プロローグ
よろしくお願いいたします。
最近、俺を悩ませる存在。それはいつも背後から静かに近づいて、俺の上着の裾を引く。
溜息を吐きたいのを堪えて振り向けば、ただ美しいと表現するにはあまりに整いすぎた、しかしどこか儚げな容貌の御令嬢が俺を見上げている。
「どうなさいました?」
その問いかけは形式的なものに過ぎず、俺は彼女がここに来た理由を知っている。
「コリン」
俺の名を呼ぶ彼女の声は小鳥のさえずりのように可憐だが、明らかな媚びが滲んでいる。
彼女が今度は俺の袖を握る。
もう何度目だろうか。
俺は彼女に脅されていて、だから決して拒めない。
周囲に視線を走らせて他に誰もいないことを確かめてから、彼女に望みのものをーー口づけを与える。触れるのは、ほんの一瞬。
離れた後は彼女の顔から目を逸らし、再び背を向ける。
「もう行ってください」
「ええ」
彼女の気配が遠ざかり、俺は今度こそ深く息を吐き出す。
お読みいただきありがとうございます。
「忍び込んだら捕まりました」を書いている時には、彼を主役にするなど思ってもみませんでした。
「私の王子は天邪鬼」を書いているうちに、彼女には彼だなと気づいてこうなりました。