刃は薄く、脆く、鋭く
毎朝5時に40pv入ってるんですが、早起きやね
これは僕がまだ騎士養成学校の生徒だった頃の話。
僕は王都内で寮生として暮らすかたわら、よく鍛冶屋へ出入りしていた。
「おー! 騎士の坊、いらっしゃい!」
背が低く筋肉質で、顔にたっぷりと髭を蓄えた鍛治師が僕を出迎えてくれる。
「やめてください師匠。まだ騎士じゃありませんから」
僕は苦笑混じりに苦言を呈する。
僕の持つ剣王は、魔力を剣の形に実体化させる。とてもシンプルで、それ故に奥が深い能力だ。
僕の作り出す魔力剣は、なんとなく……本能的に作れるからそうしているだけで、そこに関して深く考えることはあまりなかった。
けれどある時「僕の刀剣に関する知識が、剣王になんらかの影響を与えるかもしれない」という気付きから、鍛冶屋へ通って彼と話し、刀剣の鍛錬方法を聞くことが多くなった。
彼としては騎士養成学校の生徒は卒業後に騎士となることが多いため、今後の顧客確保という側面から、僕との会話を嫌な顔一つせずにしてくれるのだろう。
僕としてもそんな彼を師匠と仰ぎ、刀剣の知識を教えてもらっているため、お互いに利のある関係性だと思う。
そして幸いにして僕の仮説が当たっていて、彼から伝授してもらった知識を意識しつつ、魔力剣を生成すると……強度や切れ味が増すという結果をもたらした。
それらの事情から、僕と師匠はこうして話すことが多くなり、その日もまた僕は鍛冶屋へと通っていた。
するとその日は見慣れない刀剣が飾られていることを発見して、僕は師匠に問いかける。
「師匠、この剣は……? 以前来た時にはなかったような……」
「おお、坊は初めて見るか! 三日前だったかな……東から来たっていう商人がいてなぁ。珍しい刀剣があるってなもんで、話しかけてきたんだよ」
師匠は嬉しそうに話し始めた。
「見たことねえし使い方もわかんねえしで誰も買ってくれねえ! って嘆いてたんで、そいつの仕入れたままの金額で買えたんだ。いやぁ良い買い物したってぇもんよ!」
髭を撫でつつ、壁に飾られた剣を見つめる師匠。
「緩やかな曲線を描いた……片刃の刀剣ですか。確かに僕も初めて見る形状です。これはどこで作られたんですか?」
僕の問いに師匠は上機嫌なまま答える。
「その商人が言うには、ここからずっと東にある島国、火本っつってたなぁ。ほらあれだ……北にいる雪人族の元いた国だったはずだ。そんでその剣は刀って名前らしい」
「刀……」
僕はそれを見つめながら、師匠の言葉を繰り返す。
多くの剣を見てきたが……これほど美しいと思ったのは初めてだった。
「俺も聞きかじった話だが……元は細剣のように突きを目的として作られたそうだ。確かにこの薄く、鋭い刃は突きにこそ本領があるように思えるよなぁ」
この刀には、僕の知っている剣の無骨さが無いような気がする。
薄く鋭く……しかし刃には波打つような模様が浮かび上がり、滑らかな曲線は僕の目を奪う。
「だがこいつは斬ることにも長けてるときたもんだ……たぶん火本じゃあ取れる鉄が少ないんだろう。だからこれほど薄い。だが薄いってことは鋭いってことだ。元来、刀剣の鍛錬ってのは耐久性と鋭さの妥協点を探す作業なんだよ」
師匠の言葉に真剣味が混じる。仕事の話をする時のトーンだ。
僕は刀から目線をずらして彼を見る。
「重さで斬る諸刃の直剣が王国では主流だが、こいつの腹は分厚く鋭さはあまりない。重くて分厚い分、耐久性は高いがな?」
彼は近くにあったこの国ではポピュラーな剣を手に取って話をする。
「だがこの刀は、まったくの逆だ。重量と力で叩き斬るんじゃなく、使い手の技と速さで以て撫で斬る。薄く、鋭く、だからこそ脆い。だが適切な使い方をすれば……俺が見たどんな剣よりも斬れるはずだ」
師匠の目は壁に飾られたカタナを見つつも、もっと遠くを見ているような気がした。
「鋭さを追求して、可能な限り薄い刃に鍛錬する。下手すりゃあ簡単にポキッと折れちまうだろうなぁ。技術の差を見せつけられたような気分だぜ。鍛治師として……コイツの魅力はわかってるつもりだ」
師匠の語る言葉に、カタナを見つめる瞳に、僕は言いようのない嬉しさを覚えたのを……今でも思い出せる。
「極限の鋭さは、限界まで薄くした証だ。いつか俺も火本へ行って、これを生み出した職人に会ってみてえなぁ……」
(薄く、鋭く、けれど脆い刃……)
師匠の言葉と、ガラドの編み出した虎魄……もとい魔力を凝縮するという発想。
この二つを組み合わせて出来上がったのが、薄刀だ。
僕の剣王は込める魔力量と、僕の知識、そして想像によって、様々な刀剣を作り出すことができる。
曲刀、短剣、投げナイフ、分厚く大きな両手剣など、魔力は僕の思考に追従して、自在に形状を変えてくる。
そして多くの魔力を込めれば巨大な剣を作り出せるけど……もし僕がガラドの編み出した凝縮する魔力操作を習得できれば、ここに大きな変化を加えられるんじゃないか。
その考えが、僕の薄刀のスタートラインだった。
ただ考えずに多くの魔力を注ぐと、巨大な剣になってしまう。しかしそれを形成する前に凝縮する魔力操作を行うと、強度が凄まじい魔力剣を作ることができる。
ただ薄い刃の剣を作っても、あまりに脆くて振るう前に砕けてしまう。恐ろしく鋭い刃も振るえなければ意味がない。
しかしこの二つを理解した上で、魔力凝縮の後に薄い刃の形成を行うと…… 薄刀が完成する。
理屈の上では簡単だが、実行するには凄まじい集中力を必要とする。
鉄を握りつぶして小さく圧縮し、小さなピースとなった鋼を刀の型にはめてゆく。その作業を延々と繰り返すような感覚。
まるで巨大なパズルをしているようだ。しかもそのピースを自分で作り出さなければいけない上に……まともな設計図もない。僕の感覚だけが頼りの手探りの作業。
けれど努力の甲斐あって、僕の心が何度目かもわからない悲鳴をあげた頃……最後の魔力がピタリと嵌まる。
濃密な魔力が実体となる寸前の状態で僕の手の中にあり、本来肉眼では見えない魔力が、柔らかな光を発した。
そう……これこそ僕が待ち望んだ感覚。今、薄刀はゴールへと辿り着いたという確信を得た。
どれくらい待たせてしまっただろうか。みんなは無事なのか……無事でいてくれ。
(待たせてごめん。すぐに行くよ、ガラド、雪月。…‥リーナ)
輝く魔力を両手に、僕は閉じていた目を開き、一番近くにいる騎士へ目配せした。
魔王を殺せる刃を携えて。
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