月は虎を受け入れる
このシーンが書きたくてたまんなかったぜ俺ぁよお!!
「あ……」
返事を聞いたガラドはまるで羽でもつまむかのように、軽々とオレを抱き上げてスタスタと歩き……
ゆっくりと優しくオレを……ある場所へ下ろす。
オレの背中に伝わるのは、柔らかな感触。
言わずもがな……ベッドの上。
心臓が破けてしまうんじゃないかと思うほど、鼓動が高鳴る。
ドクンドクンと、血液を運ぶ音が脳みそまで響いてしまい、視界が揺れているかと錯覚してしまう。
でもオレの目線は……覆い被さるように見下ろしてくるガラドの顔から、一ミリもずらせなくて……
「……いいか?」
ガラドの口からオレの耳へ速達で送られる、短い問い。
いつもだったら主語のないそれを、軽口を叩きながら笑い合うのがオレたちだ。
でもそのたった一つの単語による問いかけを、この状況で……どうやったら勘違いできるのか、オレにはわからなかった。
心臓がうるさすぎて、ドクンドクンと高鳴る鼓動がオレの喉を狭めてしまって……応答することが難しい。
(あ……ガラドの落ち着いた声が…‥なんか……)
いつもふざけたり大声で笑っているから、気にしたことはなかったけど……こうして聞くと、低くて格好いい声質をしてるんだな。なんて、今は関係ないことを考えてしまうのはどうしてなんだろう?
やばい。何に対しての問いなんだっけ?
触れてもいいか? って意味?
抱きしめてもいいか? って意味?
キスしてもいいか? って意味?
(それとも……)
もしかしたら……そのさらに先のことをしてもいいか? って意味なのかもしれない。
『行くところまで行っちゃったのかと思ったのに……』
というリーナの声が思い出される。行くところっていうのがどういう意図を含むか知らないほど……オレは子どもじゃないつもりだ。
「ず……ズルだろガラド……」
「ん?」
色んな可能性を考えた結果、オレの口から飛び出したのはガラドへの抗議だった。
だって……
「オレがダメって言えないの……わかってるくせに……」
オレにはもう、断る選択肢なんて……あるわけがないんだから。
ブチィッ!!!
なんかさっきよりでけえ音したな?
「雪月お前本当に……っ! 俺がどんだけ我慢してきたか、わかってんのか……!?」
「なに言って……んむ!?」
怒ったような、でもどこか吹っ切れて嬉しそうなガラドの言葉に、疑問を投げかけようとしたオレの口は……動かなかった。
なぜならオレの口は、虎の噛みつきで塞がれてしまったから。
(あ……っ! これ、キスされて……ん!?)
あまりにも遅い気付きと同時に、オレの脳内を多幸感が包み込む。
世界で一番大好きな人との口付けのせいで、オレの心を幸せで覆い隠してしまっているみたいだ。
もう正常な思考回路は一つたりとも残っていない。
あるのはただ、幸福と快楽の海に沈んだ、オレの意識のみ。
オレの口内を蹂躙する虎の舌。それがくれる幸せと悦び。
「……っ、あ……! ふ……ぅぁ……!?」
何も考えられない。何もわからない。呼吸さえ覚束なくなるほどの連続攻撃が、オレの感覚神経を直撃して修復不可能なダメージを与えてくる。
オレが恋心を自覚してから、何度もガラドに触れて、その度にこの想いは膨れ上がっていった。
でもこれは……そんなのが小さな出来事に思えるほどの破壊力を持っていた。
オレは確か自分の恋心を、ガラドから与えられる栄養を貪欲に食らう底なしの欲求だと、思っていた。満たされることなく……際限なく肥大化する感情なんじゃないかと。
でもそれは大きな間違いだった。
だって今、オレは……今までの人生で最も、これ以上ないくらいに……
満たされているんだから。
「……っふ、雪月……!」
や、やめて……こんな近くで、名前呼ぶなよぉ……。
「可愛い……!!」
呼吸も荒くなったガラドが、愛おしいものを見つめるみたいに、オレを視線で貫いてくる。
「好きだ……!!」
違う。みたいに、じゃなくて愛おしいんだ。その言葉がなくたって、その視線がなくたって……
オレは今、全身全霊でその想いを受け止めているんだから。
わからないわけない。
気付かないはずない。
だってこんなにも、真っ直ぐに想いを伝えてくれているんだから。
もしも人を想う気持ちが、甘く柔らかな水に変わってしまう魔法があったとしたら。
きっともう……ううん、間違いなく、オレは溺れてしまっている。
この部屋全てを埋め尽くすほどの大きすぎる感情が、オレを仕留めるために一斉に襲いかかってくる。
でもそれを拒むことはできない。拒みたいとも思わない。っつうかガラドの想いがオレを仕留めるってなんだよ。
逆だろ。
「ガラド……っ! 好き……!!」
オレの想いだって、負けているわけないんだから。
ガラドがくれる想いをただ受け取るだけじゃダメだ。そんなの嫌だ。
オレの想いもありったけ受け取ってほしい。オレと同じように、この想いに溺れてほしい。
オレに覆い被さるガラドの背に、両手を回して強く抱きしめる。
ガラドの逞しい胸筋がオレの胸と触れ合う。もちろん服越しではあるけど、互いの体温を、互いの鼓動を分け合うように、しっかりと抱きしめたい。
でもすぐに、オレの方に限界が来てしまった。
呼吸が荒くなりすぎて、意識が朦朧としてしまって……ガラドの背に回した両手から力が抜ける。
「やべっ…… 雪月! 大丈夫か!?」
ガラドはそんなオレの様子にいち早く気付いてくれて……それがさらにオレの多幸感を増幅させる。
「うん……でも……ちょっと、きゅーけー……」
ただオレの情けない体は、ガラドから受け取る特大の愛情に耐えかねて、意識を手放してしまった。
現時点で3/2まで予約投稿済みですわ。




