猛虎と聖剣
「ガラドは驚かねえのか?」
「先に聞いてたからな」
オレの疑問に、ガラドの即答が返ってくる。
そういや王都で二人と再会した時、オレとリーナが会話を終えて戻ったタイミングで「シドニスも色々考えてんだな」みたいなこと言ってたな。
(って、ん? ……あれ魔王を倒す前だったよな?)
オレとリーナが告白の約束をした時、リーナはシドニスが王女を拒めないと言った。
そこに自分のロクスロード家が介入する可能性を一度も言わなかった。なぜならリーナはシドニスと両想いであるという確信がなかったから。
だがシドニスはさっきの話を、魔王討伐の前にガラドに話していたことになる。
シドニスとリーナが結ばれるのを前提に、国王が引き裂くのは現実的ではないという話を。
リーナはその可能性を考えず、シドニスはそれを前提に話していた。
「ってことは、シドニスはリーナの想いに気付いてたのか?」
「……まあね」
「いつから?」
「子どもの頃から色々と贈り物をもらったりしてたから、もしかして……って。あと騎士養成校で家じゃないからタメ口で話してって言われたのが気付いた理由かな?」
だがオレはシドニスとリーナは互いに両想いである自覚がないと思い込んでた。
「じゃあなんでリーナの想いに気付かないふりをしてたんだ?」
そこが今ひとつわからなかった。別に隠す必要はないと思うんだが……
「僕が下級貴族で、リーナにとって使用人の立場だから……伝えても意味がないんだ。伝えられても、応えることができない」
なるほど、いずれリーナは家格に見合った男と結婚するから、伝えることに意味がないと。
「だけど魔王討伐を果たして、僕の家が格上げされれば……その限りじゃない」
「魔王をぶっ倒すまで隠してたってことか。……じゃあシドニスが魔王を倒すモチベって、リーナに見合う男になるためだったのか?」
オレが問うと、シドニスは目線を逸らしつつ、
「まあ他にも理由はあるけど……一番大きいものは、そうだね」
と恥ずかしげに答えた。
「ほー、魔王を倒す理由がリーナと結ばれるために……だったとはな。おい聞いたかリーナ? 愛されてるなぁ」
オレの声に、またしても聖女様の返答はなかった。
「私のために……うへへぇ……」
……オレは顔に出るタイプだが、リーナは声に出るタイプなんだろうか?
「メスの顔してるぞ?」
「め、メスって言わないで!?」
二回目の反撃完了。
やばいこれ楽しい。リーナがしつこく言ってきた理由がわかったかもしれない。
「ま、俺にはお貴族様のクソ面倒なあれこれはわからんが、どうにかなりそうで良かったぜ」
「だな。リナトーの第一皇子なんて思い出したくもねえぜオレは」
「いや二人も今後こっちの仲間入りするんだからね?」
「まあ僕らでできるフォローは最大限するつもりだから、いつでも頼ってほしい」
「頼りにしてるぜシドニス様?」
「ガラドはまず文字の読み書きをちゃんとするところから、だろうが」
「そこは雪月頼みだ!」
「自分で解決する気無いの!? この筋肉バカ!」
「お、オレは別に頼ってもらってかまわねえけど……?」
「あ、メスの顔」
「メスって言うな!? さっきの仕返しかリーナ!?」
「ええそうよ? シド君の前で言わなくても良かったでしょ! 仕返しくらい許してよね!」
「お前だって何回も言ってきただろうが!」
「ガラドの前では言わないであげてたでしょ!?」
「今言ったじゃねえか!」
「なによ!」
「なんだよ!」
「ガラド!」「シド君!」
「「どっちの言い分が正しい!?」」
「雪月」「リーナ」
「「……は?」」
「おいシドニス……? 俺の女に文句つけるつもりか……?」
「ガラドの方こそ、僕のお嫁さんが間違ってるとでも……?」
「お、俺の女って……大きい声で言うなよ、もう……」
「僕のお嫁さんだなんて……気が早いわよシド君……」
……
「……よし、お互いにもう言わねえことにするか」
「気が合うわね雪月ちゃん。和平成立よ」
「おもて出ろシドニス……久々にキレちまったぜ……」
「近くに騎士のための訓練場がある。そこにしよう」
「おいガラド落ち着けって……こっちはもう納得して」
「悪い雪月。惚れた女を馬鹿にされて黙ってるような、だせえ男にはなりたくねえんだ」
「は、はい……」
「雪月ちゃーん!? まるで虎に睨まれた子兎……!? くっ……こうなったらシド君だけでも……! シド君、冷静になって? ガラドと今戦う理由なんて」
「リーナ……君が見ていてくれるなら、僕は絶対に負けないから」
「は、はい……」
かくして行われた勇者パーティ最後の模擬戦闘訓練。
居合わせた騎士たちは二人の実力を口々に賞賛し、セルトール王国の未来は明るいと、確信を得たのであった。
『まさか噂に名高い勇者パーティの、シドニス殿とガラド殿の手合わせを拝見できるなんて……感無量です!』
『カタウ団長と第一大隊を失った私たちに、まさに希望を見せていただいたような……そんな気がいたします!』
『ただその……リルフィーナ様と雪月殿はなぜ放心状態なのでしょうか?』
のちの世に「セルトール王国に、猛虎と聖剣あり」と謳われるに至った二人の激突。
その原因が明かされることは、ついぞなかった。
会話劇って一度やってみたかったんですが、どうでしょうか?




