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偉大なる凱旋を

思わぬ休みにより、連続更新です。

「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」

 オレたちの耳に届いたのは、至極冷静なシドニスの声。


 神の御業を成し遂げ神界への切符を手にしたはずのシドニスは、それを逡巡もなく破り捨てた。

 そしてそのことで、隣にいるリーナが安心したような表情を見せたことを、オレは見逃さなかった。


「そうですかぁ……理由は色々と、察しがつきますけれどぉ……」

 オレと同様に、美言(みこと)……様もリーナの感情を読み取ったようで、意味ありげな流し目をしつつ……


「まあ、それもあなたの判断。尊重すべきですね。かまいませんよぉ?」

 とあっさりシドニスの返答を聞き入れた。

 もっとなにか……一悶着あるものかと思っていたのだが、肩透かしを食らってしまったオレは、思わず声を上げる。


「そ、そんなあっさりと……?」

「ええ、まあ……新入りが来れば何かと変化があって良いものですが、無理強いはできませんからぁ。それに……つがいをさらわれた獣は怒り狂うのですよぉ?」


 前半はオレに向けて、後半はリーナに視線を送りつつ、美言(みこと)様は口を開いた。おそらくイヌ科の耳を揺らしながら、小さな笑みを意味ありげに見せつけ、オレたち四人を見渡す彼女。


「では(わたくし)はあちこち観光して、下界を楽しんでから帰りますねぇ。それではお元気でぇ」

 間延びした声をオレたちに届けてから、彼女は淡い光に包まれ、一瞬のうちに姿を消した。


「き、消えた……」

「な、なんかすげえ台風みたいな人だったな……」


 間延びした声と柔らかな雰囲気とは裏腹に、自分の都合を優先している様子が見られた。神と呼ばれる生き物とは、皆あんな感じなのだろうか?


「さて、とりあえず戻ろうか。僕たちの勝利をみんなに知らせてあげよう」





 そこから、セルトール王国の動きは、全体を通して忙しなかった。

 近衛騎士団を含む、今回の魔王軍侵攻によって命を落とした者たちへの追悼。そして遺族への手当て等も迅速に行われた。通信魔道具による情報の通達速度が向上していることもここに関連しているのだろうか。


 そして次に、戦勝の祝い。これはとんでもなく盛大に行われた。

 セルトール王国を包んでいた、戦争にまつわる鬱屈とした雰囲気はどこへやら、勇者一行による勝利は広く喧伝され、貴族平民を問わず、多くの人がその話題に夢中だった。


 王都の騎士たち、そして騎士養成校の生徒たちによる話はすぐさま広がり、そこが魔王討伐の英雄譚の発信源となった。

 とりわけ魔王を切り伏せた『薄刀(はくとう)大鷲(おおわし)』は上空の雲をも切り裂いたことから、遠く外壁から見守っていた彼らの目にも鮮烈に映ったらしい。


 そして特に良かった部分が、オレたちが五体満足でいるところだ。

 これは国王目線による部分が大きいが、セルトール王国が誇る最強の矛として、国内外を問わず有名なオレたち。それが誰一人欠けることなく、身体に関してもほぼ無傷で勝利したこと。


 周辺国からすればとてつもない脅威に映るはずだ。異能持ちが複数いる上に、結束力も持ち合わせているとくれば、これ以上の抑止力はない。


 だがそれが生み出すのは、なにも良い部分だけではない……


 三日にわたる戦勝の祝いを終えた頃のこと。




雪月(ゆづき)ちゃん、そ、相談があるんだけど……」


 そう、それは勇者パーティ……いや、勇者シドニスの求心力が異常なほどに高まっていること。そしてその事実を、セルトール現国王が見過ごすはずがないこと。


 勇者シドニスは魔王を一刀のもとに切り伏せた。逆説的に、シドニス・アンダウンの存在がなければ、セルトール国民全ての命が脅かされていたということ。


 彼がいなければ魔王軍討伐は成し遂げられず、セルトール王国は蹂躙されていたに違いない。国民感情を読み取れば、彼らの感謝や羨望は、国王ではなくシドニスに向くことだろう。

 口さがない者ならば、国王の座は勇者シドニスにこそ相応しいとすら言い出す始末。


 危険を検知してすぐに防衛軍を設立したことや、対魔王軍特別行動部隊を編成して四天王討伐を決行したこと。少し考えれば、国王の判断の素早さと的確さが、為政者として極まっていることは誰もがわかるはず。


 王の座をシドニスに……というのは的外れの意見に違いない。


 だから問題はそこではなく、国王目線でのシドニスの脅威度だ。

 国王にとって今のシドニスは、様々な危険性を持った時限式爆破魔道具。


 彼への扱いを雑にすれば民衆の反乱すらあり得るかもしれないし、逆に丁寧にし過ぎてしまえば「国王は勇者に媚び(へつら)っている」という悪評も出かねない。


 しかしそれを一気に解決できる夢のような手段が国王にはある。

 それは王族の仲間入りをさせること。つまり、自身の娘をシドニスと結婚させ、王族と同等の扱いをすることが、上記の全てを解消する手段となる。


 国王にとって都合よく、まだ嫁入りしていないうえにシドニスと歳も近しい第三王女がいる。というかどの国も、あらゆる事態に備えて王族や皇族は子沢山なことが多い。都合よくというか必然ともいえるか。


 とにかくその選択肢をシドニスが受け入れた場合、アンダウン家はもはや下級貴族ではなくなる。王家の姫が嫁ぐ先が下級貴族など許されないため、アンダウン家の格上げはその事前準備として必ず盛り込まれるだろう。


 国王からの褒美として第三王女を妻とすることができる……つまり「王族の仲間入りを果たす」という一つ目の利点。「家族が下級貴族から上級貴族へと格上げされる」という二つ目の利点。

 これらが国王の持つ切り札であり、シドニスにはそれを拒む理由がない。


 というか……シドニスの立場から、これを断ることはできない。

 セルトール王国では……いやどの国であっても、貴族の子息が王族の姫をもらうことは最上級の褒美だ。王族の外戚となり近しい存在になる。家格もまた同じく上がり、周囲の貴族からは羨望を受け、それに伴いあらゆる場面での待遇も格段に良くなるだろう。良いことづくめだ。


 利点は多い、というか利点しか無いと言い換えても良い。


 だからこそ、これを断ることは王家に対する最大級の侮辱となる。

 そうなれば最悪、一族もろとも国賊として迷いなく処刑しようとするだろう。国王は極めて有能ではあるが……いや、極めて優秀な頭脳を持つがゆえに、極めて無情だ。


 たとえ魔王軍討伐を成し遂げた英雄といえど、冷徹に切り捨てるだろう。

 シドニス本人は誰にも殺せないとしても……その家族や関係者まで危険が及ぶのであれば、守りきることは非常に難しい。


 オレたちが協力しても……全てを守り続けるのはとてもじゃないが出来る気がしない。

 ゆえにシドニスが第三王女を拒むことは不可能だ。


 国王は間違いなく、今後設けられる謁見において、第三王女とシドニスを結婚させようとしてくるだろう。

 そしてシドニスは立場的にも断れないし、断る理由も存在しない。


 以上のことを、リーナが話してきた。

 貴族のあれこれは面倒くさいと聞いてはいたが、互いに好き合う男女の仲もこれに巻き込まれるというのか。なんともまあ……難儀な話だ。


 だがまあ、手っ取り早い解決策がないわけでもない。

 オレの表情からそれを理解したか、リーナが身を乗り出してくる。


「私……シド君と結ばれるなら、どんなことでもやるつもりだから……」

 その言葉と瞳に宿る炎を認めたオレは、揺るがぬ意志を感じ取った。



「よし……じゃあ今からシドニスの部屋に行って〇ッ〇〇してこい」


「は!!??」



 訂正、めっちゃ揺らいでますお嬢様。

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