赤髪のお嬢様
「ほらシドニス、お嬢様にご挨拶を」
「はいお父様。はじめましておじょう様。ぼくはシドニス・アンダウン。こうしてお目にかかれたことを光栄に思っています」
シド君との出会いは鮮烈だった。
私より一つ年上というだけのはずなのに、その姿は隣にいる執事と変わらないほど凛々しく、小さな口から出てくる言葉は滑らかで……「年相応」という言葉には生まれてこのかた無縁ですと言わんばかりに、大人びていた。
「ずいぶん利口な子じゃないかワラフ? さては厳しい教育のおかげか?」
「ご冗談はおやめください旦那様。至って普通の下級貴族に、そのようなことは……」
私のお父様と執事が仲良さそうに話をするのもいつもの光景だった。
私のロクスロード家と、シド君のアンダウン家には長きにわたる繋がりがある。
上級貴族の家に入れるのは、同じく貴族の子女のみ。家柄の不確かな者は、そもそも門をくぐることさえできないため、上級貴族の邸宅で働く執事と侍女が下級貴族の子女であることはもはや当然。
ただ、私とシド君のご先祖さまは王国が発足したばかりの頃に主従となり、それが今まで続いてきたというだけのこと。シド君のお父様を含めて代々彼の家系は、私の家を支えてきてくれた……らしい。
「ははは! すまぬな、口が過ぎたか。……さてリーナ? 淑女として、彼に返事をしてあげなさい」
「は、はい! お父さま。……えーと、リルフィーナ・エル・ロクスロード……です。はじめまして……です」
私はまだ慣れないフルネームを言い切れたことに油断してしまって、語尾におかしな敬語がくっついていた。
「……リーナ。言葉遣いもそうだが……カーテシーを忘れているぞ? まあよいか。礼儀作法もこれからという年だからな」
てっきり怒られるかと思ったけど、お父様の声に怒りがないことに少し驚いた。
元々お父様は私に甘かったけど、他人の前では父親としての態度を見せることも多い。今にして思えば、シド君たちは身内という判定だから、厳しい態度を見せる必要がなかったんだろうなと、今ならわかる。
私に甘く、穏やかなお父様の顔。執事としてシド君の父親として、表情に緊張があったけどお父様の雰囲気に当てられて顔を綻ばせるワラフおじ様。
緊張したり失敗に慌てたり、お父様が怒らなかったことにホッとしたりと忙しない私。
そして……そんな私に優しい瞳で微笑みかけてくれたシド君。
本当は失敗せずにお父様に褒めてもらうつもりだったのに、利口だと言われたのはシド君の方で……そういえば、最初の印象は「カッコつけて大人ぶって、褒め言葉を独り占めする人」だった気がする。
少なくとも、良い印象を覚えていなかったことだけは確か。
でもシド君に抱いていた感情は、対抗心、嫉妬心、そういったものの中にほんの少し……憧れがあったのも事実。
「あんな風にしっかりとできたら、お父様に褒めてもらえるんだ」というわかりやすいお手本。年齢も近いこともあって最も身近な目標として、シド君を羨ましく思っていた。
そんな幼稚な…‥実際幼かったわけだけど、子どもなりに胸中にあった嫉妬や対抗心。それらが遠くないうちに、全て塗り替えられてしまうことになるなんて……あの時は考えてもいなかった。




