第七話 盾の都市ガンリグオン
あれから俺たちは草原を進み、道中に出てくるモンスターを撃退しながら次に向かっている都市のガンリグオンの近くまでやってきていた。
きれいな緑の草原の中に灰色の城壁で囲われたその都市は、いかにも防衛能力が高そうな都市だ。
俺とドロシーはそんなガンリグオンの入り口に到着していた。
「やっとついた~! 冒険って大変なんだな~」
「結構歩いたから疲れたよね。この都市で休憩しよっか」
ドロシーは歩き疲れ、もう歩けませんと言った様子で地面に座り込んでしまった。
丈の短い白いローブから、その中の布地が見えそうになり俺は目を逸らした。
「と、とりあえず入ろっか」
俺たちが都市の入り口までやってくると、そこには大きな鉄の盾と甲冑を着けた門番が二人立っていた。
みるからに防御力が高そうだ。
「貴様たち、何用だ」
門番はガシャガシャと音立てながら俺たちの方へと体を向ける。
警戒しているというよりかは、近寄る者へは全員にそうしろと言われているようなマニュアル通りの対応に見える。
「僕たちは冒険者です。オルネス村から歩いてやってきました」
俺はまともな人間だということをアピールした。
するとドロシーが横で余計な一言を放った。
「ここを通さぬのならお前たちを私の大魔法で木っ端みじんにしてくれるぞ!」
「だ、大魔法だと!?」
杖を門番に向け、威圧している。
それを見た門番は驚いた様子で持っていた盾を構え、臨戦態勢になってしまった。
「あ、あぁぁすみません! この子まだ子供で! 言って良い冗談と悪い冗談の区別がついてないんです!」
「だ、誰か子供だ! 冗談なんか言ってな――」
俺は慌ててドロシーの口を手で押さえると、門番たちは不審に思いながらも持っていた盾をおろした。
「この街で悪さはするんじゃないぞ。もししたらスフィア家が黙っていないからな」
門番はスフィア家と言った。この都市のトップの家名だろうか。
俺はこれ以上ドロシーに余計なことを言われたくないので、彼女の口を押えつつ門番に会釈しながらそそくさと都市の中へと入っていった。
ドロシーはもごもごと何か言いたそうにしているが、無理やり連れて行った。
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「リーン! なぜ私の口を押える!」
都市ガンリグオンの中の建物はほとんどレンガで出来ており、厳重そうな建物ばかりだ。
そんな中、俺たちは入ってすぐにあった樽の横でドロシーをなだめていた。
「ドロシー、冒険するならあまり敵は作らない方がいいんだよ」
「ふむ、そうか。敵を作っているつもりは無かったが、気を付けるとしよう」
腕を組みながら納得してくれた様子で、ドロシーは街の風景を見渡しながらそう言った。
二つ目の都市にやってきたわけだが、ここでは何が起こるんだろうか。
そろそろダンジョンなどのクエストも受けてみたいのだが、この都市で受けられるのだろうかと期待していた。
主人公ならそろそろ最初のダンジョンに挑戦してもいい頃合いだろう。
俺の読んだ本ではそうだった。
そんなことを考えつつ俺も街の風景を見ていると、ひとりの女性が何者からか逃げてきている様子で走っているのが見えた。
「はぁ、はぁ! ここまで来れば大丈夫かしら……。本当しつこいわね~!」
赤いショートヘアーの彼女は小さな赤い盾を持ち、学校の制服のような白に赤の刺し色が入った鎧を身に着けていた。
俺と同じくらいの身長で胸はかなり大きく見える。
「ちょ、ちょっとあんた達! 何見てんのよ!」
俺たちが彼女の事を見ていると、それに気づいた様子で声をかけてきた。
「こっちで声がしたぞ! こっちだ!」
しかしその声を聞きつけ、奥から傭兵たちが彼女を追いかけてきているのが見えた。
「もう、また来たのね! ほんとしつこーい!」
そう文句を漏らす彼女は全速力で俺たちの方へと走ってきた。
「お、おいなんでこっち来るんだよ!」
「逃げる道にあんたたちがいるのよ~!」
「な、なんか楽しいな!?」
なぜか三人並んで傭兵から逃げる羽目になった俺たちは、適当に街の角をぐるぐると走り回り、裏路地へ逃げ込み傭兵たちをまくことに成功した。
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「はぁ、はぁ。一体何なんだよ!」
俺たち三人は息を切らしながら、裏路地で膝に手をついていた。
なぜ俺たちも一緒に逃げなければならないのだろう。
「ごめんなさいね、巻き込んじゃって。でもこれであなたたちも共犯よ?」
彼女は笑顔で恐ろしい事を言った。
確かに俺たちの顔は傭兵にバレている。追いかけられている彼女と共に逃げ回れば共犯に見えてもおかしくないだろう。
「おいおい嘘だろ!? なんで俺たちが共犯なんだ!」
俺が少し大きな声を立てると、反対側の道から彼女の名前を呼ぶ声が聞こえた。
『カルネス・スフィア様! 城へお戻りください! 外は大変危険です!』
今スフィアって言ったか?
俺はこの都市に入る前に言った門番の一言を思い出していた。
もしかするとこの女、スフィア家の一族か?
「なぁ、あんたスフィア家なのか?」
「えぇそうよ。スフィア家はこの都市で一番偉いの。でもそれのせいであたしはずっと城の中で育って退屈なのよね~。だから街の外のダンジョンへ行こうと抜け出してきてたの」
俺の聞いていない情報まで得意気にベラベラと喋り出す彼女は、口が軽いようだ。
しかし、国のトップと共犯ということは、俺たちは今非常にまずい状況に陥っている気がしてならなかった。
「リーン、私たちは犯罪者なのか……?」
普段のツンツンとした態度とは打って変わり、しおらしくなったドロシーがそこにはいた。
「大丈夫、きっとなんとかなるさ」
俺がそうなだめた瞬間、裏路地の角から急に傭兵たちが現れた。
「いたぞ! 捕まえろ!」
そう叫ぶや否や周りからたくさんの傭兵が現れ、俺たちは三人は確保されてしまった。
振りほどこうと思えば振りほどけるのだが、ここで騒ぎを起こすのはまずいと思った俺は大人しく捕まることにした。