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第3話 聖女様の寝間着はネグリジェだった


 早朝、宿をでて、俺は神殿へ走る。


 ここ数日いまだ慣れない『崖の都市』ジークタリアスの道のりだが、神殿への道だけはバッチリ覚えた。


 なぜなら、神殿にはマリーが住んでるからだ。


 特級クラス【施しの聖女】をもつマリーの体は、いわば国の宝。そんな彼女は村でも、″神殿騎士″がよく気にかけたりするくらい、他の子どもたちと住む世界が違った。

 

 14歳になり美しく成長したマリーが、この都市へ活動拠点をうつしたのを機に、神殿勢力の超高邁に保護される運びとなるのは当然のことと言えるだろう。


 それにしても、神殿が家だなんて、マリーはほんとうに凄い。


 俺はピカピカと光る輝石でつくられた綺麗な廊下を歩き、すれ違う神官たちへお辞儀しながら、マリーの住んでるという家にむかった。


「ここ、かな?」


 神殿の上階、その最奥のやけに豪華な装飾が施された部屋のまえに、場違い感を感じながら俺はたつ。


 まだ冒険者登録すらしていないので、特に身元を保証するものがなく、現在は″謎の少年M″がだとうな分際(ぶんざい)ゆえに、ふつうなら一般人は入れない神殿の上階にいるだけで悪いことをしてる気分になってしまう。


 うーむ、本当にこんなところにマリーは住んでるのだろうか? 


 いざ来てみると、アルス村では喧嘩100連勝の無敗の姉御として慕われ、干し草のうえで昼寝をするのが大好きだった彼女が、こんな高貴な場所にいるとはとても思えなかった。


「やっぱり嘘ついてるんじゃ……ん?」


 心もとなくあたりを見渡していると、近くの女子トイレから当たり前のようにマリーが出てきた。


 薄いネグリジェを着ていて、腰までかかる金髪もワサッと解放、肩まで寝間着がはだけてる姿が、悩殺効果をもたらしてくる。


 思わず鼻血が出そうになるのをおさえて、目のまえの豪華な部屋へはいっていく背中を見守る。


 まさか、本当に神殿に住んでいたとは。


 にしてもマリー、起きてたな。


 朝起こし係の存在意義がなくなった?

 となると俺は必要ないのでは?


「うぅ、だけど、もう一回くらい今の姿を見たい……」


 俺とて男子だ、そこに希望があるなら手を伸ばしたい。


 豪華な部屋の扉をノックする。


 すると、中から何やらガタゴトと物音がして、しばらくした後、静かになった。


 返事は返ってこない。


 おや? これは入っていいのだろうか?

 中にマリーはいるはずだし、大丈夫だよな?


「失礼しまーす、入りまーす」


 一応、公的空間ゆえ、それなりの言葉遣いで初聖女様の部屋に足を踏みいれる。


 ひとことでいって圧巻だった。


 この世の贅をつくしたような、細かい装飾の施されためちゃくちゃ高そうな調度品の数々。

 マリーが絶対に理解できなそうな絵画や、石像の美術品など、あきらかに14歳の少女が住む部屋ではない。


 マリーと自分の差をあらためて理解しつつ、ムダに広い部屋の奥にあるカーテン付きのダブルベッドへ足をむける。


 すると、俺はおかしな光景を見た。


 どういうわけか、マリーがスヤスヤと目を閉じて眠っているのだ。

 まるで、「起こしてくれない限り、絶対に目を覚さないからね!」とでも言いたげに、断固として自分から起きる気配を感じない。


 さっきは全然眠そうじゃなく、なんなら剣の手入れでもしようかなっと言った冴えた顔つきだったのに。


「すぅ、すぅ、むにゃむにゃ、すぴー」

「うーん、でも、むにゃむにゃ言ってるし、寝てるよなぁ。さっきのは幻覚かな?」


 そうだよな、きっと幻覚だ。

 マリーが寝たフリをする理由がないしな。


 俺はそう考え、昨日教わったとおりに、マリーの耳元に口を近づけ、深い眠りを解くための言葉を優しくささやいた。


「もう朝だよ、起きないと朝のお祈りに遅刻しちゃうよ」

「っ、むふふ……っ」


 俺の言ったことがそんな面白かったのか、幸せそうに笑顔を綻ばせるマリー。


 目をバチッと開けて「ふわぁー、もう朝かー、起きないとなぁー」と眠たそうに言ってぐっと伸びをする。


 反らされる背と裏腹に、主張される豊かな胸。

 本当に14歳なのか、とか周りの大人がささやいていたが、マリーが魅力的なのは、きっと聖女だから特別なんだ。


 だから、マリーは本当にすべてが可愛いに違いない。


「ふふ、マックスのおかげで気持ちよく起きれたわ。ありがとねっ♪」

「……別にこれくらい、どうって事ないよ」


 マリーの嬉しそうな顔を見てると、俺も嬉しくなる。


「それじゃ、マックス、ちょっと下で待ってるのよ! 支度したらすぐに行くから!」


 マリーに鼻先をつつかれる。


 こんな蠱惑的なしぐさをしてくるから、本当に油断ならない。手で隠せたが、無事、鼻血を出してしまったじゃないか。可愛すぎるよ。


「ぅ、うん、降りて待ってるよ」


 聖女がもつ大事な役目のひとつ。


 朝のお祈りに参加するため、俺は高揚とした気持ちに、心臓をドキドキさせながら、彼女の寝巻き姿を目に焼きつけて、階下へと降りることにした。


「面白い!」「面白くなりそう!」

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