オロバス登場
ゲームが女性でも一般的に楽しむようなくらいに身近になった近未来、クラスメイトに紹介されてVRゲームを始めた少女小瀬春香が、ゲームの中でオロバスという名前のプレイヤーと知り合うことで、ゲーム自体の秘密に関わることになり、ゲームの謎に挑みながらゲームの中で強くなっていく近未来系作品。
「あのう、洗礼って結局何だったんですか」
今更だが、そういえば学んでいなかったなと思い私は洗礼について確認をした。
少し悩むそぶりを見せたが、カーミラさんは洗礼について教えてくれた。
「クローバーの生徒には、本来聖神教の教えを皆に説く、洗礼の義を行う任務があるのです」
「はあ」
「ですが、私はあの二人が聖神教の教えを受けようとするのが気に食わなくてボイコットをしているのです。おかげでクローバーの任務を怠っているという理由で何時までもクローバーの学級を卒業出来ないでいるんです」
「そうだったんですか。でも、何時までも卒業出来ないのって辛くありませんか」
「辛くありませんよ。ゲームですから卒業出来ないことの弊害などありませんし、何よりこのゲームの聖神教が私は好きなんです。ゲームなのにしっかりと作りこまれた教えで、心の支えになるんです」
そう語る彼女は、本当に素晴らしい一人の敬虔な信徒のように見えた。
こんな人にあんな言葉をあれこれ言いたい放題言ったあいつらはやっぱり気に入らない。
私ももし洗礼を行う時が来たらあの二人が参加できないようにしようか。いやいや、いくら何でもそれはやりすぎか。でもでもそしたら、カーミラさんだってやりすぎってことになるし。
「ですが、あの人は本当に大丈夫でしょうか」
「なんでですか」
心配そうに話すカーミラさんに、私は何か違和感を覚える。
「ハートの名無しさんですよ。確か私たちに話しかけてきたあの二人は両方ともダイヤの学級の人のはずです。ダイヤの学級は攻撃魔法や戦闘における武術などを教えてくれる学級ですから、戦闘に関してはハートの学級より何枚も上手です」
「そんな助けに行かないと」
「私たちに何ができるんですか。私たちはクローバーに属しているのですよ。戦闘なんてもっとできません。悲しいですけれど、待つしかない」
「そんな」
セントシ魔法学園内、訓練場。
「ここなら問題ないな」
「やりあおうぜ」
ここで俺は、二人の生徒と向かい合っている。
二人とも片手剣を装備した剣士のような見た目の男たち。
装備は上等かもしれないが、若干装備に着られている感じが残る見た目だった。こういう場合の直感には自信があるが、きっと思ったよりは弱い。
「あの、今更ですけれど戦いをやめるとかはないですか。確かに戦いをするなら別の場所がいいとまでは言いましたけれど、戦おうとまでは言っていないはずですよ」
「何言っていやがるんだよ、お前」
「今更引き下がれる訳がないって分からないのか?」
「はあ、そうなりますか」
手加減して戦わないと。
「美味しいですか」
「味わかんないですよ、あんな話聞かされた後に食事に誘われちゃっても」
「ですよね、申し訳ありません」
「不安です」
そう吐露しながら、私達は食事をしていた。
メニューは学食の定番のハンバーグ。ひき肉の味までよく再現されているメニューのはず……なのだが私たちのために謎に絡んできた二人組を相手取ることになった人が不安で
仕方がなかった。
「はあ、大丈夫でしょうか」
「何が大丈夫なんだ」
「いえ、あなたが勝負で負けないか心配で、ってえ⁉」
「何を驚いているんだ」
「何って、なんでここにいるんですか」
「さっきの試合勝ったぞって伝えに来た。もう洗礼する弊害はないな」
そこには先ほどの二人組をどこかに連れて行ったあの人がいた。しかも無傷である。
「すごい人ですね。ダイヤの生徒二人相手に勝ってしまうなんて」
「本当はダイヤとかに入りたかったんだけれど、訳ありでね」
「あの、お名前なんて言うんですか」
「はい? 俺はステータスを公開しない主義で」
「私、ゲームやり始めたばかりのスプリというものです」
「聞いていないな」
「ですが、私もお名前は気になります。洗礼をされるというのであれば、名前を知らないというのも変な話ですし」
「そうです、確かさっき洗礼をあなたも受けたいと言っていましたよね」
「ウグ」
その男性は痛いところを突かれたというような顔をしている。そのためか、顔の表情が心なしかひきつっている。
「お名前、教えてくれませんか」
「名前だけだぞ……オロバスだ」
小説初投稿です。休日に定期連載していくつもりで書いています。連載が遅れたりした時は何かあったと温かい目で見ていただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。