悲報は突如
その二日後、魔王討伐の遠征出発日まであと四日となった正午、王城の連絡魔道具に一報が届いた。
曰く『東の前線都市から北に位置する村が、消滅している』と。
東の防衛線といえば、四天王ケルメ率いる魔王軍討ち倒した場所。勇者パーティの顔を広げて、名を知らしめた歴史的勝ち星。
リナトー皇国を潰した魔王軍という脅威に、セルトール王国が初めて反撃の狼煙を上げた希望の始発点だ。思い返せば異能を希望と呼ぶようになったのもこの頃からだった。
消滅というのは比喩でもなんでもないという。建物や村を囲む柵、麦や家畜といった食に直結するもの、草の一つに至るまで。
まるで巨大な何かに押しつぶされたかのように、更地になっていたのだという。
巨人の足跡のようなそれは、魔族の持つ禍々しい魔力を色濃く放っていたという。
本来戦闘の際に使用する魔法ないし闘気術に、魔力の痕跡は残らない。空気中の魔素に還るだけなのだから。だが魔族の持つ呪装は、その常識を覆す。
まるでその破壊を、殺戮を誇るかのように、その場に留まり周囲に魔力を放つ。
レテンの転刀が良い例だろう。三日経ったあの時でも、腐臭を放つかのように恐ろしい魔力の気配を漂わせていた。
そう、つまり犯人は呪装持ちだ。
四天王と魔将軍の呪装には、大きな力の差があった。魔将軍に村を一つ消すなどという芸当は不可能。全員殺害することこそできたとしても、建物を含むあらゆる全てを消してしまうなど、四天王ですらできるかどうか。
魔族は強力な力を持つ個体を中心として集団を形成する。魔将軍が四天王に付き従うのも、四天王が「魔王様」と口にするのも、そういった習性が理由だ。
四天王ですら不可能と思われる村の消滅。集団の行動であるにしてはあまりにも迅速すぎるその破壊行動は、個人によるものと推測された。
前述するいくつかの情報が、魔王がついに動き出したという結論を導き出した。
「それではこれより、魔王迎撃作戦を実行します」
カタウ団長の隣に立つ副団長が、礼儀正しく言葉を紡ぐ。
近衛騎士団・第一大隊とオレたち勇者パーティが一堂に会する、王城に程近い騎士団の作戦室。
皆が皆、重苦しい雰囲気の中、様々な表情を浮かべていた。
それは魔王が単独で動いているという仮定に対しての疑問だったり、これからの戦いに対しての緊張だったりと、十人十色であるが楽観的な顔をしている騎士は一人もいなかった。
近衛騎士団は王都の守護者。騎士団で活動する間、目覚ましい活躍をした者やとびきり優秀な者だけが入団を許可される……いわばエリート集団だ。
戦いを前に気を抜く……などという愚を犯す騎士は誰一人としていないのも、ある種当然のことだった。
「王都北東より接近中と見られる魔王に向かい、進軍を開始します。探知魔法を使いながら、接敵する瞬間に奇襲をかけ、そのまま戦闘を開始する手筈となっています」
その後も副団長がいくつかの連絡事項を伝え終えると、彼は脇にずれて、今度はカタウ団長が前に立つ。
「緊急時ゆえ手短に話すぞ。我らが背には国王陛下のみならず、国民の命がかかっている」
口調はこの前に会話した時とは、似ても似つかない厳格な雰囲気を纏っている。
「此度の魔王強襲は未だかつてない災厄……魔族四天王を従える魔王は、それを上回る力量と推測されている。ここにいる皆が明日も同数である保証はない」
命の危機があるのは当然。しかしカタウ団長は姿勢を正したまま、言葉を続ける。
「しかし我らは、魂に剣を宿す騎士である。命尽きようと、同胞の刃に魂を託す。鋭さを増し、敵を斬り伏せる力となる。呼応せよ! 我ら近衛の騎士、剣と誇りを掲げる者なり!」
応!!
怒号のような騎士たちの号令が轟く。
それが魔王迎撃作戦の開始を告げる、鐘の音となった。




