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目覚めて、その後

 あの激闘を終えて、七日が経った。

 長く続いた魔族の襲撃から解放されて、前線都市……いや、今はただの都市ダボライは活気を取り戻しつつある。


 なのにガラドは眠ったままだ。


 倒れていたガラドに治癒魔法をかけて気を失った後、オレとガラドは駆けつけた一般兵士たちに前線基地の簡易病室に運ばれた。


 オレはすぐに目を覚ましたが、ガラドは眠ったまま。魔族の掃討も終わり、前線基地からみんながダボライに戻る時、領地内の治癒院に移された後も変わらず。


 領主様から、近くの宿をタダ同然で借りることができ、オレはそこから毎日ガラドの寝ている病室に足を運んで世話をしている。


 胸の裂傷も左腕の開放骨折も、治癒術師たちが頑張ってくれたおかげですっかり治っている。オレの火傷や腹の刺し傷も同様だ。


 リーナのように跡も残らず、とはいかなかったが。それでも完治と言って差し支えない状態だ。


 顔色もいいし、今すぐ起きてもおかしくない。

 だが、ガラドは目を閉じたままだった。


 治癒術師によれば、治癒魔法は患者の魔力を利用して再生を早めている。だから魔力が消費されて底を尽きた状態になりがちだという。


 そのせいで眠り続けているのだろう。

 あの激闘の末、オレの目に映ったガラドの魔力も消えかけの灯火だった。


 理屈はわかる。それに開放骨折の治癒は、骨の治り方を考慮して、時間をかけて治癒を施すらしい。


 ガラドの左腕が治ったのはつい昨日のこと。

 だが、だとしても寝過ぎだろう。


 ガラドは希望ホープ持ちだ。勇者パーティ内では少ない魔力量とはいえ、そこらの獣人族より遥かに多いはず。


 治癒魔法でガラドの魔力を常に使い尽くすなんて不可能なんだ。

 確かに魔力が底を尽きれば眠る。けどコイツの魔力量を考えれば、目を覚ますための最低限は確保されているはずだ。


 実際、毎日オレが魔力視認をしているが魔力はしっかりある。いつ起きたっておかしくない。

「なのになんで……」


 魔力は見える、脈拍もある。生きているのはわかっているのに、目を覚まさない。

 もしこのまま、一生眠り続けてたら……


 いや、考えるのはやめよう。

 無意味だろ。それに今ガラドが目を開けたら、オレの情けない顔が見られちまう。

 そう思って、ガラドの手を握りながら俯いていた顔を上げると……


 目が合った。


 音もなく起きていたガラドと。



「テメッ……起きてんじゃねえか!!」

 いうまでもなく、オレの声が治癒院に全体に響き渡った。


 〜〜〜〜〜〜


「……うん、異常ありませんね。左腕の骨折も治っていますし、魔力の循環も正常です。このまま退院の手続きをしましょう。治療の代金は防衛軍経由ですでに支払われていますので、気にしなくて大丈夫ですよ。それでは……」


 ガラドの治癒を担当してくれていた先生の話が終わり、オレたちはその十分後に治癒院を出ることができた。


「いやー、それにしても……ずいぶんと眠ってたなぁ。このねぼすけ」

 オレたちは連れ立って歩きながら、話をする。


「……ったく、七日も寝てちゃあ体も鈍るだろ。これからトレーニングでも……ああ、一ヶ月は安静にって言ってたか……」

 右隣を歩くガラドを見上げながら、オレは口を開く。


「にしても都市全体がなんか嬉しそうだな! おい、どうだ? 一騎討ちで四天王をぶっ倒した英雄様の気分はよ!」

 ガラドの肩を軽く叩きながら、少しふざけて喋りかける。


「……なんだよ。少しくらい反応しろよな……もしかして声が出ねえのか……?」

 さっきからなんの反応もない。ガラドは陽気なやつだ。

 もしやなにか反応できない理由があるのか。そう思って立ち止まるガラドの正面に立ってみる。


 声の反応はないが、目はオレを見ている。魔力の流れは治癒術師の言っていた通り正常だし、歩く様子にもおかしい点はなかった。


 オレじゃわからない不調かもしれない。

 だったら急いで治癒院に戻らないと!


 焦燥感が胸中を支配し、オレの心拍数を上げる。

 こんだけ話しかけているのに、いつもはうるさいガラドが黙ってるなんて異常事態だ。


 話しかけて無視するような性格でもないし、もう一度先生に相談しないと……!


 そう思って道を戻ろうとしたオレの肩を、ガラドがガシッと両手で掴む。

「おっ……? なんだよおい、ビックリさせんなよ……」


 ようやくオレの動きに反応したガラドは、オレの目をじっと見つめて動かない。

 なんなんださっきからコイツは。反応はあるがなんだかよくわからないな。



 そう思っていると、ずっと喋らなかったガラドが口を開いた。


「あ……あんた、誰だ?」



 予想だにしない、否、ありえない言葉を聞いたオレがなんとか言葉にできたのは、


「……は?」

 疑問を示す一文字だけだった。

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