目を開けて
〜〜〜〜〜〜
………。
『気が付きましたか?』
オレの頭の中に、龍神様の声が響く。
体を包む浮遊感とその声によって、オレは夢から目覚めた事を理解した。
早く龍神様に返事をして、お礼を言わなきゃいけないことくらい分かっている。
……だが、しかし。
「おぐぁぁぁ……! なにやってんだオレぇ……!」
ガラドの心の中で、自分がしてきた事を思い出して、羞恥心の肥大化に耐えきれずに悶え苦しむ。
(違う……違うんだ……本当はもっとかっこよく……)
そう……オレの理想としては、あいつと拳を交えてお互いに強さを認め合い、その末に思い出してもらうつもりだったんだ。
そして、「おいおい遅すぎる目覚めだな」とか軽く冗談を交わして、二人の友情はさらに深まった……って感じで記憶を取り戻してもらう予定だったのに。
あれじゃあ、まるで……オレがガラドの事を……
(いやいや、ないない。そんなんじゃねえって、だってオレは……)
というかそもそも、特訓でオレの槍術を見せれば思い出してくれるだろうと思ってたのに。
全然そんな素振りも見せずに、楽しそうに闘いやがったガラドにも責任はあるだろ。
ずっとずっとオレのこと思い出さずに、知らないとかわからないとか、そんな反応ばかりされれば、流石のオレでも泣いてしまうのも無理はない。
しかもだ。リーナが泣いてた時を思い出しながら、頭痛に苦しんでるガラドを抱きしめてみても「ユヅキ姉ちゃん」って呼んでくるもんだから、頑張って耐えていた涙腺に限界が来たんだ。
ああそうだ。考えてみれば、オレの事を忘れて、心の中に行っても「初対面です」みたいな態度を取られて……これで傷つかない方がおかしいって話だ。
思い返せば、オレが傷ついた原因の全てが「ガラドが記憶喪失になった」事に起因している。
「そうだ、全部ガラドが悪いんだ。目が覚めたら文句の一つでも……」
二人だけの空間だったとはいえ、恥を晒してしまった不満を漏らすと、不意に気付いた。
なんだか暖かいな、と。
ここは寒冷地で、そこかしこに雪が積もっている。
雪の里も近いし、他の種族には寒いだろうがオレにとっては涼しいくらいの気温のはずだ。
(ん? 違うな……これ、気温じゃなくて、体温の暖かさだ……)
そこまで思い至って、やっとオレは自分の状態を理解した。
大きな体に抱きしめられているとという事実を。
そして同時に、頭上から声が降ってきた。
「おう! 一つと言わず、たくさん文句言っていいぜ!」
「テメッ……起きてんじゃねえか!!」
オレのツッコミは、空に響いて溶けてゆく。
なんだか数時間前に、同じような言葉を言った気もするが、驚きのあまりそれどころじゃなかった。
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「いやー、迷惑かけたなぁ!」
「本当にな、このバカ! 筋肉バカ!」
龍神様に浮遊を解除してもらい、オレたちは並んで彼女の前に立つ。
オレとガラドが夢の中にいる間、地面に寝転がって汚れるのを配慮してくれてたのか。
オレはガラドに怒りをぶつけながら、龍神様の気遣いに心の中で感謝する。
『ユヅキ、ガラド。心繋ぎの魔法から、よく戻ってきてくれました。元気そうでなによりです』
オレたちのじゃれ合いを見て、満足そうに話しかけてくる龍神様。
「はじめまして、龍神様。俺の名前はガラド……ってもう知ってるのか……です」
彼女に返事をするガラドに睨みを効かせると、また不恰好な語尾が付け足される。
しかしそれを聞いた龍神様は、優しい声で答えた。
『畏まらず、いつも通りにしてください。さて……ガラドの記憶も戻りましたし、ようやく話ができそうです』
龍神様が改めてオレたちを順番に見つめてきた。
その水晶の瞳を見つめ返すことで、オレの心は落ち着き、色々と聞きたい事があったのを思い出す。
けれどオレが声を出すよりも早く、龍神様が言葉を紡いだ。
『あなたの希望のこと、性別のこと……そしてユヅキという名前のこと。あなたの抱く疑問は全て、私の行動によって発生したものです』
オレの聞こうとした三つの事柄が、龍神様に起因するとはどういうことか。
オレとガラドは同時に疑問符を頭上に浮かべた。
二人同時に首を傾げるものだから、龍神様はクスリと笑って話を続ける。
『少し長くなりますが、しっかりと聞いてください。あれはあなたが生まれたばかりの頃です……』
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