ようこそ魔法の学園へ
ゲームが女性でも一般的に楽しむようなくらいに身近になった近未来、クラスメイトに紹介されてVRゲームを始めた少女小瀬春香が、ゲームの中でオロバスという名前のプレイヤーと知り合うことで、ゲーム自体の秘密に関わることになり、ゲームの謎に挑みながらゲームの中で強くなっていく近未来系作品。
「やっと街についた!」
カーミラさんに案内してもらい、ようやく私は森を抜けてキタの街に到着した。もうすぐといっていた妖精も、正直あてにならないくらいここまでとても道のりが長くて大変な思いをしたものである。
途中で別れるまで道中はずっとカーミラさんに助けてもらってばかりで、何もできなかったので、これから何か恩を返せればなんて考えも巡る。
街は西洋のレンガ造りみたいな家々が並ぶが、何処か日本風の不思議な街並み。触っても石みたいにざらざらした感触ではないのが不思議である。
そこかしこに何らかのエンブレムか看板が飾られていて、それぞれが何のお店か一目でもわかる。
それだけこのゲーム内では自由に多くの活動が出来ることがうかがえる。
そんな街を歩きながら、私は最初のキャラメイクの時から本当は待ちに待ち望んでいた目的地に向かっていくのである。
「とりあえず学校はここでいいんだよね?」
セントシ魔法学園。このゲームにおける学生という身分をキャラメイクの時に選んだ一部のプレイヤーのみが普通は入れる特別な施設である。
基本的にはゲーム初心者の救済措置的な施設で、ゲームに慣れていないからこそゲーム内でどうしたらよいのか分からず右往左往しないために、目的を与えてくれたり他プレイヤーに技術的に負けないように特別な技を教えてもらったりするのが目的で用意されたらしい。
教室で教えてもらった時には、十分にプロのプレイヤーでもアイテムや技のコンプリートを目指す人が編入してくる事例もあるらしいけれど。
「この学園に今日から編入してきたスプリです」
「どれどれ、確かに入学証を確認したよ」
NPCの警備員に入学証を見せて入らせてもらうと入学の前に選んだ入学した際のクラスによって、目的地が違うらしくあなたは先ずクローバーの生徒用の宿舎の隣の境界を目指すように言われる。
入学証明書に付属した地図を確認し指定された教会に向かう道中の中央広場まで足を運ぶと、私はその光景にあっけを取られる。
外観は中世ヨーロッパの古城風なもので、それが少なくとも学園だとは思えない。
入口の番兵のような人に証明書を見せると扉を開けてもらい、中に入れるようになる仕組みである。
頭を下げると、私は中に歩みを進める。
中に入ると、私は漫画の世界かお伽噺の中に入ったのでは錯覚してしまう。何人ものプレイヤーの人達が思い思いにゲーム内での活動を過ごしている庭園には噴水があり、大きなバラのアーチが道を作り、それらを囲むように三つの建物が並んでいて素敵な場所だった。
『スプリ、スプリ。君が行くのはあっちだよ』
「ん」
すごく久しぶりに声をかけられた妖精の案内に従い、今度は庭園を通り抜ける。ようやくアシストらしい事をしてくれたかと思うが、学園に来るまでも道案内してくれたっていいじゃないかとも複雑な思いもよぎる。だが、正直多くを求めすぎだろうし、あんまりあれこれ考えない方が良いのだろうか。
しばらく歩いていると、目の前に朽ち果てたかけた教会らしき建物が見える。そして隣にこれまた朽ちかけた大きな木造建築。
「これが、教会と宿舎?」
私のふとした疑問に、そうだよと妖精が答える。
「なんか、すごく古い」
「そうですよね」
「うわ! カーミラさん!」
「ごきげんよう」
そこにいたのは、黒色の足首まで裾の伸びた服に身を包むカーミラさんだった。
頭を覆うフードから見えるやさしい顔も艶やかで、そのすらっとしたプロポーションを遺憾なく引き立たせる格好が扇情的である。女ながらに感動してしまった。
胸から見える青色のブローチもよく似合っていた。
「その恰好は」
「私の修道服よ。あなたもクローバーを選んだの?」
「はい、あの、すっごく素敵です」
「あら、ありがとう」
にこやかに笑みを返した後、カーミラさんの案内で私は宿舎の隣にある教会の中に入っていく。
中は天井の高くて、円形に机が配置された中央に一段高く教壇が設けられている。
周囲にはたくさんのステンドグラスが配置されているが、今は光っていない。
扉を抜けて、廊下を進み、階段を上って、とある部屋の中に私は通される。道中にステンドグラスが並んでいた。
「教会では活動の一環として、世界の教えや戒律に関する物事を教える洗礼の時間があります。そこでこれを使うんです」
彼女が部屋のクローゼットから持ってきて私にくれたもの、それは一着の修道着。カーミラさんのものと同じである。
「よければ、あなたも修道服を着てみてはどうですか」
「はい」
そう言われた私は自分の服を脱ごうと、襟に手をかけようとする。
しかし何度挑戦しても服の襟に手がうまくかけられない。
すると、笑っていたカーミラさんが教えてくれる。
「ふふ、ごめんなさい。ゲームで服を着替えるっていうのはね、服というアイテムを交換することを指すのよ」
「えっと、どういうことですか」
「アイテム欄から修道服を選べば普通に着替えられるわ」
言われるとおりにアイテム欄を開くと、そこには新しいアイテムとして修道服をゲットした表示が出ている。そして、そのアイテムをタップしてみるとアイテムに着替えるという選択肢が表示されていた。
これは恥ずかしい。
「こんな初めてのゲームプレイヤーさんは珍しいわ。こっちもおかしくなっちゃいそう」
「わ、笑わないでください。わたしにとってもこのゲームが初めてのゲームなんですから」
「あら。そうなの」
カーミラさんが驚くのも無理はない。
女性の趣味はゲームが趣味とは言えないような時代があったと言え、今時女性のゲーム人口は昔と比較すればあり得ないほどに上昇した。
そう考えると、初めてのゲームがこのゲームという人はさすがに珍しい物なのだ。普通の子供なら、子供向けのゲームの一つや二つやっているものだから。
「それで、ここに来たってことは、今更ですけれどクローバーを選んだんですよね」
「はい」
この学園では、授業という名のどんな魔法を覚えたいかの希望によって学級が決まる。そして、その学級はトランプの記号によってクラス分けされていて、攻撃系の魔法を覚えたい生徒はダイヤ、防御系を覚えたい人ならスペード、支援魔法を覚えたい人ならハート、そして私が選んだクローバーは回復魔法を覚えるための学級だ。
「それにしても珍しいと思うの。回復魔法なんて体力を回復させる量と状態異常の種類の違い程度しか違いがなくて、やっぱり魔法の花形である攻撃魔法とは見劣りしてしまうからヒーラー志望は珍しいのよ? 学園でわざわざ学ぼうだなんて思う人はよっぽどの物好きか何かの功績を獲得するのに必要だとかそういう理由よ」
「私攻撃魔法について友達に語られた時に、威力だとか攻撃範囲だとか技の回数だとか熱く語られたんですけれど、そんな難しいことを考えられるとは思えなかったんです」
「……まさかそんな理由で簡単そうだからクローバー選んだの? ヒーラーなんて回復するぐらいしか仕事なくて変わり映えが無いから面白くないのに?」
「はい」
「くふふ、ははは。本当に面白いわ、あなた」
「ちょっと、笑わないでくださいよ」
私はちょっとばっかりカーミラさんに抗議をした。
初投稿です。休日に定期連載をしていくつもりで書いています。書きだめしないと続きを書けないので、投稿がずれたりした時は温かく見守ってください。
追記:日曜投稿予定だったのがすっかり投稿自体を忘れていて申し訳ありません。