罪と弁護と裁判と
「ご、ごめんガラド……」
「気にすんな。にしても噂ってすぐに広まるな。昨日の今日だぞ?」
次の日。オレはガラドに謝罪していた。
もちろんアレは誤解ではあるが、全くの嘘というわけでもない。
オレが長いキスの果てに気絶してしまい、ガラドは眠ったオレをアンヌさんに任せてリナトーの第一皇子と話をしに行った。
現場に残されたのは汗だくのまま眠るオレ。そして第一皇子に「俺の女に近づくな」と言い放った、ガラドの怒りに呑まれた姿。
それらの情報からリーナとアンヌさんが……その、オレと……が、ガラドが……そういう、ことをシたんだろうと思うのは無理もないことだった。
「オレ……きき、キスした時のことを聞いてきてると勘違いして……めっちゃ話したくて……」
「だから、気にすんなって。俺もやりすぎたしな」
「やりすぎたって…‥何を?」
「お前が気絶するなんて……思ってなかったんだ俺は」
ガラドが申し訳なさそうに頬を掻きながら言い訳をする。
そのせいでオレはまた昨日のことを思い出して鼓動が早くなってしまった。
「ガラドは悪くねぇって……お、オレは別に激しくされて嫌だったわけじゃ……ねえし……」
「お、おう……悪かった……」
「だから、謝んなって……」
オレとガラドの間に、妙な雰囲気が漂った、その瞬間。
「え、何? これからする感じのやつ? 私、部屋出てよっか?」
「リルフィーナ様、どうか刺激しないでくださいませ!?」
弁護人が割って入り、被告人がそれを嗜めた。
ことの発端は昼のこと。
オレとガラドの噂が王城を駆け巡っていることを知り、オレが話したのはリーナとアンヌさんだけと証言した。
だがリーナは上級貴族の娘であり、魔王討伐の立役者の一人。
王城に勤める者とはいえ、易々と世間話をできる相手ではない。
つまり噂の発信源はアンヌさん以外にありえない。
オレたちはそう結論づけて、二人をここに呼び出した。
「も、申し訳ありません! その当時、なんの仕事をしていたかをメイド長に聞かれてしまい、誰も私の姿を見なかったことから、仕事をせずにフラフラしてたのではないか、給金を下げてもいいんですよと……そ、それで事情を話さないわけにもいかず……」
「裁判長! アンヌさんはこの通り深く反省しています。それにこれは己の従事した内容を明確にするため、メイド長の圧力によって自白しただけです」
被告人の事情を、弁護人が後押しする。
……
「裁判長?」
…………
「シドニス裁判長?」
「あっ、これ僕も巻き込まれるやつなんだ?」
裁判長は読んでいた本を閉じて、オレたちを見回した。
「えーっと、では被告弁護人。被告には一切の過失がないと言うのですね?」
あ、ちゃんとやるんだ。
声もちょっと厳かな感じ出してやがる。割と器用なのか?
おい笑うなアンヌさん。あんたが被告人だぞ。
「はい、彼女は自身の責務を全うしたにすぎず、これを責め立てることは合理的でないと判断します。裁判長……私は彼女の無罪を主張します」
「リルフィーナ様……いえ、リーナ様……!」
「任せてアンヌさん、私が無罪を勝ち取ってみせるわ」
勝手に盛り上がるなそこ。自然と愛称で呼んでんじゃねえ。
つかお前が始めた物語だろ。勝手に始めて勝手に勝とうとするな。これ自作自演ですよ裁判長。
「では原告。彼女の主張に何か意見はありますか?」
「続けんのかよ」
オレに向かって話を続けようとした裁判長の、あまりにも自然な言葉に思わずツッコミが出てしまう。
「っふふ……」
そしてアンヌさんの笑みが溢れた。昨日の積極性もそうだが、結構陽気な人なんだな。
「被告。私語は慎むように」
お前もかなりノリ良い方だよな裁判長。板についてるぞその役。
原告ってオレのことだよな? この流れは。
「あー……裁判長。被告は一つ隠しています。それも重要な情報を」
とりあえず乗っかっておくか。楽しそうだし。
裁判ってこんな話し方でいいんだよな?
と思いつつ発言すると、弁護人から声が飛んでくる。
「意義あり! 彼女に隠しごとなんて」
「弁護人、発言は挙手をしたのちにお願いいたします。原告、発言を続けてください」
シドニスー? お前いつ勇者から裁判長にジョブチェンジしたんだ?
もう本職だろその雰囲気。勤務何年目だよ。
ああほら、アンヌさんが声も出さずに崩れ落ちた。真面目なやつのおふざけほど面白いものってねえんだよな。
「原告?」
「っはい! 被告人の隠しごとは、仕事の内容を事細かに説明する理由がないことです」
オレが発言をすると、アンヌさんがぴくりと反応する。
やっぱ図星か。
「それだけではわかりませんね。詳しい説明をお願いします」
リーナもなんかそれっぽいんだよな。なんなんだこいつら。
心の中での疑問はとりあえず後で聞くとして、オレは弁護人の問いかけに答える。
「アンヌさんはその時のことを「ガラドに部屋の掃除を頼まれた」とでも言えば良かったのです。そして後でメイド長にバレてしまわないよう、ガラドに口裏を合わせておくよう頼めば良かった」
オレの言葉にアンヌさんがハッと気づく。いや遅えよ。
とはいえこれでオレの勝ちだ。決め台詞はきっぱり言い切らないとな。
「だから……おお、オレとガラドが……クスしたなんて、詳しく言わなくても……よ、良かっただろ……」
最後まで演技するのむずすぎるだろ。
つか、セ〇〇〇って単語言うの……なんか恥ずかしいな。リーナと二人の時は軽く言えたのに。
シドニスがいるから? それともアンヌさんがいるから?
たぶんどっちも正解だけど……一番大きな理由は、もう自覚してる。
オレの近くにいま、それが冗談にならない人がいるから。
軽々しく言えないほど、重くて想い言葉になってしまったから。
や、やばい。なんか変な空気になってねえかこれ?
「が、ガラド……」
助け舟を求めてオレが恋人の方を見つめると、なんだか怒ったような嬉しいような目元をオレに向けて、
「お前それ、ほんとマジで……やめてくれ。いや雪月が悪いわけじゃねえんだけど、俺の問題なんだけどやめてくれ」
口元を隠して発言する。
「そ、それってなんのことだよ……」
だがオレに思い当たる節はなく、ガラドの言葉の中に靄を見つけたオレはそこを言及する。
「無自覚かよおい……!」
「それは流石に罪作りですわ雪月様」
「ああもう閉廷閉廷! とりあえず雪月ちゃん有罪よ」
「裁判長は僕のはずなんだけど……」
オレの発言を皮切りに、みんなが一斉に話し出す。
それに文句の一つでも言おうかと思ったが、たぶん誰もオレの味方をしてくれないだろうと思って、結局やめた。
それってなんだよ。
明日から正午更新にします。




