第五話 最初の仲間
俺は村長に伝えられていた通りに、家を出ると東向きに進んだ。
少し進むと服のマークが描かれた看板がドアの上から吊るされているのが見えた。
その看板はかなり古く、ボロボロだった為言われていないと気づけないようなものだった。
確かに、場所を伝えられていないとパッと見では分からないなこれは。
俺は少し緊張しながら仕立て屋の扉を開ける。
「おや?いらっしゃい! あんたがリザードマンを倒したっていう冒険者かい?」
カウンターの奥にはふくよかなママが服にアイロンをかけていた。
俺を見るや否やアイロンをかけるのをやめ、部屋の奥へと姿を消してしまい、奥の方でなにやらゴソゴソと物音がする。
「村長さんから聞いてるわよー! 村を救ってくれた冒険者さんの服装がみすぼらしいって! これ、用意したから是非着て行ってちょうだい!」
俺はみすぼらしい格好と言われたことに少し恥ずかしさを感じながらも、ママさんが用意してくれた服を手に取った。
紺色のジャージのような見た目だが、傍から見れば間違いなく冒険者に見える格好だ。
パリッとした生地は肌触りが心地いい。
「あらぁ! 似合うじゃない! 寝てる間にサイズ測っといてよかったわぁ!」
ん?今なんて言った?寝てる間に?
俺は少し鳥肌が立ったが、仕立ててくれたことに感謝し、俺はそそくさと仕立て屋を後にした。
「また来てね〜! かわいいおぼっちゃん!」
俺の背にママの声が聞こえると、俺の姿が見えなくなるまで手を振っていたらしい。
「さて、この村でのイベントは大体終わったかなー。そろそろ次の場所へ行ってみるか」
俺はそろそろ次に進む時が来たと思い、一応村長に挨拶だけしておこうと思った。
俺が村長を探して村を歩いていると、村の広場に村長とドロシーが話しているのが見えた。
なにやら少し揉めているようだ。
「村長ー!」
俺の声に気づくと二人はこちらを見て手招きしている。
俺はそれに答えるように小走りで向かうと、ドロシーと村長が揉めている内容がわかってきた。
「ダメじゃ! 村の外は危険がいっぱいあるんじゃ。かわいい孫をそんなところへは行かせられん!」
「なんでよ! 私はこの村を出たいの! もっと冒険したいの!」
ドロシーはぷりぷりと怒りながら村長を説得していた。
どうやらドロシーはこの村を出て冒険に行きたいようだ。
村長はそれを必死に止めようとしている。確かに村の外には魔物も多く、安全とは言いがたい。
「ドロシーはどうして冒険に行きたいの?」
また前みたいにツンツンされては困ると思った俺は優しく尋ねてみた。
「お前には関係ないでしょ!」
俺はどこで地雷を踏んでしまったのだろうか。
ドロシーは俺の問いにツンツンとした様子で返されてしまった。
すると村長がやれやれと言った様子で説明をしてくれた。
「いやぁ孫がリーン殿の活躍を影から見ておってのぉ。それを見て私もリーンと一緒に冒険に行きたいと言い出すんじゃ」
「お、おじい! なんでそれを言うー!!」
ドロシーは村長の腰をぽかぽかと両手でリズミカルに叩いた。
どうやら彼女は俗にいうツンデレというやつだろうか、素直じゃないところもかわいいと思ってしまった。
「そうだったんですか。もしお孫さんが冒険に行くというのなら、俺は命を懸けてお守りするとお約束します」
「ほ、本当か!?」
俺の返答にドロシーは明るい顔で俺の方を見ている。
どうやら俺が冒険に連れていくことを賛成したことがよっぽど嬉しかったらしい。
村長は少し悩みながらも、村を救った俺の提案に頷いた。
「リーン殿がそこまで言うのなら……ドロシー、あまり迷惑をかけちゃいかんよ」
「うるさい! むしろリーンが私の迷惑をかけないか心配しろ!」
「ははは」
ドロシーは相変わらずおじいに厳しい。
そして俺はいきなり最初の仲間が現れたことに少し驚いた。
こんなに早くとんとん拍子で仲間が出来たことに、主人公ジョブの凄さを感じていた。
ドロシーは昨日と違い、きちんとした服装をしている。
旅に出る準備も終わらせているようで、なかなかにしっかりものなのかもしれない。
「じゃ、これからよろしくね。ドロシー」
「ふん。よろしくしてやる」
相変わらずツンツンとそっぽを向いてしまうドロシーだったが、俺は初めての仲間に心が躍っていた。
村長はドロシーが村を出るということを村中に伝えると、俺たちを見送ろうとほぼ全員が村の出口まで来てくれていた。
「それじゃ、行ってきます! また機会があれば寄りますね~!」
俺とドロシーは村人たちに手を振り、オルネス村を後にした。