第三話 最初の村
あれから俺は森で襲い掛かってくるスライムを果物を切るような感覚であしらいつつ、オルネス村を目指して歩いていた。
序盤のスライムで得る経験値はもう雀の涙ほどしかなく、ここで狩りをする必要性はもうなかった。
「ふぅ、もうすぐオルネス村だな。……主人公の基本的な最初のイベントって何があったっけ……」
俺は家にあった一冊の本を思い出していた。
本の物語というのは、基本的に一人主人公がいる。
その主人公が仲間と共に強敵を倒していくというのがセオリーなことは、すでに本で知っていた。
その本の物語は王道なアクションもので、三人の仲間と数々のダンジョンや難関を超えて魔王を倒すというものだった。
「最初の村って大体雑魚モンスターを狩るお使いクエストだったな~」
でもこの世は本と違うんだ、と自分に言い聞かせながらしばらく歩くと、森の奥にオルネス村の看板が見えてきた。
森を抜け草原のエリアに出てくると、ようやくその村の全容が目に入った。
そこまで広くもなく、かといって狭くもないその村はいくつかの木造の建物があり、小奇麗な印象だった。
「ようやくついた~! じゃ、まずは村長に話をしてみようかな」
俺は主人公らしく、まずは村の長に話をすることにした。
まずは村長に話しかけないと物語は進まないからね。
「おお旅の者。よく来てくださった。ゆっくりしていっておくれ」
俺が村で一番大きな建物に入ると、如何にも村長というような見た目の長いひげを生やしたおじいさんが話しかけてきた。
「おじいさん! この村で何か変わったことはない?」
俺はこの村で何か手伝えそうなことは無いか、聞いてみた。
「おおそうじゃな、丁度困っておったところなんじゃ。最近村の周りにリザードマンが住みつきはじめてのぉ。村の者が山菜を取りに行くときに危険なんじゃ」
俺の想像通り、この村は一つの危機に瀕していた。
俺は待ってましたと言わんばかりにそのクエストを受けることにした。
「じゃあ俺に任せてよ! そのリザードマン退治、俺が退治してくる!」
「おぉ本当か。旅の者よ、ありがとう…… そうじゃ、孫にも挨拶していっておくれ」
そういうと村長は、部屋の奥に行き孫の名前を呼んだ。
「ドロシー! ちょっと出ておいて!」
部屋の奥から村長が戻ってきたかと思うと、後ろから白い長髪の小さな女の子が出てきた。
部屋着なのか、ダボッとした白いシャツを着ていた。
手にはなにやら水色のスライムのぬいぐるみを抱きかかえている。
「こちら、わしの孫のドロシーじゃ」
「よ、よろしくね、ドロシーちゃん」
「……あまり子ども扱いするな!」
子ども扱いされたことに少し機嫌が悪そうなドロシーは、ぬいぐるみを俺の方へと投げつけてきた。
「おわっと! 危ないよ、はい」
俺はそっとぬいぐるみを返してあげると、ぷいっとそっぽを向いて部屋の中へと帰ってしまった。
「おお、すまんのぉ。最近村にリザードマンが攻めてくるせいで機嫌が悪いんじゃった」
頭をポリポリと掻きながらとぼける村長だったが、これはまた一つのイベントだろうか。
もしかするとこのイベントを達成するとドロシーの機嫌が直るかもしれないと思た俺は、リザードマン退治へと向かった。