既成事実と女の意地と
「ででで、できるわけないでしょ!? そ、そんなはしたないこと!!??」
燃えるような赤髪を振り乱し、リーナの猛抗議が雪崩のように押し寄せる。
「じゃあ良いんだな? シドニスが王女様と結婚して、誓いのキスをするところを指咥えて見てるんだな?」
「ぐ……」
シドニスが第三王女を拒むことは、リーナ自身が不可能だと言い切った。
だからこそ、リーナはオレに相談してきたはず。リーナが行動を起こさない限り、シドニスとリーナが結ばれる未来は有り得ないのだから。
リーナもうすうす気付いているはず。もう既成事実を作る以外に、最も素早く、最も確実な手段などないことを。
けれど自分だけでは行動を起こす決心がつかないから、オレに背中を押して欲しかったんだと思う。
だからオレに言えるのはこれだけだ。
「わかってんなら……」
と言いかけたところでリーナが何か小さな声を出していることに気付いた。
「……よ」
「ん?」
聞こえない声にオレが首を傾げると、リーナはキッと強い意志を感じさせる表情でオレを見て、
「なら雪月ちゃんも、そのでっかいおっぱいガラドに押し当てて、自分の気持ちを伝えてきなさいよ!」
とキレ気味で言い放ってきた。
「おい!? 胸は今関係ねえだろ!? はしたないとか言ってた口がなに言っちゃってんだ!? つかリーナだって普通にある方だろ!」
「じゃあ聞くけど! あの後しっかり告白できたの!?」
「うぐ……」
なかなか痛いところを突いてきやがる。
そう……神界からの面接官、美言様の乱入によって有耶無耶になってしまったオレの告白は……まだしっかりやり直せていなかった。
「それとこれとは話が……」
まだ返事をしていなかったからか、ガラドへの後ろめたさがオレの語気を弱めた隙を狙って、リーナが追撃をかましてくる。
「あー可哀想! 「もう絶対両思いじゃん」って確信する雰囲気と表情だったのに、結局返事はお預けのままで、ここ数日ヤキモキしてたガラドが可哀想!」
「なに言って……」
「この数日ずっと「今行くか? いやまだか?」みたいな雰囲気でソワソワしてるの、私が気付かないわけないでしょ!? あんまりお預けしてると、そのうちガラドが我慢の限界迎えて雪月ちゃんの寝込み襲っちゃうかもね!」
ガラドに限ってそんなこと……いやまあ、割と紳士的だし信頼はしてるけど……万が一ってこともあるし……なくはない、のか?
(おい雪月……)
(な……! こんな時間になにしに来たんだよガラド……!?)
(お前が悪いんだぞ……? いつまでも返事しねえで焦らしやがって。俺がどんだけ我慢してきたか……)
(あれは……返事は今じゃなくてもって……!?)
(限度があるだろ? それに嫌なら……本気で抵抗しろ……)
(やっ……! 待って……!? わかった、言うから……! ちゃんと返事する……から。だから最初は……き、キス…‥から……)
ななななな、なんてことになったり……するのかなぁ……?
「なにメスの顔してんのよー!!」
「め、メスって言うなー!!」
しといて良かった防音の結界。
誰かに聞かれたらと思うと悪寒が走るぜ。
〜〜〜〜〜〜
「わかった。んじゃあ今からオレは、ガラドにちゃんと告白してくる」
「私もシド君のところに行って、セッ……はしないけど、せめて想いは伝えてくる」
「頑張れよリーナ」
「雪月ちゃんもね」
結局、互いにちゃんと想いを伝えることを誓い合って、オレたちは目的を果たすために二手に分かれた。
(ガラドに告白する。ガラドに告白する。ガラドに告白する!)
(シド君に告白する。シド君に告白する。シド君に告白する!)
意気込んで床を踏み締める音が響く。オレの感情のせいか、はたまた王城の床が綺麗に保たれているからか、いつもより自身の足音が大きく聞こえる。
王城にたくさんある客室、その中でガラドに割り当てられた部屋へ、一直線に向かうオレ。
この巨大な王城内では、多くに人が働いている。侍女や執事、給仕係と思しき服装の人、料理人や庭師、近衛騎士団所属の団員など。
多種多様な職業の人とすれ違い、目礼をしあう。
そんな中、随分と身なりの良い、職業がわかりづらい男性がオレを見つめてきた。
(上級貴族の人か……? 少なくとも使用人って感じじゃ……ないよな?)
なんてことを考えつつ、目礼だけしてから歩みを再開すると、その男性がオレの前に立ちはだかってきた。
「……? あの、なにかありましたか……?」
一応の礼儀として、なるべく失礼のないように気を付けながら、男性の顔を見上げた。
整えられた銀髪を見せびらかすようにかきあげて、左胸につけられたエンブレムをこれ見よがしに指で撫でながら、その男性は口を開いた。
「ああ、失敬。貴女様の美しさに見惚れてしまい、つい行く手を阻んでしまいました。私としたことが申し訳ありません」
自身の容姿を自慢するかのように芝居がかった言い回し。出会って間もないオレに「美しい」と声をかける様子。
少なくとも、この国の貴族ではなさそうに見える。
なぜなら彼らは、オレたち勇者パーティの立場を理解しているからだ。国王の判断によって編成された対魔王軍特別行動部隊。そのメンバーであるオレには、近いうちに領地が与えられ貴族の仲間入りをするだろう。
つまり貴族にとってはそう遠くない将来、対等の立場になりうる存在だ。
そうでなくとも勇者シドニスを筆頭に、この国の羨望を集める四人の希望持ち。国を救った英雄たちに馴れ馴れしく声をかけるのは、常識的に有り得ない。
と、そこまで考えてから、オレは一つの可能性に行きつく。
(この国の貴族……じゃないってことは……)
そうだ。現在王城にはいるじゃないか。
この国の貴族ではないが、身分の高い人物が数人。
「申し遅れました。私は旧リナトー皇国が第一皇子、エルドフォルス・エル・リナトーと申します。以後、お見知りおきください」
セルトールの国王陛下が、シドニスを親族に引き入れたいのならば。
旧リナトー皇国もまた、似たようなことを考えるはずだと……その時のオレは気付いていなかった。




