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旅の終わりは

 後日、王都には紙吹雪が舞い続け、音楽が天まで届けられた。

 そう、シドニスとリーナの結婚祝いである。


 実に五日間にわたる祝いで、それはまさしく歴史上最も長い祝日となったのだとか。

 まあともかく、オレの知る戦勝の祝いよりもなお長い日程で、国を挙げて祝われた勇者と聖女の結婚式。


 それは国内外に広く知られて、シドニスとリーナは夫婦になったことを……少なくともセルトール王国民には伝わったはずだ。


 リーナはこの時のことをのちに、

「確かに大変だったし、長いのも事実だけど……やって良かったなって今でも思ってるわ。だって私とシド君の繋がりを、沢山の人に伝えてくれたんだもの」


「そういえば昔、雪月(ゆづき)ちゃんがガラドとキスしたこと自慢してきたわよね? 結婚式の時、私もそれわかっちゃった。好きな人と結ばれたことって、叶うなら沢山の人に知ってもらいたいわよね」

 と語っている。


 シドニスが何を語ったのかは……たぶんガラドが聞き出してるかもな。




『勇者シドニスと聖女リーナの結婚式』


 これが、魔王軍との戦いを終えたオレたちを迎え入れた到達点。


 幸せの終着点。


 全国民に祝われた……まあもしかしたらシドニスのこと密かに好きだった奴とか、リーナのことを……って奴もいて、そいつらはハンカチを噛み締めていたかもしれないけど。

 そこは今は考えないとして……ともかく。


 これがセルトール王国の歴史上、最も盛大に長く祝われた結婚であることは間違いない。


 オレたちの戦いは終わりを迎えた。

 戦いにおいても、その後の結婚においても、沢山の障害を乗り越えて。


 オレたちは最高の結末に辿り着いたんだ。


 多くの人が、祝杯に酔いしれ。

 多くの人が、音楽に身を任せ。


 そして最も多くの苦難を乗り越えた勇者パーティの面々は、それぞれが望む相手との結婚を果たした。



 旅の終わりは大団円。

 これ以上ないほどのハッピーエンド。


 魔王軍との戦いの過程で失われたものは、確かに多いけれど。

 その果てにオレたちが勝ち取った平和には、未来には、きっと……間違いなく。


 何と比べても負けないほどの価値があるから。

 この平和と共に生きてゆく。この未来を抱いて、生きてゆく。



 そして、戦いの話には必ず……後日談が付き物だ。


 〜〜〜〜〜〜


「ほらほらー! どうだ!」

「「きゃー!」」


 ガラドの声を皮切りに、二人の子どもが歓声を上げる。

 ガラドの逞しい腕にしがみつきながら、振り回されて楽しそうに喜ぶ子どもたちの声に、オレの方まで嬉しくなってくる。


「ウォルガ、卯美(うみ)。ケガしたらすぐに言うんですよー?」

 ただそんな中でケガをしてしまえば、楽しい雰囲気も台無しになってしまう。

 そのため五歳の長男ウォルガと、四歳の長女、卯美(うみ)に声をかけた。


「「「はーい」」」

 なんで声が三人分なんだよ。


「お父さんはケガさせないように、気を付ける方だぞ?」

「おう、任せろ!」


(まああいつの身体能力なら、ケガする前になんとかできるだろ。…‥たぶん?)

 ちょっと不安を抱きつつ、オレとガラドの間に生まれた長男と長女は、再度楽しげな声を響かせた。


 ちなみにガラドのおばあちゃんが兎人族だから、卯美(うみ)はそれに似たらしい。大きな耳が可愛らしい女の子だ。


「奥方様? お言葉遣いが乱れておりますよ。語尾がくだけてしまっています。それにお父さん、ではなくお父様。もしくは旦那様、あなた様と呼ぶようにお気を付けくださいませ?」


「はい、アンヌさん」

「メイドにさん付けはおやめくださいませ? まあ、人の目が無ければ……構いませんが」


 アンヌさんも大概オレに甘いよなと思いつつ、笑みが溢れる。

 ……王城勤めの侍女だった彼女が、現在オレの……いや、ガラドの元で働いているのは、とある理由がある。そしてそれが、アンヌさんがオレに厳しくない理由でもあった。


「まあアンヌ先輩ったら! (わたくし)の時は、人の目があろうとなかろうと……と言っていたではありませんか! 奥方様を甘やかすのはいけませんわよアンヌ先輩?」


「マリア、奥方様の前でそのような冗談は控えるように。それにアンヌが奥方様に厳しくない理由の全ては君だぞ?」


 それがこの二人だ。

 仲良くお話をするメイドと執事。


「アモン先輩まで(わたくし)を蔑ろにいたしますの? 奥方様、新人いじめがひどいですわ。(わたくし)早く一人前のメイドになりたいと、日々精進しておりますのに……慰めてくださいませ」


「おーよしよし……」

 求められるがままに、オレは新人メイドのマリアの頭を撫でる。


「さあ見ましてアンヌ、アモン? (わたくし)奥方様のお気に入りのメイドですから、あまり歯向かわないように」


「「先輩、ですよ?」」


「はい……」


 三人の息があった会話劇に、オレが小さく笑みを漏らしていると、抱いていた赤ん坊が泣き出してしまった。

「あらまあ、そろそろご飯のお時間でしょうか。アモン先輩、見てはいけませんよ? ロア様と一緒に離れていてくださいまし?」


「わかりました。いきましょうかロア様?」


 メイド二人はすぐさまオレを囲ってくれて、執事アモンは二歳の次男ロアを連れて庭で遊ぶガラドたちの方へ歩いていった。


 そしてオレは産まれたばかりの次女、美虎(みこ)の昼食の準備をする。


 うん、子沢山。

 まあ貴族は子どもが多い方がいいって言うし? みんな大切な子だから、産みたいんだ子宝。なんか語呂いいな。


 まあガラドがオレのことを好きすぎるせいだなこれは。

 決してオレのせいじゃない。断じて。


「奥方様、本来であればこのような仕事は」

「何度も聞きましたよアンヌさん。でもガラドとの子に、他の誰かが乳母として……なんて」


「奥方様? 殺気……漏れてますわよ?」

「漏れてませんよ、パールマリ……」


「マリア、ですわよ奥方様。今の(わたくし)はただのマリア。なにせ真珠は、素敵な怪盗様に盗み出されてしまったんですもの……」


 マリアさんの目線は、次男のロアと遊ぶ……執事アモンへと向けられる。


「あーまた始まりますよ奥方様。止めてくださいませんか」

「マリアさん? またその話をするなら……今度はオレとガラドの馴れ初めを、じっくりたっぷりと聞いてもらうことになります」


「ええぜひ! (わたくし)興味がありましたの! 奥方様と旦那様の恋物語に!」


「逆効果ですね……昔からこうなんですか?」

「ええまあ……おてんばで好奇心旺盛、じゃじゃ馬なお姫様でしたよそれはもう……」


 侍女アンヌの嘆息は、庭に響き渡る笑い声にかき消されて……


 オレはこんな光景がすごく特別に思えるけど、きっとそうじゃない。




「つまり商人にとって最も大事なのは……」

「信頼、ですよね? お父さんのその話を何回聞いたと思ってるのさ?」


 この国のどこにだってありふれた、普通の光景なんだと思う。



「助手君? メシできたっすよー?」

氷鷹(ひだか)さん。いつまでその呼び方を……」


「おっとそうっすねレミオ君。ついつい昔の癖で……」


 大切な人と過ごす、大切な時間。



氷奈(ひな)……お疲れ様」

「ええ、あとでちゃんと労ってもらうわ」


「あらー元気に泣くわねこの子! 本当に可愛いわ! そういえば聞いた? 雪月(ゆづき)ちゃんはもう四人めですって! うちの宿に泊まってったのが昨日のことみたいに思い出せるのに、時が経つのって早いわねー」


 今日もどこかで、小さな希望が産声を上げている。



「お母様がお手本を見せてあげる。いい? 魔力の操作は糸を撚り合わせる感覚よ。まずは指先から……」


「奥方様、そのようなことは家庭教師に……」

「へー? 私より魔法が上手い家庭教師っているの? うーん…… 雪月(ゆづき)ちゃんくらいじゃない?」


「リーナ、あまりメイドさんを困らせてはいけないよ?」

「はーい」


 その小さな希望の積み重ねが、平和を紡ぎ出す糸になってゆく。



美虎(みこ)? お腹いっぱいになりましたかー?」

「大丈夫のようですね。奥方様、あとはお任せください」


「ありがとうございますアンヌさん」

「いえ、礼など…… 美虎(みこ)様は本当によく眠りますので手がかかりません」


雪月(ゆづき)ー!」

「「お母様ー!」」


「ちょうど呼ばれておりましてよ、奥方様? この新人メイドにもお仕事をいただいてよろしいでしょうか?」


「じゃああの子たちの相手を、一緒にお願いしますマリアさん。……今行きまーす!」


 これは、一度は勇者パーティーを追放されたオレが、女になって出戻る話。

 そして、その後を書き記す冒険譚。


 だからこの先はない。冒険でもなんでもない、ただの日常しかないのだから。

 きっと他の人から見れば、退屈で平凡な毎日の連続。


 でもそれでいい。それがいい。

 オレとガラドが紡いだ糸が、これから先も幸せな日々を送れますように。



 ただそれだけが、今のオレの希望(のぞみ)だから。

 完結。

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