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剣王

「よっし。またオレの勝ちだな」

「ううう、明日もう一回やるわよ!」


「ほら、リーナもミリアもまずは休憩してくれるかい? ミリアはそのあと僕と訓練だからね」

 わかりやすく悔しそうな表情を見せるリーナを、シドニスがなだめる。


「それにしても、さっきのはいい作戦だったなミリア」

「そうだね。相手の魔法を利用して水蒸気を作り出して視界を塞ぐ。見事だったよ」


 ガラドとシドニスがオレを褒めてくる。

 オレ自身上手くいったなという実感もあって、素直に嬉しいと思う。


「だろ? 煙幕の魔法を使ってもリーナには通用しねえからな。違う手段でリーナの対応を遅らせるしかねえって思ってな」


 オレは鼻高々に自分の考えを話す。するとさっきまでオレに負けて悔しがっていたリーナも落ち着いた顔で声をかけてくる。


「それもたしかにしてやられたけど、一番はやっぱり氷王の両眼(アイス・アイズ)の汎用性よね。まさか火球も凍らされるとは思わなかったし」


「そうだね。熱を持った魔法を凍らせるにしても、どれくらいの規模までなら可能なのか……それに消費魔力量の違いも気になるね」


「魔族を一人まるっと凍らせたことだってあんだろ? そのあと逃げられたっつってたが、あんときゃどんだけ減ってたんだ?」


 ガラドの質問に、少し考えてから答える。

「んー、そこまで気にしてなかったから多分だが、半分かそこらだったな。人間サイズの生き物をまるまる凍らせるのも二回が限度ってとこだ。そのあとオレの魔力はすっからかんになるだろうな」


「なるほど……でも一瞬とはいえ相手を完全に拘束できるのを考えれば、それでも破格の能力だと言えるよ」


「そりゃそうなんだが、相手を完全凍結させるのになんの制約もねえとか流石にそれはあり得ねえよな? なんかの条件はありそうなんだが」

 オレがそう言うとガラドが反応を見せる。


「やってみるか? 完全凍結。肉体の耐久性が高い方が安全だよな? っつうことで俺が適任だろ。よっしゃこいミリア!」


 ……聞かなかったことにはできねえかな。


 オレの思考が伝わったのか、リーナとシドニスも似たようなリアクションをする。


「あれおかしいわね。なんだか一気に会話の知能指数が下がったような気がするんだけど……」

「さ、流石に凍傷どころじゃない危険性なのはわかってるはずなんだけど……一応聞くけど、なんでそんな提案をしたのかな?」


「ん? いやだって俺は虎魄こはくが使えるだろ? なら凍っても大丈夫なのは俺だけだろうが」


 なんでコイツは「至極真っ当な意見です」みたいな顔ができるんだろうか?

 オレがため息を吐いていると、筋肉バカにリーナが即座に突っかかる。


「あ・の・ね! 試してみて本当に凍死しちゃったらどうするの!? あんたの虎魄こはくは確かにすごいけど、危ないことにあっさり名乗り出るのやめなさいよね!!」


 赤髪のお嬢様に捲し立てられたガラドは「お、おう。悪かった」と言うにとどまる。


 まあコイツの言い分もわからなくはない。オレの完全凍結は場合によっちゃあ決定打になり得る。それを事前に調べておくことは重要だって考えてあんな提案をしたんだろうが、さすがに危険すぎだろ。


 シドニスも同じように考えたのか、

「確かに、事前にミリアの希望ホープを調べようっていうのは悪くないんだけどね。完全凍結にしてもなんにしても、安全な方法を考えよう」

 と促す。


「だな。もし虎魄こはくを無視して全身凍らせた場合、そうそう死にはしねえかもだがそれでも危ないってことには変わりねえからな」

 オレもついでにガラドを諌めておくとしよう。


 するとガラドも、

「そうだな。変なこと言っちまって悪かった」

 と反省した顔を見せる。


 オレの氷王の両眼(アイス・アイズ)の話題がひと段落ついたところで、オレとシドニスは立ち上がる。


「よし、そんじゃあそろそろやるか!」

「そうだね。お手柔らかに頼むよ」


 オレたちは一定の距離を置いて、開始の合図を待つ。


「それじゃあ行くわよ……はじめ!」


 リーナの声と同時にオレは後ろに退がる。

 シドニスとオレは同じく魔法を使う戦士。シドニスは剣でオレは槍だが、分類状は同じ戦法をとっている。


 だがその練度には間違いなく隔絶した差がある。

 魔法に於いてはリーナに迫り、近接でもガラドと互角に戦える。人類最強は伊達じゃない。


 もちろんそれぞれの分野に限定すればリーナやガラドが勝つだろうが、これは戦闘訓練。総合的な部分や、戦況を見極め相手の動きを先読みできる能力の高い方が勝つ。


 そしてオレがさっきリーナに勝てたのは、上記の理由と相手に大怪我をさせないようにするというオレたちのルールの穴を突いたに過ぎない。


 武器であれ拳であれ蹴りであれ、近接の手加減は簡単だ。相手に攻撃が当たりそうになった瞬間に力を緩めてやればいいだけだから。


 だが魔法はそうはいかない。図式魔法を完成させて攻撃を放てば最後、敵に当たるか相殺されるか、あるいは回避されて地面や壁に激突するまでその威力は保たれてしまう。


 つまり威力のある魔法はこのルール上に於いてはまったくもって使い道がない。加えてリーナは情の厚い優しい奴だ。それらの点を踏まえれば、四人の中で一番手加減をしすぎてしまうのはリーナで間違いない。


 本来の高火力魔法使いという利点を失わざるを得ないリーナに勝つのはむしろ当然とすら言える。


 実際に本気で戦えば結果はわからないが、極力怪我をさせないようにするというルールによって、この戦闘訓練は戦士の方が有利になる。


 しかしこの理論は優しいリーナだからこそのもの。

 訓練といえどそれなりに割り切って魔法を撃てるオレなら、その限りじゃない。


 オレは金剛こんごう飛翔ひしょうを使用して距離をとりながら魔法を放つ。シドニスはガラドに次いで肉体が頑丈だ。だからこそリーナ相手には使えなかった魔法を今は使える。


 一直線に敵を貫く氷槍ひょうそうの魔法。上空から敵に降り注ぐ刺氷しひょうの魔法。そして質量を持って敵を潰す氷槌ひょうついの魔法。


 さらにダメ押し、進路を予測して移動を妨害するために氷壁ひょうへきの魔法もプレゼントしておく。


 これなら流石のシドニスも……

「なるほど。たしかに見違えるほどに強くなったね。なら……」


 バキィィン!!

 強烈なまでの破砕音が耳を殴打する。


 氷のカケラが宙を舞い、オレの魔法はことごとく役目を果たさないまま消え去る。


 オレの視界に映るのは当然、

「僕も《剣王ソード・ロード》を使った方がいいかな」


 魔力で構築された剣を携えたシドニスだった。


 シドニスが持って生まれた剣王(ソード・ロード)という能力は、オレたちの中の誰と比べてもシンプルだ。


 たった一言で表すなら、魔力を剣にする。ひどく単純で、それ故に強力。


 基本的に魔力というものは質量を持っていない。精神体に流れるエネルギーであるそれは、闘気術や魔法といった技術によってのみ効果を発揮する。


 だがシドニスの剣王(ソード・ロード)は例外だ。魔力をそのままの状態で剣の形にして物理的な攻撃手段を手に入れることができる。


 これだけを聴くと魔力を消費して即席の武器を作り出すだけの能力だと思われがちだが、これの本質はもっと別のところにある。


「今度はこっちの番だね」

 そう言うとシドニスは持っていた魔力の剣を勢いよく投げつけてきた。

「クソッ!」

 オレは迫り来る魔力の剣を棒で弾き飛ばす。


 そしてオレの弾いた剣ははるか彼方へと飛んでゆく。


 ……わけがなく。

 あらぬ方向へ弾いたはずのそれは、謎の直線軌道を描きながらシドニスの手元へと帰ってきた。


 そう、これが剣王(ソード・ロード)の真価だ。作り出した魔力の剣は物質的でありながらも、魔力としての性質を失っていない。


 つまり、シドニスが生成した剣は意のままに操ることができるのだ。

 アイツがその気になればもっと多くの剣を遠隔操作する事で、自分は一歩も動かずに敵を仕留めることだって可能になる。


 まあ尤も、それを可能にしたのは魔法の鍛錬の成果だと言っていた。

 魔力を体外に放出し標的を狙う技術を学んだからこそ、シドニスの剣王(ソード・ロード)はこれほどまでに研鑽されたのだろう。


 そして当の本人は手元に戻ってきた剣を握りしめながら、こちらに話しかけてきた。

「まだ終わらないよ」


 言い終わるや否や、シドニスはオレに向かって接近してくる。間違いない。アイツは近距離戦に持ち込むつもりだ。


 とはいえオレの魔法もシドニスの能力の前では十分な役割を果たすことはできなかったから、接近戦は望むところ。


 迫るシドニス。きらめく魔力の刃。

 二人が繰り広げていた遠距離戦は終わりを告げて、白兵戦へと移行しようとしていた。

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