再会
セルトール王国、王都、北の関所。次にオレが目を開けた時に視界に入ってきたのはそれだった。
「いきなり気を失ったオレが言うのもなんだが……あのままオレたちを射出したのかよあいつ」
傍若無人な天才発明家に文句を言うオレに、ガラドが声をかけてくる。
「気を失ってたのもほんの少しの間だけだがな。高いとこ苦手なんだから逆に好都合だったろ? にしても久しぶりだな、王都のでけぇ関所だぜ」
もはや懐かしくすら感じる。正確には最後に目にしたのは東の関所だが、細かい話は今はいいだろう。
まずは王城へ行くのが最優先事項だ。
〜〜〜〜〜〜
「二人とも、久しぶりだね」
「ミリア君、ガラド、久しぶり! そっちも色々あったのよね? 新聞で読んだわよ」
王城にはすでにシドニスとリーナが居て、オレたちは再会を果たした。
期間にすれば十日ほどのはずなのに、様々な出来事がありすぎて数年ぶりの再会であるかのように思えてしまう。
「おう、なんかこの四人で集まるのも懐かしいな!」
ガラドもオレと全く同じことを考えていたみたいだ。
「そうだね……まずは僕たちの方から話をしようか」
そうしてオレたちは、情報交換を始めた。
だがシドニスたちからの情報はおおかたオレの想像通りで、意外なところといえば、オレたちの落下地点がダボライに近かったのとは反対に、シドニスたちの転移地点は南の前線都市から少し離れていた点くらいか。
そして南に陣取っていたキリアナ討伐は、流石に楽勝とはいかなかったらしい。
キリアナの細斬華とレテンの転刀による連携に苦戦させられたのだという。
魔族同士の連携。少なくともオレは見たことがない。
魔族は我が強く、味方の動きに合わせられない、あるいは合わせる気がない。個々としてはかなり脅威な魔族が、団体としての機能を万全に発揮できない一つの要因。
キリアナとレテンは、唯一それを覆す例外だったのか。
そういえば……襲われたスノーブさんの言葉によれば、初めて遭遇した時もあいつらは共に行動していたらしいし、魔族の中では協調性のある二人だったのだろうか。
ともかく苦戦こそしたが、討伐を終えてすぐさま王都へ移動を開始したらしい。
オレたちの方とは違って、四天王を炙り出すのに時間がかかってしまったのもあり、新聞の情報も加味し先に王都に着いているのはオレとガラドだろうと思っていたのだとか。
「私たちが先に王都に着くなんてあり得ないわよね? なにかトラブルでもあったの?」
あらかた話し終えたシドニスとリーナが、今度はオレたちに話を振ってくる。
「まあ順番に話すしかねえよなぁ……えっと……」
「魔族との戦闘で大怪我をして……」
「ガラドが記憶を失くしちゃった……」
「それで雪の里に向かって……」
「龍神様にガラドの記憶喪失を治してもらって、おまけのミリアの名前を知ることができた……?」
リーナとシドニスが目を点にして、オレたちに起こった出来事を消化しつつ……いやこれ消化できてねえな。ただ意味わかんなすぎて繰り返してるだけだわ。
「ああ、だからこれからはシドニスもリーナも雪月って読んでやれ。俺もそうしてる」
「ガラド……すまないけど僕たちはそれよりもっと前の段階でつまずいてるんだ……」
ガラドの発言を申し訳ない様子で保留しつつ、シドニスは額に手を当てる。
「えーと、それでミリ……ああいや、雪月は元々女性として生まれてきた……ってことだったよね?」
シドニスの確認にオレは頷く。
「ふむ……それで自分の瞼を氷王の両眼で凍らせていたから、龍神様が性別変化の神呪をかけていた……と」
「性別を変えるのは神の御業……とはいえ、肉体と精神体の相互干渉は魔法学の基礎よ。生まれたばかりの赤ん坊の肉体が男性に変わったとして、誕生直後の不安定な精神体が女性のままで在り続けるなんてあり得ないわ」
リーナの言葉にオレの鼓動は跳ね上がる。
「そこなんだ。やっぱりリーナも気付いたんだね。話をややこしくしているのはこの部分だ」
シドニスも賛同したことで、オレの心拍数がさらに上昇する。
「でも精神体と肉体の差異が無くなったから、希望が使えるようになった理屈は通ってるのよね……魔法学では心体同一って言って、肉体と精神体の一致が能力を上げるのは証明されてるの。論文があるもの」
「変化の魔法で肉体を変えた時に、魔法の出力低下や身体能力の低下が見られる原因だね。『獣人族の姿を真似したからといって、身体能力が向上するわけではないこと』を証明する有名な話だ」
「そう。肉体と精神体の不一致が起こす能力低下があるから、逆説的にその二つが一致している時こそ人は万全の状態になれるって話。だから女性の肉体になって希望が使えるようになったことが、ミ……雪月ちゃんの精神体を女性であると証明している……」
どうする? はっきりと言ってしまうべきだろうか。
オレが幼い頃ガラドに一目惚れしたから、心が女性のままで在り続けたという事情を。
(でもそれは……)
オレの恋心を晒してしまうのと同義だ。大切な仲間にそれを言うのが嫌ってわけじゃない。今オレの隣にガラドがいることが問題なんだ。
「いきなり性別が変わった時はそこまで考えられなかったけど、今思えばミリアっていう名前や、女性の肉体に変化したことで使える希望が、雪月が女性であることの要因……」
ガラドがいると、ちゃんと言葉が出てきてくれない。喉が狭くなって、広がらなくて……伝えたい思いが言葉になってくれないんだ。
「十六年も男性の肉体で生きながら、精神体は女性の形を維持してた。つまりミリアく……ううん、雪月ちゃんの心が女性のままで居たいと強く願っていた。……ってことは……!?」
今もまた、オレの発声器官は声の出し方を忘れたように沈黙してしまう。リーナとシドニスに話しかけようと思っているのに、肝心の言葉が形を成してくれない。
ってなんだ? リーナがオレの顔を見てびっくりしてるような……?
「いや、これ以上僕たちが考えても結論は出てこないね。雪月に聞いた方が早い……ってリーナ?」
「シド君、ちょっとガラドと話をしてて? 雪月ちゃんはこっち来て」
リーナはシドニスの視界を遮るようにオレの眼前に立ち、言うが早いかオレを引っ張り少し離れたところへ連れてきた。
ここならガラドの耳でも聞こえないだろうと思うほど離れた瞬間、リーナがオレに話しかけてきた。
「雪月ちゃん、たぶん、きっと……おそらく、なんだけど……」
ひどく乱雑に予防線を貼りつつ、リーナが次に発した言葉は。
「好きなの? ガラドのこと」
オレに悲鳴を上げさせるには充分すぎた。
「!!??」
ただし『声にならない』という枕詞が付くけど。
「あ……なん、どうし……いいい、いつ気付いた!?」
どうにかこうにかオレの発声器官を強制労働させ疑問を投げつけると、リーナは納得した表情で笑みを浮かべた。
「わかりやすいわよ。あんな顔してて『気付くな』って方が無理があるくらいにね」
「あんな顔って……どんな顔だよ……?」
オレってそんなにわかりやすいか? そういえば恋愛狩人もすぐに気付いてたな。
「雪月ちゃんも自覚してるんでしょ? いわゆるメスの顔よ」
「メ、メスって言うな!」
こいつたまにすげえ発言かましやがるな。
「さあ、さっき話してなかったこと、ちゃんと話してもらうわよ? 根掘り葉掘り……ね?」
リーナはたぶん生まれる場所が違えば、あの恋バナ好きの四人組と良い友達になっただろうな。
そんな感想が、青く澄んだ空に溶けていった。




