新たなる皇族に
面倒臭いですが、悪者倒してはいおしまいってより、こういう事後処理をちゃんと書いた方が良いと思いまして。
もう少しだけお付き合いくださいませ。
「いやはや全く、素晴らしい活躍だったと聞き及んでおります。勇者様御一行の雪月様……でお間違いありませんよね?」
「はい。その……オレは今から少し用事がありますのでこれで……」
なるべく角が立たないように、慣れない口調で控えめに失礼しようとすると、
「まあまあ……それほど時間はとりませんので、少々お話でもいたしませんか? ちょうど私たち兄弟のティータイムもありますので、よければご一緒に」
エルドフォルス様は、オレを逃すつもりがないようで、少し強引にオレを茶会に誘ってくる。
別に付き合う義理はないのだが、彼らは故郷を魔族に侵略され、セルトール王国に亡命してきた人たちだ。そんな境遇の人を無碍に扱うのは……少し、いや、かなり心が痛んでしまう。
「……わかりました。しかしオレは平民の出なので、テーブルマナーなどは期待しないよう、お願いします」
「この国の、いや、すべての国にとって脅威となり得た魔王軍を討伐してみせた英雄様に、誰が文句を言えましょうか。お誘いを受けてくださりありがとうございます」
エルドフォルス様は、平民にしては丁寧なオレの言葉遣いがお気に召したのか、嬉しそうな顔を見せながら、オレを案内した。
そして案内された一室で、なかなか和やかなティータイムが催されていた。
リナトー皇族は長男のエルドフォルス様に続いて、第一皇女、第二皇女、第三皇女と三姉妹が並び、最後に第二皇子が末っ子として五人兄弟だった。
歳の近しい三姉妹を長男と末の男子で挟んでいるような順番。
彼らは皆、安心したように話に花を咲かせていた。
それらはすべて、勇者パーティを讃える言葉になっていて、オレに振ってくる話題もまた、どのような戦いだったのか等のもの。
実際、故郷を魔族に侵略された身としては、その喜びはひとしおというものだろう。
故郷を占領していた魔族は、もう散り散りに逃げた。まだすべて処理し切れたわけではないものの、魔王という旗印を失った魔族に、集団行動は極めて困難。
残党狩りは順調に進んでいるらしいし、いくら個体として脅威といえど多勢に無勢。魔族の掃討完了までは時間の問題だろう。
それが彼らの喜びと安心に後押ししているのだろう。
すると突然、会話の矢印がオレの方に向いてくる。
「そういえば…… 雪月様は、雪の里で自身の本来の名前に戻したのだとか……。詳しくうかがってもよろしいでしょうか?」
「まあ、私もそれはお聞きしたかったんですの」
「お姉様方、身を乗り出してはいけませんよ? でも僕も聞きたいです」
第三皇女と第二皇女がオレに質問を投げかけ、第二皇子がそれを嗜めつつ促してくる。
まあ別に隠す必要もないことだし、正直に話してみると……
「まあ! つまり三大龍王が一角、氷龍女帝・フロスティア様から直々に名付けていただいた……ということですの!?」
「なんと格式高いお名前なのでしょう。雪降る月を見上げて名を思い付く……雅ですわ」
「ええ! とっても素敵なお名前ですこと」
「こらこら三人とも? 皇族ともあろう者がそのように興奮するのは、褒められたものではないぞ?」
ん……? なんだか会話の方向性がおかしいような……?
「仕方ないではありませんかお兄様? リナトーにおいて月は特別な意味を持ちますもの。その名を持つ者が、リナトーを苦しませた魔王軍……その討伐に一役買った。とあれば運命的なものを感じずにはいられませんわ」
「月の導きが皇国を支えてきた歴史を鑑みれば、雪月様のことを私たちが尊敬したとて、誰がそれを責められるでしょうか?」
「それにこうしてお並びになると、お兄様の銀色の髪と、雪月様の水色の髪は、とても美しい組み合わせのように思えます」
(あ、これは……そういうことか)
そこまで言われて、オレはようやく彼らの思惑を理解した。
リナトー皇国は今後、元の国土を取り戻したとして、セルトール王国の属国と化すだろう。
問題はその後だ。どれだけ国民が戻ってくるか増えてくれるか、つまりは復興に尽力してくれる人員の確保。それが最優先事項だ。
だが国として一度消え去ったリナトーに、国民の安全を保証するだけの実績はない。
どれだけのリナトー皇国民が、魔族の侵攻から逃れられたかは定かではないが……もう一度立て直すとしても、戻ってきてくれるとは思えない。
魔族の脅威は去ったとはいえ、一度滅んだリナトーにとってその傷跡は、その脅威は、未だ鮮明に脳裏に焼きついているはず。
同盟国であるセルトールに逃げ延びた国民の意思を考えれば、
「なんでリナトーに戻らなきゃいけない? 魔王軍の脅威を跳ね除けたセルトールにこのまま居着いた方が、絶対に安全だろ?」
という意見にしかならないだろう。
だがセルトールの領地や食料にも限界はある。リナトー皇国民が居着けばセルトール王国民が職や食にありつけない可能性も出てきてしまうだろう。
いずれは強制的にリナトーに戻ってもらうことになるだろうが……リナトー皇国民の不安は簡単には消え去ってくれないはず。
だからこそ、リナトー復興には新たなる旗印が必要だ。
魔王軍の脅威を忘れさせるほどの、強さを象徴する旗印が。
そのために最も最適な候補が、オレだったという話だ。
リーナはダメだ。セルトール王国の建国当初から上級貴族であるロクスロード家の娘。リナトーに嫁入りするなど彼女の家が許さないはず。あり得ない選択肢だ。
シドニスはさらにダメだ。魔王を討伐してみせた希望の象徴。彼をリナトーに引き入れようとすれば国王陛下が黙ってはいない。最悪の場合、戦争にまで発展し得る馬鹿げた選択肢だ。
という事情を加味すれば、消去法でオレを引き入れるべく家族総出で囲い込む作戦なんだろう。
国民感情を汲み取って、魔王討伐を成し遂げた勇者パーティの誰かをリナトーに迎えたい。だが匿ってもらった手前、セルトールの顔色を窺う必要がある。
シドニスかリーナを欲しがるのは厚かましいにも程がある。
ならばオレかガラドの二択になるわけだが……ガラドは男子である上に、敬語も使えず文字の読み書きも苦手ときた。
セルトールでは……いや、大半の国では結婚とはつまり嫁入りだ。もちろん絶対というほどではないが、嫁入りの形をとることの方が圧倒的に多い。
皇女を嫁に出すより、勇者パーティの女性を嫁として迎え入れた方が、今後を見据えた上策という考えなんだろう。
これらの点を鑑みた結果、オレを手に入れるために、こうしてティータイムに誘ってきた……という事情なんだろう。
魔族の脅威に晒されていたリナトー皇国の亡命者に、ぞんざいな対応をするのは心が痛む……という人情を、付け入る隙と見られてしまったのか?
まあこの際どうでもいいか。彼らの裏事情に寄り添ってあげる義理はない。
「少し長話をしてしまったみたいです。人に呼ばれていますので、オレはそろそろ失礼しますね」
彼らの不自然な話をぶった斬って、オレは手元の紅茶を飲み干して椅子から立ち上がる。
「お、お待ちを……!」
三姉妹の誰かから呼び止めるような声が聞こえてきたが、オレにはそれを聞いてあげる義理も義務もありはしない。
振り返らずに、部屋を出た。




