発覚
その後、粉々になった槍を魔素変換してから、キリアナが来た方向へと進む。
オレが来る前に騒いでいた声の主を探すためだ。
ある程度近付くと最新式の魔動車がガラクタと化しており、傍らでうずくまる男性を発見する。
声をかけてみるべきか、そう思っていたが男性の寝そべっている地面には血溜まりができていた。
顔が確認できるほど近付いてみると、左手が切り落とされてしまったようで、そのショックで気を失っている。
出血量も多く、顔色が悪い。ここまでくるとリーナの希望に頼るしかなさそうだ。
これ以上の出血を止めようと氷王の両眼で傷口を凍らせ、落ちていた彼の左手も一緒に凍らせておく。
オレは男性を担いでいこうとしたが、先ほどのダメージがまだ残っているのか力が入りづらかった。
(クソッ……!)
自分の情けない足に悪態をつき、氷王の両眼でソリを作り出し、そこに男性を乗せる。
(さて、アイツらのいた宿はどれくらいの距離だったか……)
〜〜〜〜〜〜
しばらく歩くと、なにやら声が聞こえてくる。聞きなれたアイツらの声だ。
やはり異常な魔力を察知して来てくれたんだろう。宿まで行くことにならずに済んだようだ。
オレは精一杯大きな声で、
「おおーーーい! こっちに来てくれ! ケガ人だ!」
と叫ぶ。
真っ先に来てくれたのは目当てのリーナだった。最も身体能力の低い彼女が来るということは、おそらくは別行動をしていたのか。どちらにせよこれは僥倖だ。
「大丈夫ですか?」
「ああ、オレは大丈夫だが、こっちの人を見てくれ」
「こ、これは……」
「ああ随分と重症だが、お前なら治せるだろ? 出血は抑えてるがこのままじゃ凍傷になりかねない。氷は解除するから、すぐに治療してやってくれ」
最初は男性の重症具合に血の気が引いてしまっていたリーナだったが、オレの言葉を聞いて力強く頷いてくれる。
「はい!」
「よしいくぞ……さん、に、いち、ゼロ!」
「《治癒の翼》」
声に呼応して、リーナの背から白銀の輝きを宿した翼が生えてくる。
リーナの希望《治癒の翼》は発動中、飛行能力を発揮することができ、更にあらゆる治癒魔法の効果を飛躍的に増大させられる。
通常の治癒魔法よりも時間がかかってしまうのは難点ではあるが、彼女にかかればあらゆる傷はすり傷同然。つまりはこれで一安心、というわけだ。
それにしても、なんでリーナはオレに対して敬語を使っているんだ? 初対面でもあるまいし。いやもしかすると、あんな別れ方をした手前少し後ろめたいのかもしれないな。
そんなふうに考えていると、ガラドとシドニスの姿も見えてくる。
二人の顔が見えた瞬間に、オレは興奮を隠せなくなってきた。
なんたって、コイツらと一緒に戦う資格を手に入れたんだからな。
やっと……オレは胸を張って勇者の仲間だと言えるんだ。
ジーンと感じ入っていると、いつの間にか近付いていたガラドにガシッと肩を掴まれる。
(おいおいなんだよ……ってなんかコイツでかくねえか?)
元々体格に恵まれた奴ではあったが、今日は特別大きくみえる。
何故かと考える前に、ガラドが驚いたような表情で訊ねてきた。
「お前……その匂い、ミリアか……?」
「は? 何言ってんだお前。親友の顔を忘れちまったのか?」
全く度し難い。ついさっき別れたばかりの幼馴染のことすら忘れるほどバカだとは思わなかった。
肩をすくめておどけて見せるオレに、なおさら驚愕の色を濃くしたガラドが大きな声を上げる。
「何ってお前……どうしたんだよ! その体は!?」
(体? ああ、さっき戦ってたから結構ズタボロになっちまってたのか?)
オレは傷の位置を確認しようと氷壁の魔法を使用して、鏡代わりにした。
光をキラキラと反射させる綺麗な氷に視線を移す。
するとそこには。
「は……?」
呆けた顔をした美女が突っ立っていた。
驚くべきことにその美女は、オレが着ていたはずの服を着用していて、更にはオレと同じ水色の髪を揺らしている。
「な、なんなんだよ、これはぁぁぁーーー!!」
天高く座する太陽にも届くほどのオレの声が、いや、女の声が響いた。
その声には困惑と悲壮と驚愕の感情が含まれていたことは、言うまでもない。