未来との交信
「この手紙を読んだあなたの時代に、もしタイムマシンがあるのなら、2007年9月1日の午後3時11分に、ツーパインモールの駐車場脇にある公園に来て下さい。
もしあなたの時代にタイムマシンがないのなら、この手紙を元の場所に埋めて下さい。
過去少年」
子どもの頃、そんな手紙を大真面目に書いた。これでタイムマシンの存在を証明するんだと、友達と一緒にワクワクしてその時を待った。しかし当然のことながら、その日その場所には誰も現れず、僕らはガクリと肩を落とした。その友達はすぐに引っ越してしまい、手紙の事を知っているのは僕だけになった。
けれど諦めきれなかった僕は、それからも毎年9月1日に、約束の公園に赴いた。何かが起こるなどとは既に期待していなかったが、何となく、それが僕にとっての恒例行事になっていた。
しかし10年目のその日、3時11分にいつもの公園に行くと、何やら小さな箱が落ちていた。見たことのない金属でできているその箱を開けると、綺麗に折り畳まれたメモ用紙が入っていた。
「来年の9月1日3時11分に、またこの場所に来て下さい。
未来少女」
その字は逆に読みにくいほど達筆で、線も引かれていないのに、文字は綺麗に一直線に並んでいた。僕はメモ用紙を畳み直して箱に戻し、家の引き出しにしまっておいた。
次の年、公園には前よりも二回りほど大きな箱が落ちていた。中身は、前と同じ字、同じ文面のメモだけだった。僕はその大きな箱に前の小さな箱を入れて、押し入れにしまっておいた。
そのまた次の年、公園に箱は落ちていなかった。その代わり、紫色の花が植えられた植木鉢が置いてあった。土を少し掘ると、ビニール袋に入った、いつもと同じメモが出てきた。僕はその花をベランダに置き、水をやった。2ヶ月ほどすると、想像以上に立派な実がなった。甘味があって、とても美味しかった。
去年は、公園には何も落ちていなかった。僕は辺りをキョロキョロと見回した。すると、靴くらいしかない小さな子猫が、ゴロゴロとすり寄ってきた。よく見ると、子猫の首輪には細い筒が括り付けられていて、中から例のメモが出てきた。僕は子猫を"フュー"と名付けた。自分で名付けてから、少し呼びづらいと後悔した。
そして今年、僕はフューを連れて公園に向かった。例の花には今年もたくさん実がなったが、全部フューに取られてしまった。彼はこの一年で随分と立派に成長した。丸々と太って自分では歩きたがらないので、道中はほとんど僕が抱えていた。
約束の時間の5分前に、公園に着いた。ツーパインモールはこのところお客が減って、来月ついに閉店するらしい。と、突然強い風が吹いて、木の葉がさーっと舞い上がった。
「あ、こら!」
木の葉を追いかけようと、フューが急に腕から飛び出したので、僕は慌てて後を追った。
ドンッ
「あ、すいません。ちょっと猫が……」
「あなたが過去少年さん?ようやく会えましたね」
顔を上げると、見慣れない格好の女性がこちらを覗き込んでいる。呆然としたままの僕に、彼女は続けた。
「本当はもっと早く来たかったんだけど、タイムマシンが初めてできたのが5年前で、しかもまだ100年しかタイムスリップできなくて。ちょっとずつ改良を加えて、今年ようやく、人間がタイムスリップできるようになったの」
ねっ、と笑って、彼女はフューを抱き上げた。欠伸をするように、ニャーと一声、フューが鳴いた。