女三人。姦しい
「……という……でここからがもっと……」
「……ええ……まあ!? そ、それで……」
「……っていうか……キスでこんな汗だくに……?」
「……そうですよね! ということはつまり……?」
「んん……?」
(なんだ? なんか声が聞こえてくるような……)
オレはその誰ともわからない声によって、眠りから覚めていった。
(いやわからなくもない……か? 女の人の声だ……片方はリーナで、もう片方は……知らない声……?)
少しずつ正常な機能を取り戻してゆく脳みそで、声の主を理解しながら瞼を開けてゆく。
「め、目覚めました! リルフィーナ様、雪月様が起きましたよ!」
「わー……どうしよう。まず何から聞けばいいのかな? 雪月ちゃん、聞こえてる?」
どうやら横向きに寝ていたみたいで、オレが開いた目にはメイドさんとリーナが映り込む。
……なんで興奮してるんだ二人は?
「……おー、聞こえてるぞ……? ってうわ、汗すごいな……」
オレは体を起こしながら、まだ力の入らない喉を無理やりに動かしてリーナの言葉に返事をした。
ベッドに手をつくと、オレのものかガラドのものか判別のつかない汗があたりを濡らしていて、あまりの濡れ方に驚いてしまう。
(気づかなかった……き、キスをしている時は、ガラドに夢中になっていて……ベッドがこんなになってるなんて……)
オレとガラドの汗が、ベッドに広がって一つに混ざっていることが……なんだかとても嬉しいことのように思えてしまい、思わず笑みが溢れてしまう。
「リルフィーナ様……!? こ、この意味深な笑みはまさか……!?」
「絶対そう……! 行くところまで、ってヤツのあれよ……!」
二人して何をコソコソ話してるのか聞こえはしないが……まあとりあえず着替えとくか。濡れたまんまじゃ気持ち悪いもんな。
オレが着替えを終えた後、汗を流しすぎたせいで渇いた喉を潤していると、リーナがオレに声をかけてきた。
「その…… 雪月ちゃん。き、聞きたいことがあるんだけど……」
どこかよそよそしいその言葉に、けれどオレはもっと気になることがあり質問をする。
「待ってくれ、先に聞きたいんだが……が、ガラドはどこにいるんだ……?」
ただ名前を呼ぶだけなのに、つい先ほどしっかり互いの想いを確認した弊害だろうか。ガラドのことを意識するだけで、少し言葉がもたついてしまう。
「あっ……! そ、そうよね。まず先にそこだよね」
そこからオレは、寝ていた間に起きたことをあらかたリーナから聞いた。
「そうか……ガラドはオレのために……」
オレに絡んできたリナトー皇国第一皇子に、ガラドは話をしにいったらしい。
そしてオレをリナトー復興のために利用しようとしてたことを知り、危うく第一皇子を殺してしまうところだったんだとか。
「……ガラドは割と冷静なとこあるからな。きっと仕返しされない程度に脅すだけのつもりだったんだろ」
ガラドがオレのために怒っていたということを知って、口角が上がりそうなのを隠すために口を動かしていると、リーナからツッコミが飛んでくる。
「いやあれ殺す気だったわよ。私とシド君が止めなかったら絶対」
そうか、そんなに怒ってたのか。
「にやけてるわね」
「にやけてますわ」
……うすうす勘付いてたけど、オレはどうやら感情が顔に出るタイプみたいだ。
「…‥んで、聞きたいことってなんだよ」
「話題を逸らしたわね」
「話題を逸らしましたわ」
リーナとメイドさんの息のあった連携攻撃がオレを責め立てる。
ここって戦場だったのか?
「まあいいわ。私が聞きたいのは……その、えーっと……なんて聞けばいいのかな……?」
「リルフィーナ様。こういうのは知人友人よりも、私のような立場の方が聞きやすいかと存じます。お任せくださいませ」
「アンヌさん……!」
リーナとメイドさん……アンヌさんのやりとりはどこか浮ついたように見えた。
「初めまして、雪月様。私は王城で侍女として働いております、アンネローゼと申します。どうかアンヌとお呼びください」
アンヌさんは自己紹介を終えた後、しっかりとした話し方とは打って変わってオドオドし始める。
「それで……その……私はガラド様の言いつけにより、雪月様を見守らせていただいたのですが……」
「頑張ってアンヌさん!」
「んっん! こ、この部屋で、何があったのか……お伺いしてもよ、よろしいでしょうか?」
二人して興奮した様子で、オレに近づいてくる。
二人ともオレより身長が低いが、なぜだかすごい圧力を感じた。
「何がって……その、が、ガラドの告白に……ちゃんと返事を……」
気恥ずかしさを覚えつつもなんとかそう説明すると、二人は首を横に振る。
「そ、そうじゃなくて! ガラドが言ってたの、俺の女って! だから告白したし、二人は恋人になったのは知ってるの!」
「そ、その後でございます! その先でございます!」
お、俺の女って……ガラドのやつ、浮かれてたのか……? ま、全くしょうがねえやつだなぁ……。
「あー! またメスの顔してる! 絶対そう! これは確実よアンヌさん!」
メスって言うな。
「ま、まだ早計ですわリルフィーナ様! 雪月様!? ありますでしょう? 恋人同士になった男女がすることが!」
アンヌさんも同じように興奮しまくっている。
なんか似てるなと思ってたが、これあれだ。雪の里にいた恋愛狩人の勢いに似てるんだ。
女ってみんな恋バナが好きなんだな。
とはいえ、
「恋人になったらすること……か。……あっ」
アンヌさんの言葉を反芻しながら思考回路を動かしていると、思い当たることが一つ、あった。
「ど、どうなの!?」
「ど、どうでしょうか!?」
恋人同士になった男女がすること。
神の前で結婚を誓い合う神聖な行い。
二人はきっと、ガラドから聞いてるんだ。
オレたちがキスをしたって。
(もちろん、恋人になれば誰でもすることだけど……メイドさんにまで言いふらすなんて、が、ガラドのやつ……相当舞い上がってるみてえだな)
とかなんとか思いつつ、オレもどうやらかなり浮かれているみたいだ。
だって……
話したくて仕方ないんだから。
「したっていうか……その、だ、抱き上げられて……」
「抱き上げられて……?」
リーナがごくりと生唾を呑み込む。
「べ、ベッドの上に優しく下ろしてくれて……」
「おおお、下ろしてくれて……?」
アンヌさんの額から一粒の汗が流れる。
「さ、された……感じ……っつうか?」
「「きゃあああぁぁぁぁぁ!!」」
二人の声が同時に上がる。
もはや悲鳴に近いそれは、興味と興奮に塗れていた。
「そそそそそ、それで!? 初めては痛いって聞くけど……」
痛いってなんだよと一瞬思ったが、ガラドは獣人族だ。牙が唇などに当たったら痛くもなるか。
キスが下手なら血が出てもおかしくはなさそうではある。
「いや、あんまり……が、ガラドが優しくしてくれたから……かなぁ?」
再度嬉しそうな悲鳴が上がる。
なんだかオレも楽しくなってきたな。
「そ、その! 詳しく聞くのははしたないと重々承知の上ですが……ど、どのような感覚なのでしょう?」
アンヌさんも、前屈みになりつつ、オレに聞いてくる。
「最初は、えと……ドキドキしすぎて心臓壊れるんじゃないかって思って……」
ごくりと生唾を呑み込む音が聞こえる。今度はどっちからなのかわからない。
「鼓動がすごくて体が揺れてるみたいに思うのに、目線だけは……ガラドを見て動かせなくて……」
汗が流れて落ちてゆく。さっきのことを思い出して……ドキドキしてたまらなくなる。
「ガラドが好きだって……可愛いって言ってくれるたびに、嬉しさが止まんなくなって……」
ダメだこれ、止まらない。話してしまいたい。
ああそうか。オレはガラドにこんなにも愛されているんだぞって、あらゆる人に自慢したいほどの愛情を受け取ってしまったから。
誰かに話さなきゃ……きっと大きすぎるガラドの愛情に潰されてしまうから。
「それでその、呼吸が荒くなっていって……最終的に気を失った……感じ、だな」
外からはガラドの愛情をたくさん受け取って。
内側からは嬉しさが込み上げて止まらなくて。
それに挟まれたオレが潰れないように、ガス抜きしておかなきゃいけないんだ。
だから、オレがガラドに愛されてる証明とか、オレがガラドの恋人になった証とか……そういうものとして。
あらゆる人に知って欲しいんだ。
あらゆる人に祝って欲しいんだ。
ガラドとオレが恋人になったことを、叶うなら、全ての人に。
その後「オレとガラドが気を失うまで激しく愛し合ったらしい」という噂が爆速で王城に広まった。
愛して……うんまあ、間違っちゃいないが、ちょっとニュアンス違くねえか?
めっちゃ汗かいた理由は体温差です。
雪月は雪人族なので体温が低く、ガラドは獣人族で運動能力が高く、それに伴い体温も高いです。
雪を溶かすのは熱い愛情なのですわ!
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