団長
その後、オレたちは近衛騎士団、団長の前で整列していた。
「さて、それじゃあ国王様からの命を伝えるから、よ〜く聞いてほしい」
久しぶりに見る近衛騎士団長カタウ、四十代のくたびれたおっさんにしか見えない彼だが、実力は本物だ。
オレたちが生まれる前の話だが、王国唯一の異能持ちとしてその名を馳せ、騎士の家系に生まれたことも相まって史上最年少で近衛騎士団に入団。トントン拍子で出世してまたも最年少で近衛騎士団長を任命されたという。
生まれも育ちも経歴も、これほど完璧な人は他にいないだろう。
そんな彼が疲れきった顔をしているのは、ひとえに魔族との戦争とそれにまつわる責任の数々だろう。要するに「なんで俺が騎士団長のタイミングで、こんな面倒ごとが起こるんだ?」という不満が、彼の胸中を支配しているということだ。
とはいえ彼の表情はくたびれ感こそあるものの、オレたちを送り出した時よりもかなり明るくなっている。王国包囲網を敷いた魔王軍幹部を撃退し、騎士団のみならず国民全体に広まった勝利の確信が、彼の重荷を軽減しているに違いない。
「とはいえ、難しい話なんかじゃないんだけどね〜。オジサン疲れてるから、要点だけ伝えとくよ?」
彼の言葉は責任ある立場のそれではなく、酒場で飲んでいる知り合いと話すかのようだ。これもオレたちを緊張させないための工夫なんだろうか?
「まず、僕と君たち勇者パーティを含めた魔王討伐部隊を編成し、旧リナトー皇国の首都へ向かう。そして魔王を討ち取る。はいおしまい」
カタウ団長の説明は予想通りではあったが、あまりにも簡潔なもので肩透かしを食らったような感覚を覚える。
「休息と遠征準備のために、出発は一週間後。何か質問はあるかい? 無ければこれで、国王様からの命令は全部だ」
「……というと、団長から個人的な意見が?」
シドニスが問いかけ、カタウ団長は笑みを浮かべる。
「そうだけど、堅苦しいもんじゃないよ〜? ただ対魔王軍特別行動部隊に、僕個人からの言葉を伝えたいだけさ……ありがとう。そしてあともう少し、力を貸してほしい」
対魔王軍特別行動部隊。オレたち四人に国王様から与えられた正式名称だ。
思い返せばこうして呼ばれるのも、出発する時にカタウ団長に激励してもらった日以来か。
それ以降は勇者パーティという呼び方ばかりだったしな。
と懐かしさが込み上げていると、ガラドをはじめ次々と呼応してくる
「おう! 任してくれ団長!」
「敬語使いなさいよねこの筋肉ばか!」
「オジサンは気にしてないよ。というか君たちの功績を見れば、僕と同等かそれ以上の地位は確約されたようなもんでしょ?」
「カタウ団長は相変わらずですね」
シドニスが団長の言葉に苦笑していると、彼がオレの方を見てくる。
「それにしても……本当に女性に変わったんだね〜。詳細を聞いてもいいかい、ミリア君?」
そういえば新聞で情報が行き渡っているのは、四天王ナーグを討伐した時までか。オレたちが雪の里で得た情報、オレの名前が変わったことなども後で新聞にしてもらう必要がありそうだ。
などと考えつつ、オレはカタウ団長に話せる部分を全て伝えた。
「ははぁ……じゃあこれからは雪月ちゃんって呼べばいいのかい?」
「はい。その方がオレにとっても良いですから」
素敵な名前だねぇ。と付け加えつつ、カタウ団長は顎に手を当てる。
「うん、この話は僕の方で情報部に伝えておくよ。近いうちに新聞も出してもらうとして……これで全部かな? それじゃあ僕は行くよ。みんな今日はゆっくり休むといい」
彼の言葉に甘え、今日は早めに休むことにした。




