第六話 大魔導士? ドロシー
俺たちは次の目的地へと向かい草原を北へと進んでいた。
オルネス村で貰っていた少し古びた地図を見ると、次は中規模の都市『ガンリグオン』のようだ。
地図の絵には盾のような紋章が書かれており、恐らくガーディアンなどの防御ジョブ特化系の都市という予想がついた。
黙々と歩き続ける俺とドロシーだったが、俺はドロシーについてもう少し詳しく知りたいと思っていた。
仲間になった以上、彼女の事をよく知ることは重要なことだ。
俺はドロシーのジョブについて尋ねてみることにした。
「ねぇ、ドロシー。とてもおしゃれな帽子を被ってるけど、魔法使いか何かなの?」
ドロシーは白い長髪を風になびかせながら、大きな黄緑色の魔導士帽子を被っている。
手には大きな木製の杖を持っており、先端には深い緑の宝石のようなものが付いていた。
「そうだ、私は大魔導士だ」
こちらを見ずに答えるドロシーは大魔導士だと言う。
大魔導士と言えばとても強力な魔法を使い、あたり一帯をクレーターのようにしてしまうと本に書かれているのを思い出した。
こんな小さな子が本当に大魔法なんて使えるのだろうか。
「それは凄いね! 本当に大魔導士なの?」
「う、疑っておるのか!? 私が小さいから嘘をついているとでも!?」
杖を両手で握りしめ、俺が疑ったことに驚いている。
俺は返答を間違ったかなと思いつつも、彼女は続けて話した。
「ならば! 私の力を見せようじゃないか! リーン、しっかりと見ておくのだぞ!」
そう言うとドロシーは草原の遥か先にいる、小さな二足歩行の茶色いオークの方を向き、魔法の杖を掲げた。
ドロシーが詠唱を始めると、彼女の周りに淡い緑色の魔法陣が展開され始めた。
しばらく経つと、オークの2メートルほど上にも同じような魔法陣が出現した。
「くらえ! サイクロン!」
ドロシーは叫び、杖を思い切り前に突き出し魔法を発動した。
サイクロンは風属性魔法の中でもかなりの上位にあたる魔法だ。
もしこれが使えるのなら、ドロシーは本当に大魔導士ということになる。
俺はドキドキしながらオークの方に目をやると、魔法陣からささやかな竜巻がオークを襲うのが見えた。
例えるならたまに街の中で起こる小さな竜巻のようなものだった。
――グオオオオ! ……オォ?
オークははじめは大ダメージを受けたかのような反応をしていたが、その竜巻が自分に危害を加えるものではないということに気が付くと、魔法を放ってきたこちらを見て突進してきた。
――グゴオオオォォォ!
「ど、どうしようリーン! ヤツには私の大魔法が効かないらしい!」
「今のが大魔法だったの!? ちょっとオーク気持ちよさそうにしてたけど!?」
慌てて杖を両手で握りながらこちらに助けを求める目で見つめてくるドロシー。
どうやらドロシーは魔法使いであることは確かの様だが、まだまだ新米のようだ。
俺は短剣を抜き、こちらに突進してくるオークと真っ向勝負することにした。
オークの棍棒を寸前のところで避け、背中へと回り込む。
棍棒が俺の靴をかすめると、かかとの部分が少し傷ついた。
そして隙だらけの背中に短剣を右肩の部分に差し込み、そのまま両断した。
――ズシャァァァァア!
オークはそのまま地面に突っ伏し、起き上がることは無かった。
「さすがリーン! 私のアシストのお陰でなんとかなったな」
「はは、そうだね。ドロシーは魔法使いなんだね」
「ま、魔法使いではない! "大"魔法使いだ!」
ドロシーは顔を赤くしながら反論してきた。
倒れたオークの杖でつんつんと突いているドロシーを横目に、俺は久しぶりに自分のステータスを確認すると、それなりにレベルが上がっていることに気づいた。
俺は今回、素早さを上げることにした。
先ほどの戦闘で避けたつもりがギリギリかかとに当たっていた。
これでもう少し俊敏に動き回ることが出来るだろう。
そして味方に新米とはいえ魔法使いが来てくれた。
最初は何も目指さないと思っていたが、まずは剣聖のように前衛を張れるようステータスを振り分けていこうと決めた。
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リーン・シュベルク
レベル 16
力 120
持久力 1
魔力 1
素早さ 30
運 1
スキル 火球Lv4
威圧←New!
―――――――――
「さ、行こっか」
「うむ!」
ドロシーはご機嫌な様子で俺の前を歩いた。
次の街では一体どんなことが起こるのだろうかとワクワクしながら、俺たちは気持ちいい風が吹く草原を進んでいった。