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魔王強襲

 オレたち勇者パーティは近衛騎士団・第一大隊の後ろに付いて、北東方面へ歩いていた。

 魔王の持つ呪装がどんな物なのかはまだわからない。


 村を踏み潰したような痕跡から、四天王オルデムの火葬槌かそうついと似た巨大な武器であるという予測が立てられるが、確定させるのは危険だ。


 もしケルメの死閃脚しせんきゃくやナーグの穿空拳せんくうけんのように、速度に優れた呪装を応用して大規模破壊を可能にしているのなら、オレたちの予想は大きく外れて、戦闘中に隙を作ることもあり得るだろう。


 そして何より不可解なのは、魔王が動き出したこのタイミングだ。

 旧リナトー領地でオレたちを迎え撃つことが、少なくともセオリーに沿った戦い方。守るが吉のこの状況で、単独で進軍する利点がわからない。


 守るべき時に攻めてくるのはおかしいんだ。それに攻めるならば、四天王がまだ生きている間に魔王も加わり一気に侵略すれば良いはず。


 もちろん魔族が戦闘を好み、わざとこの戦争を長引かせようとしていることは周知の事実。だがその上で、四天王よりも強い力を持つ魔王がこれまでの沈黙を破るなら、それこそナーグやキリアナと合流してから攻めていれば確実だったはず。


 魔族がわざわざ勝算の低い行動を取ってくれるのは、オレたちとしては好都合だ。しかしあまりにも不自然すぎる。まるで自ら死を望んでいるようにも見える……自殺行為だ。


 いくら自分の力量に自信を持っているからといって、単独で敵本陣に突っ込むなど……正気の沙汰ではない。


 タイミングも不自然、単独行動も理解不能。

 不気味だ。絶対に何か理由があるはずだが、それを理解するには情報が足りない。


 どれほど歩いただろうか。魔王が探知魔法の範囲内に侵入してくるのを固唾を飲んで見守っていると……


 ドゴン! と轟音が鳴り響く。


 そのわずか一秒後、騎士団陣形の中心部あたりから、氷の魔法だけが上空に撃たれた。


 事前に決めていた合図だ。

 火の魔法なら、魔王は複数の兵士を連れている。氷の魔法なら単独。魔王のみである合図。

 雷の魔法なら、奇襲成功。土の魔法なら、奇襲の失敗を意味する。


 氷の魔法だけ……つまり魔王のみであることはわかるが、奇襲の成否が伝わらない。

「まさか……!? 奇襲()()()!?」


 シドニスの声と同じ結論に至る。言葉を聞くよりも早く、オレたちは走り出していた。

 オレたちは魔族が探知魔法を使えないことを知っているから、遭遇戦になれば位置情報を一方的に知ることができる。


 位置情報は戦争の要となる。それを知る方法を持っているのがこちらだけとなれば、奇襲される側になるなどあり得ない。


 よしんば魔王が奇襲を成功させるための技能を持っていたとしても、こちらには接敵前に位置を知ることができる探知がある。どの方角に、どれほどの距離に敵がいるのかを常に把握できる探知魔法は、奇襲される危険性をグッと下げることが可能。


 にも関わらず奇襲の成否すら知らせる暇がなかった……つまり魔王には探知魔法のアドバンテージを帳消しにする手段があるということ。探知魔法の範囲内に侵入すると同時に、迎撃不可能な速度で突っ込んできたとでも言うのか


 一流の騎士が集まる近衛騎士団……その第一大隊だぞ……!? 希望ホープ持ちでないとはいえ精鋭揃いの彼らが、一方的に位置を知っている状況で先手を取られるなど……あり得るはずがない。


 騎士たちがありったけの攻撃魔法で奇襲をかけたのちに、オレたち希望ホープ持ちが前に出て戦闘を開始する手筈だったのだが……予定を狂わされたか。


 勇者パーティの前方を進む近衛騎士団をかわし、騎士団の陣形先頭部へたどり着くと……そこには……



「余の宴はこれからというに……脆いのぅ、草花を踏むよりなお手応えが無いぞ?」

「あ……が……!」



 あたりに血が撒き散らされた……凄惨な光景が広がっていた。いったい何人の騎士が殺されたのかわからないほど、悲惨なまでに遺体は粉微塵と化し、地獄絵図を描きだしていた。


 その絶望を映し出す絵画の中心に、騎士の頭部に右足を置いた男の姿があった。


 オレたちとさほど歳の変わらぬ魔族の男。ねじれた二本の角、黒目と白目が反転した恐ろしい相貌。その姿を確認した瞬間、オレの全身を悍ましい数の虫が這い回るような感覚。


 そして何より、空気が重量を得たかと思うほどの圧倒的なプレッシャー。


 間違いない。こいつが魔王だ。

 魔王は地面に転がされた騎士の頭部を踏みつけながら言葉を吐き捨て、騎士の苦悶の声を黙らせるかのように……その右足を踏み込んだ。


 鼓膜に届いたのは、肉と骨を潰す音。

 あたりを染めていた赤黒い血の色が、また一つ増えてしまった。


(間に合わなかった……!)

 後悔するオレを尻目に、ガラドがいち早く飛び出した。


「てめえ!!」

 すでに手足の獣化を終えているガラドの突撃。まともに補足するのも困難な速度の蹴りが、魔王の首を蹴り抜く光景を幻視する。


 しかしそれは希望的観測に過ぎなかった。

「なんじゃ、お主ら……?」


 疑問符を浮かべつつ、魔王がガラドの蹴りを易々と回避して、振り向きながらオレたちを順番に見てくる。

「ほう……! わざわざそちらからきてくれるとは手間が省ける! お主らが、余の可愛い配下を殺してまわった強者つわものであろう?」


 可愛い配下……などと言いつつも、その顔には復讐や後悔…‥仲間を思う感情など微塵も表れていない。

 どう見ても、これからの闘争に心躍る狂気を笑顔として出力している。魔王の笑みは、言葉とは裏腹に喜びを露わにしていた。


「余の名は、魔王クローマ! お主らも名乗ることを許そう。まずはほれ、そちらの獣から」

「ハッ! 喋る余裕もなくしてやるよ!」


 どうやらガラドは、自分の眼前で騎士を殺されたことに怒り心頭の様子だ。


 獣王の拳(ビースト・フィスト)を全身に作用させて魔王へ殴りかかる。獣王邁進じゅうおうまいしんを惜しげもなく使う姿は、魔王の力量を理解した上での行動。


 手足の獣化でさえ、オレたち四人の連携があれば四天王に十分通用する強さだ。全身獣化はとっておきの奥義。ガラドの切り札。


 戦闘中には冷静さを保てる精神力を持つガラドが、激情のままに獣王邁進を使うことはない。つまり接敵すると同時に、そうしなければ戦いにならないとガラドの自身が判断した証左。


 先ほどの蹴りをさらに上回る速度で放たれる右拳。魔王の胸部を目掛けて、空気を切り裂くように直線を描く。


 しかしその拳は、


()()()()


 巨大な戦鎚せんついによって防がれる。


「なっ!?」

 ガラドの驚きと、轟音はほぼ同時。硬質な金属がぶつかり合う音が、ガラドの攻撃が完璧に防がれたことを知らせる。


 だが、オレたちの驚きと視線はその戦鎚に注がれていた。

 人を丸ごと潰せてしまうほどの巨大な武器で、炎を纏って熱を撒き散らす。


「あれは……!?」

「シド君、あの呪装は」


 オレたちは知っている。魔王の持っている呪装じゅそうを。

 あれは間違いなく、西の魔王軍を率いていた四天王オルデムの火葬槌かそうついそのものだ。


 刹那、魔王の纏う魔力が一気に膨れ上がる。

「さて行くか、()()()


 言葉を言い終わる前に、魔王クローマの姿が消える。

「リーナ!」

「きゃっ!?」


 驚きを置き去りにして、シドニスがリーナを抱えて飛び退る。

 すぐさまリーナが展開した障壁魔法が、シドニスの目前で砕け散り、姿を現した魔王が蹴りを繰り出した体勢をしている。


 音より速く攻撃を繰り出したその両足には、東の四天王ケルメの死閃脚しせんきゃくを身につけている。


「ほほう、この速度に反応して回避するとは……お主が勇者とやらか」

 場違いなまでにのんびりとした魔王の声が聞こえる間に、シドニスの魔力剣が背後から魔王には襲いかかるが、奴は余裕の表情で蹴り砕いた。


「反撃も素晴らしいのぅ。此度の宴は皇国を壊した時よりも、一層愉快になるかもしれんな!」

 上機嫌な魔王の背を、今度はオレとガラドが同時に攻め立てる。


 しかし挟み撃ちをしたオレたちの攻撃を、魔王は火葬槌かそうつい死閃脚しせんきゃくで容易く防いだ。


「悪い夢でも見てんのかよ……!」

 冷や汗が一粒、オレの額を伝って落ちる。


 勇者パーティと魔王の対決……その火蓋が切って落とされた。

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