まだ顔も見ぬ姪っ子へ
どうやら君は、私の知らない間に、多くのことを経験したようだね。私の方が18歳上で、多くのことを経験しているはずなのに、経験値では、君に負けてしまったようだよ。まだ顔も見たいことのない、君と会いたい。話がしたい。色々語り合おう。人伝てで話を聞いている限り、君とは語れることが多そうだ。君と服を選びに銀座へ行きたい。どうせなら、みんなでランチやお茶をしよう。そして男衆も誘って、ディナーへ行こう。こんなにもしたいことがある。まるで定期テスト中の学生みたいだ。やりたいことが、たんまりとあるんだよ――
君の存在を知ったのが、1ヶ月前のことだっただろうか。来年の七夕は一緒に短冊でも書こうかなんて、気の早いことを思ったりしたよ。
なのに君は明日、空へ旅立つんだね。この世界の空気に触れてから早一日、君はおばさんの腕の中で事切れたと聞いた。明日、君が寂しくないように一緒に風船を飛ばそう。この世の穢れをまだ知らない無垢な白装束を身につけた君に、この世の中というものを一つ教えよう。なに、まだ18年しか生きていない私の教えだ。そんな大したものではないさ。誰人もいつかは気付く至極普通なことだよ。
誰も責められないよ。君の死因は、遺伝的な問題で、世の中は君の両親のことを責め立てるかもしれない。だが、本当は何が原因かなんでわからないんだよ。自分達の配偶子がと君の両親が自分のことを責めることも、まして他人が本人達を責めるなんてこと許されないんだ。はっきりとわからないことは、誰の責任でもないんだよ。はっきりとわかるようになり、それが当然となってから、初めて責めることができる。
さて、私が死んで私の子供も孫も死んでやっとこさ、遺伝的な問題が完全に解明されたとしよう。それでも、誰も責められないよ。歴史を責め立てることはできないからね。世の中、まだまだ、仕方ないで済まさなにゃならんことが沢山あるんだよ。
まだ顔も見ぬ姪っ子よ。安らかに
私の姪っ子は、先日、1日と言う早さで、この世を去りました。