表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/62

戦えぬ者の戦いを

 翌日、オレたちはグランドバッグ内の整理と、必要な物資の調達をしていた。

 グランドバッグは空間魔法を刻まれた魔道具で、見た目をはるかに超える容量を誇る便利なアイテムだ。


 だがこれには上限があるため、物は選別する必要性がある。食材などは密閉できる袋に入れた上で氷魔法で温度を下げておく必要があるし、意外と手間がかかる部分も多い。


 それと一番大事なのは『何を入れたか忘れないこと』だ。グランドバッグ内に入れた物を取り出す際は、その物体をしっかりイメージしながら手を突っ込むこと。


 存在を忘れてしまえば二度と取り出すことはできないし、それが食材であれば腐ってしまい目も当てられない。グランドバッグに入れたあらゆる物に腐臭が染み付いてしまう光景など寒気がする。


 そのため、グランドバッグにメモ帳を入れておくのが手っ取り早い解決策となる。入れた物を書き記し、取り出した物にバツを付ければ忘れることもないだろう。


 オレとリーナとシドニスは問題ないが、ガラドは文字の読み書きが苦手で、買い物の際には必ず誰かが付き添う必要がある。

 記憶力自体はいいのでメモ帳を見なくても望みの物は取り出せるし、大量に物を持ち歩くタイプでもないので前述した失敗もないが……万が一という不安がある。


 なので今もこうして、オレたち四人は共に買い物をしているという状況だ。


「ほれほれ! どうだ!」

「キャハハハ!」


 そしてその最中に、こうしてガラドが子どもに絡まれるのもいつもの光景だった。

 元から面倒見のいい性格をしているガラドの優しさを、子どもたちは的確に見抜いているんだろう。見る目があるにも程がある。


 その時ふと、男性の声が聞こえてきた。

「あの……勇者パーティの皆さん……でしょうか?」


 声の方向を見ると、そこには……オレたちが助けたスノーブさんとその息子さんが立っていた。


 〜〜〜〜〜〜


 彼はオレたちが分断された場面こそ見ていなかったものの、その後にオレたちからの接触……つまり魔将軍討伐の報もないままであったことを不思議に思っていたという。


 そしてオレとガラドが、あり得ない速度で北の防衛線に到着したことを新聞で知り、文面からオレたちが分断されている状況を予測した。

 自分と息子が撒き餌とされてしまい、勇者パーティを窮地に陥れる手助けをしてしまったのだと気付いた彼は、自責の念に駆られ「せめて何かできることはないか」と探し始めた。


 そうして彼は、西の前線都市付近から王都に来るまでの道中、魔力回復薬を買い漁り、持てるだけの財産を持ってここにきたのだという。


 全て勇者パーティに寄付するつもりで来たのだが、豪商……つまり商人であるため、何か腹に一物隠しているのではと、関所などで勘ぐられてしまっていたのだそう。


 そりゃそうなると思う。身なりのいい金持ちが、戦闘に必須の物資である魔力回復薬を大量に持ち込んで、持てるだけの財産を全て勇者パーティに渡したいのだと言ったとしても……オレでも怪しいと勘ぐってしまうだろう。


 結局王城の門番には「受け取れない」の一点張りで押し通されてしまい、帰路に着くところだったのだとか。


「皆さんに会えて幸運でした。こちらのグランドバッグをお受け取りください」


「スノーブさん……お気持ちはとても嬉しいですが、僕たちはこういった物を受け取るわけには」

 シドニスはそう言ってスノーブさんの提案を断ろうとするが、彼は次第に体を震わせた。


「私はあなたたちのおかげで、最愛の息子を無事に取り戻すことができました……この子には怖い思いをさせてしまった」


「パパ……?」

 少年がスノーブさんの顔を見上げる。すると息子を見つめていた彼の目から、雫が一つこぼれ落ちた。


「けれどこの子は、今もたくさん笑ってくれるんです……私はそれが嬉しくてたまらないんです。そして同時に、悔しくてたまらなくなってしまうんです」

 涙を抑えようともせず、彼は言葉に熱を込めた。


「あなたたちを罠に陥れる手助けをしてしまったこと……そして自分が何一つできなかったことが、悔しくて悔しくて……」

「スノーブさん……」


 彼の後悔は音となってオレたちの心を刺激する。


「この子が笑っていられるのは、あなたたちのおかげなんです。そんな皆さんが、魔族の罠によって二つに分断された状況を知りながら、苦戦を強いられていることを知りながら……私はただいつも通りに過ごしていればいいのでしょうか?」


「弱い一般人だから仕方ない。戦う力が無いから仕方ないと、危険な戦いに身を投じる恩人の存在を知りながら、優雅に紅茶でも飲んでいればいいのでしょうか?」


 いいえそれは違います。と、スノーブさんの言葉に力が宿る。

「勇者パーティのために何かをしなければ、私は息子に胸を張れなくなってしまう。息子の命の恩人に報いる方法を、何か一つでも実行しなければ……その怠慢は、私にとって最大の汚点となるでしょう」


「おっさん……ははは、気弱な感じかと思ってたが……案外熱いじゃねえか」

 ガラドは男の矜持という物に、ひどく弱い。ニヤリと笑ったのち、スノーブさんの肩を叩いた。


「それに……最愛の息子を取り返してくださったことに、なんの対価も払わなければ商人の名折れ。ですからこれを受け取ってください。息子の救出を成し遂げていただいた皆さんに払うべき、当然の対価なのですから」


 王城の門番にはこんな話をする隙もなかったんだろう。たとえしたとて、息子救出劇が真実である保証はない。

 商人が作り話を持ってきて、噂に名高い勇者パーティに恩を売りにきた。としか思われないだろう。


 けれどオレたちは事実であると知っている。あの時「全てをなげうっても構いません」と頭を下げた彼の必死さも、つい先ほど落とした涙に込められた思いも。


 魔族による勇者パーティ分断作戦を手引きしてしまったこと、それを知りつつ普段通りに過ごすばかりか、当の息子が無邪気に笑顔を見せてくれたことが、彼の罪悪感を強くしてしまったのか。


 オレたちは誰もそれを責めたりしないだろう。今まで助けた人たちも数多くいる中で、スノーブさんにだけ見返りを求めるなんておかしな話だ。


 けれどもし、オレがそういう立場ならどう思うだろう?

 シドニスに言われるがまま、パーティを抜けて故郷の村に帰っていたら……新聞で知ることになるのだろう。ガラドが単身で北の防衛線に向かったことを。


 オレとガラドがいてようやく勝てたナーグ率いる魔王軍に、単身で挑むことになる。その結果は火を見るより明らかだ。


 そしてオレはまた紙面に書かれた文字を見る。『北方防衛線、崩壊。ダボライ陥落』という見出しを。

 ダボライに常駐する新聞を製作する情報部も避難を余儀なくされ、情報もろくに集まらないまま新聞に書かれる文面は「勇者パーティの戦士、ガラドの生死は不明」となるに違いない。


 ガラドが背に庇う一般人の存在を知りつつ逃げるわけがない。それを悟ったオレは、スノーブさんが言ったように「弱いから仕方ない」と言い訳をして、いつも通りの日々を過ごせるだろうか?


 オレもきっと、罪悪感を覚えずにはいられないだろう。むしろ自責の念に苛まれ、まともに眠れなくなってしまうかもしれない。


 ほんの少し前まで希望ホープ持ちですら無かったオレには、スノーブさんの気持ちが良く分かる。彼は商人としてできる限りのことをしている。胸の内から湧き上がる罪悪感、あるいは責任感によって行動を起こした。


 オレたちの戦いを支援するために、スノーブさんもまた、商人としての戦いに身を投じているんだ。

 それをどうして、無碍にできるだろうか?


「なあ、シドニス……」

 考え込んでから顔を上げると、リーナもシドニスも、同じような表情を浮かべている。


「ああ、そうだね。きっと僕たちは同じことを考えてる」

「ふふふ、以心伝心ってやつね」


 上機嫌な赤髪のお嬢様が笑みを浮かべて、勇者に目配せした。

 すると緑の髪を揺らして、シドニスはスノーブさんの目を見つめる。


「前言を撤回します。スノーブさんの熱い思いを受け取らせてください。もちろん、魔力回復薬だけになりますが」

 本来オレたちだけでなく、騎士団や防衛軍もまた、個人や団体からの私的な支援を受けることは許されない。


 特定の団体、商会、個人からの金銭的あるいは物質的援助が、汚職や癒着に繋がるからだ。

 けれどそれが金銭的価値の高い物ではなく、戦闘においての必要物資であればその限りではない。現に騎士団、防衛軍ともに、魔力回復薬などの必要物資や武器防具等の装備品は、外部に頼らざるを得ない。


 スノーブさんのグランドバッグから、金銭的価値の高い物を抜けば、それは「魔力回復薬を調達してきただけ」という言い訳が成り立つ。


 それらの説明をしつつ、彼のグランドバッグから魔力回復薬だけを予備のバッグに移し替える。それほど時間もかからずに作業を終えたスノーブさんは、少し赤くなった目元を誇らしげに見せて、オレたちの目を見つめてくる。


「改めて、本当にありがとうございました。ほらお前も」

 礼儀正しく腰を折るスノーブさんは、傍に立つ幼い男子に促して礼をさせた。

「ありがとうございました!」


「どういたしまして。スノーブさん、僕たちは必ず魔王を討ち取り、平和を勝ち取ってみせます」

 シドニスの返答に、嬉しそうに体を震わせたスノーブさんは、再度お礼をしてから帰路に着いた。


 そうしてオレたちは意外な再会を果たし、スノーブさんの思いを受け取ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ