たから、今度はこれを運ぼうかしら」

「はい、どこにですか」

「どこにって、教会の中によ」

「教会の中、ですか」

「ええ」

 この大量の水を、教会の中にか。私は気が遠くなるのを感じた。

「とりあえず持ち上がるか」

「ちょちょ、危ない」

 彼女はそう言って聖水が入った容器から距離をとって、私の行動を咎める。

 後で客観的に考えればそれもそうだろうと私だって思う。

 ゲームだから持ち上がってしまったその大量の水は、バシャバシャとこぼれていたのだから。

「いきなり持ったら危ないでしょう。どうして魔法で強化したりして持とうと思わないの。この世界はゲームなんだからいくらでも楽が出来るでしょう」

「そうでした」

 それから私はカーミラさんに魔法を教わって手伝いをするのだった。




「はい、聖水運び終わりましたよ」

「ご苦労様」

「おう、邪魔するぜ」

「オロバスさん。来たんですか」

「おう、何していたんだ」

 オロバスさんが物珍しそうに容器の水を眺める。

「聖水を作っていたんです」

「聖水?」

「はい、洗礼の儀式で使うものらしいです」

「ほーん」

 興味なさげにその人は言った。もう少しい何か反応をしてくれたっていいじゃないか。

 その様子を見てか、カーミラさんが突然提案をしてくる。

「そうだ、オロバスさんに図書館でも案内してもらったらどうでしょうか」

「は?」

「図書館ですか。それはどうして」

 突然のカーミラさんの提案に、オロバスさんは素の声で聞き返し私も質問で返す。それに、カーミラさんはこう答えた。

「学校内の案内をそういえばしていないなと思ったのですが、私はこのあと少しやらなければいけないことがありまして時間がないのです。ですが、オロバスさんなら丁度良いではないでしょうか」

「後輩の世話をお前見ず知らずの奴に任せるのかよ」

「先日は助けていただきましたし、見ず知らずというほどではないでしょう。これからだって洗礼で顔を合わせるのですから」

「だからってお前」

 渋っている様子のオロバスからは、あまり関わりたくないといったようなオーラを感じる。正直今のタイミングに教会に来たことを後悔しているような。

 だけれど、カーミラさんの方が一枚上手だった。

「それに、授業は出なくてよろしかったのですか。ハートは授業数多かったはずでは」

「……」

「理由は分かりませんが授業に出ないなら暇なのではないでしょうか。その時間を有効に使われてはいかがですか」

「分かった。引き受けるよ。人助けだと思って」

「ええ、それがいいです」

「ええ?」

 なんだか私のあずかり知らないところで変なやり取りが起こって、私の図書館案内が決まった。

初投稿です。休日に定期連載をしています。基本書きだめしないと書けないため、何か事情があり遅れた時は温かく見守っていただけると嬉しいです。


また、先ほど久しぶりにページを開いた際評価ポイントの上昇を確認しました。おそらくブックマークではないかと思っているのですが、何にしても見てくださる方がいる事は励みになります。本当にありがとうございます。


追記:因幡はねるさんのYouTubeチャンネルで多井隆晴プロが言っていた「仲間ってそういうもんだろ」が最近マイブームになりつつあります。どうしましょう。



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