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虎軍奮闘

ポケポケおもろい……! おもろすぎる!

なんてソシャゲを、作ってくれたんや任天堂はん……これに比べたら山岡はんの鮎はカスや……!

 場所は変わり、ガラドとナーグの決戦の地。

 両者は拳を交えていた。


「オラァ!」

「フンッ!」


 交わるのは《獣王の拳(ビースト・フィスト)》によって変化した拳と、籠手の形をした呪装《穿空拳せんくうけん》だ。


(だんだんわかってきたぜ、あいつの呪装は風とか空気を操ってるなこりゃ……)

 ガラドはこれまでの攻防により、ナーグの呪装を理解していた。


 最初の攻撃で聞こえたあの妙な音は、風の刃を腕に纏って回転させていたから。

 それが鎧と同等かそれ以上の硬さを誇る虎魄こはくと接触したから、回転砥石のような音が鳴っていたのだ。


 そして今も、

「ハッ!」

 拳を打ち出す瞬間、風で加速して威力を増している。


 呪装によって加速した正拳突きを払い、カウンターの形でガラ空きの脇腹にフックをねじ込もうとする。


 だが、不自然な速度で後ろへと跳んで回避してみせた。これも風を使って、自身の動きを補助しているのだろう。


 追い風や向かい風、風の刃など、その操作はまさに自由自在。思えばあの《不可視の拳》と呼んでいた攻撃も、空気を固めて攻撃魔法のように撃っていたのだろう。それならば残骸が見えないのも納得だ。


 そしてこのヒットアンドアウェイ。風で加速し、風で回避。要所で不可視の拳を撃ち、牽制までこなす。

 武器のリーチの違いこそあれど、多彩な攻防の手段や判断力などがまるで……


(シドニスを相手にしてる時みてえだぜ)

 近距離も遠距離も制する様が友人と重なる。


 ナーグの戦い方は、全ての距離で自身の攻撃を押し付ける攻性に偏ったもの。だが、攻撃一辺倒かといえばそうでもなく、防御や回避、危険な攻撃に対する嗅覚も一級品だ。


 たった一人で完成された戦い方。攻防一体の戦闘スタイル。

 だが、これで手札は充分知ることができた。あるいはまだ隠している切り札があるかもしれないが、魔力の総量で負けている以上、戦いが長引くほどにこちらが不利になる。


 ならば……

「決めるぜ」

 言葉を紡ぎ、魔力操作を行う。両腕に作用していた獣王の拳(ビースト・フィスト)の変化が広がり、肩や胸、全身が変わってゆく。


「《獣王邁進じゅうおうまいしん》」

 獣王の拳(ビースト・フィスト)の変化を全身に作用させ、身体能力を一気に上げる、ガラドの奥の手だ。


 全身の獣化を終え、虎人族というよりも二足歩行の虎とでもいうべき姿へと変貌を遂げる。

 それを見たナーグは、興奮した様子で笑い声を上げた。

「ふふふ、はははは……! さらに上があるのか……お主の」


 ドゴンッ!

 言葉の途中で、ガラドがナーグの腹部めがけて拳をねじ込む。

 踏み込みの強さが如実に表れ、ガラドが蹴った地面がクレーター状にくぼんだ。凄まじい速度で放たれた拳は、ナーグの腹に突き刺さる寸前で籠手に受け止められてしまったが、対応はかなり遅れていた。


 風による回避が間に合わなかったナーグは、地面に線路道を刻みながら後方に吹き飛ばされる。

(なんという速度っ……!)


 ついさきほどのガラドとは、比べようもないほどの速度向上に驚き目を見開く。

 そんな様子を見せたナーグに、ガラドはすぐさま追撃を行った。


 ドゴンッ!!

 またも響く、地面を消し飛ばす踏み込みの音。そして音よりも早く、風を切って走り抜ける虎の影。


「せあっ!」

「ぐ……!」

 次なる攻撃は回し蹴りだ。音を置き去りにして放たれる蹴りに対して、ナーグの対処はまたしても遅れ、右肩に直撃する。


(頭を蹴り抜くつもりだったんだが……)

 だがガラドの狙いを見抜いたのか、体をずらして肩で受けたのは流石というべきか。

 とはいえ風で回避した時よりも重い感触が連続し、ガラドは口を開く。


「風の流れ、空気の揺れで俺の動きを予測してたろ? だから回避も防御もぜんぶが完璧だった」


 蹴り飛ばされ、何度も地面を跳ねて転がるナーグが体勢を整えてガラドを睨む。

「ぬう……」


「じゃあ風よりも速く動けば、当然こうなるよな? あと、もしお前も奥の手があるならすぐに使っとけよ?」


 轟音。地面が砕ける音。

「死んでから言い訳されちゃあ困るからな!」

「くっ……!」


 音が聞こえるよりも早く、ナーグは前に飛び出した。ガラドと真っ向から拳をぶつけるつもりか。


 だがそれは悪手だ。完全なる獣化を果たしたガラドの速さについて来られる存在など……


 いない……はずだった。

(なっ……!?)


 しかし刹那の後、ガラドは驚きをあらわにする。


 拳をわずかにずらして、ナーグの攻撃を避けこちらの突きが当たるように調節したはずだった。

 完璧に決まるはずの拳、しかしそれは空を切る……


 否。

「ならば見せよう。我が秘奥、《疾風空突(はやてからつき)》を……!」

 ナーグの顔面に直撃する寸前で、なにかに阻まれ止められていた。


 その事実を認識すると同時に、ガラドの横を通過していたナーグの拳から風が吹き荒れた。

「うおっ!?」

 あまりの風量にたまらず飛び退き、ナーグと距離を取らざるを得ない。


 しかしそれこそがナーグの目的だったようで、間髪入れずに攻撃を仕掛けてきた。距離は空いている、ならば不可視の拳か。

 鋭敏な感覚を総動員して、見えない拳を殴りつける。


「オラッ……なに!?」

 不可視の拳を正面から突き、防御に成功する。だが感触があまりにも硬く、風船を割ったような破裂音も無い。


 今までとは明らかに違う。そう確信を得た次の瞬間、横から空気の塊が飛んできた。

「グッ……!?」

 前方の攻撃に注力していたガラドはそれを防ぐことができず、横からの衝撃に声をもらす。


 虎魄こはくのおかげで直接的なダメージこそ無いものの、体勢を崩されそうになる。

 どうにか堪えて地面を踏み締めると、また全身の毛が逆立ち危険を予知した。


風拳乱打ふうけんらんだ!」

 声よりも速く、空気の拳が飛んでくる。右から左から、四方八方、あらゆる場所に逃げ場はなく、虎魄こはくの強度を上げて防御姿勢を固めるしかなかった。


 不可視の拳よりも硬く、強く、速い。ナーグの言った疾風空突(はやてからつき)とはこれのことか。


 研ぎ澄まされた感覚により、感知できた空気の塊は二つ。使い捨てだった《不可視の拳》ではなく、より魔力を込めて昇華させた風の拳。


「フンッ!」

 絶え間ない攻撃の最中、空気で作り出された両手を掴む。それを強引に握り潰そうとするが、手のひらの中で風が吹くと同時にその感触がなくなる。


(逃げるってことは、たぶん壊せるか。しかし厄介だな)

 単純に手数が増えただけではない。中、遠距離での攻撃が可能なのはもちろん、攻撃の重さも速さも厄介の一言に尽きる。


 このままではジリ貧だ。虎魄こはくの魔力消費は攻撃を喰らった分だけ加速する。


 虎魄こはくとは要するに、体表数ミリのところで凝縮した魔力のまく、見えない鎧のようなもの。

 軽い打撃ならまだしも、ダメージが大きいほど攻撃を受けた箇所は無傷とはいえず、魔力を追加して修復している。


 魔法やそれに類する魔力的なアプローチを、全て殴り潰す究極の闘気術とうきじゅつ虎魄こはく》。しかしそれはガラドだけが到達した、至高の魔力操作技術の上に成り立つもの。


 そして魔力消費が懸念材料となるなら、ガラドが取れる手段は多くない。

「ふう……」

「ほう? 見えない鎧は……もう使わないのか? 我の拳が届いてしまうぞ……」


 風や空気から情報を読み取ったか、ナーグが言葉を投げかけてくる。

「おしゃべりだな。さっき言ったはずだぜ? 男は黙って背中で語るもんだってな!」


 対するガラドが吠えた。声とともに地面を踏み壊し、ナーグに肉薄する。

 再度仕掛ける突進。しかし今回は直線的な攻撃ではなく、何度も地面を壊す音が響いた。


(なんとなく、見えるな。疾風空突(はやてからつき)っつったか)

 ナーグの周囲を走りながら観察する。とびきり優れた動体視力、危険を察知する五感、そして魔族特有である禍々しい魔力の気配。


 ガラドはそれらを用いて空気の塊を認識した。目を凝らしてよく見れば、境目がわかり、空気が歪んでいることを理解する。


 ナーグの命令を待つ風の拳が、こちらに睨みを効かせているような気さえしてくる。


「フッ!」

 だが守りに徹して勝てる相手ではない。意を決して飛び込み、蹴りを放つ。


 しかし、再度疾風空突(はやてからつき)に阻まれ、ナーグの後頭部に突き刺さるはずの足は、空中で止まる。


 ガラドの速度を捉えるために、前方は自身で、後方は風の拳で警戒していたようだ。四方を見張り防御をこなす、ナーグの対応力には思わず息を巻く。


 だがガラドの攻撃も、これで終わりではない。

「ハッ!」

 空中で受け止められた左足を軸にして、信じられない軌道を描きながら右足の蹴りを叩き込む。


 そしてついに、両者を隔てていた空気の拳は、度重なるガラドの攻撃に耐えかね、破砕音を響かせた。


 近接格闘において、右に出る者はいないとされるガラドの攻撃。それを何度も喰らえば、壊れるのは当然であった。

 それもただの蹴りではない。全身の獣化を果たしたガラドが繰り出す、渾身の一撃。


 これで壊せぬものなど、この世にいくつあるのだろうか。


 空中で身をひるがえしたガラドは、着地すると同時にすぐさまナーグに肉薄する。

「オラ!」

 繰り出した拳はナーグの籠手に受け止められたが、衝撃をもろに喰らって吹き飛ばされる。


(……いや)

 違う。感触があまりにも軽い。今度は見切られ、風による回避が間に合ってしまったか。


「まさかこれほど早く……《疾風空突(はやてからつき)》を砕くとは……ならば」

 そう言うと、ナーグは残った風の拳を消してしまう。中、遠距離の攻撃が苦しかったガラドにしてみれば好都合だが、それで終わりではないだろう。


 続けてナーグがフゥと息を吐き出す。

 すると先ほどとは打って変わって、構えが静かになった。あるいは纏う風の鋭さが無くなったというべきか。


「《天衣無風てんいむふう》……これを見せるのは、お主が初めてだ……!」

 だがナーグの顔は、それに反するように獰猛な笑みを浮かべている。

 まだ手札が残っていたのか。しかもおそらく……


(こっちが本命の切り札……って感じか)

 危険を感じると逆立つ全身の毛が、今はなにも反応しない。それが逆に警戒心を増幅させる。


 互いの手札は出揃った。あとは勝敗を決めるのみ。

 両者の戦いは、最終局面を迎える。

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