25 最終話
何とか追いついた。
いかにもそれらしい装飾のついた大扉が開いていたから、室内に飛び込んでみれば、そこにクランの姿はあった。
「この馬鹿王子っ、よくも裏切りやがったな!」
あたしは大声で叫んで、クランへ剣を突きつける。
背中を向けていたあいつは、ゆったりとした動作でこっちに振り返った。
「私がどんな気持ちで君を見ていたと思う」
「何だと!」
「私がどんな気持ちで君のような人間の言葉を聞いていたと思う」
「どういう意味だよ!」
クランは、酷薄な笑みを浮かべて述べた。
「旅の途中で君は、お金持ちの人間が嫌いだと言ったね」
「それがどうかしたのかよ」
「楽ができてていいな、とも」
「ああ、だからどうしたって言うんだ」
「何不自由のない生活をおくれて、羨ましいとかも」
「言ったさ、だから何が言いたいんだ!」
一息つたクランは、怒りの表情になる。
見た事ない顏だった。
こいつもこんな顏ができるんだな。
「私がどんな気持ちで王族でいたのかもしれないくせに、好き勝手な事を言うなっ! みんなそうだ。誰も彼もがそうだ。こちらから歩み寄っても、みんなそういって私に壁を作り、私を上に持ち上げたがる。誰も本当の私をみやしないんだっ!」
「クラン」
「お前たちは知らないんだっ! 私達王族に課せられる重圧をっ! どんな時でも、みっともない真似は許されない、どんな時でも失敗は許されない。常に泰然として、毅然として、自信に満ち溢れていなければならない! 自由な時間などないっ! 他の夢など追う事は許さない! これのっ! どこにっ! うらやむ要素がある!!」
「あたしは」
知らなかった。
クランは、そんな事を思っていただなんて。
だってあいつはいつも超然としてて、毅然としてて、性格が悪くて、余裕ぶってて。
それが全部だと思ってた。
あいつの内心なんてて考えた事もなかった。
あたしはいつの間にか剣をおろしていた。
クランと戦えないと思った。
「だから、私が世界を救うんだ。そして、王族の責務から解放される、これでやっと私は一人の人間になれる」
兵士達があたし達を取り囲んだ。
クランはこちらに背を向けて、何かの操作を始める。
あたしは、剣を降ろして手を挙げた。
逃げるという選択肢もあったけど、それじゃ孤児院の者達がどうなるか分からない。
それに、そんな事をしたらクランが余計傷つくと思ったのだ。
兵士達に取り押さえられはしたけど、殺される事はなかった。
近くにいたシェフィも捕まったのがちょっと心配だけど。
小さい子に乱暴するなよ
すると、遺跡が振動しはじめる。
「ははっ、やった。やりとげたんだっ! これで私は!」
クランは何かの操作を終えたようだ。
これで良かったのか。
あたしはクランを止めるべきだったんじゃないのか。
でも、あたしはクランの願いを無視できない。
それに、アイツの本心に気づいてやれなかった負い目もある。
「あはははははっ!」
悩みながら歓喜の声をあげるあいつの姿を見つめる。
まるで別人だ。
その時、クランの右手が吹っ飛んだ。
「ああっ、腕がっ。僕の腕がっ!」
操作していたところから強い光がはなたれていた。
それに触れてた右腕が跡形もなく消滅したのだ。
「どっ、どうしてっ!? これで僕は幸せになれるはずじゃっ!」
「クラン! 逃げろ!」
狼狽するクランはそのまま光に飲み込まれて消えていった。
そんな。
何でこんな事になっちまったんだ。
光は徐々にこちらにも迫っていく。
兵士達が「退避だ!」「急げ!」「王子はどうなったんだ!?」「分からない! でも助かるはずがないだろ!!」「プログラムの改ざん、防衛機構が作動したか」なんか喚いているけど、あたしの耳には入ってこない。
そのまま兵士達は急いで逃げたため、あたし達は解放されたけど、逃げる気にはなれなかった。
「アメリアさん!」
シェフィは、おねえおっさんにひきずられて行ったようだ。良かった。
あたしはポケットの中から、あいつにもらった指輪をとりだす。
光の中にのまれていく。
あーあ、どこで間違っちまったんだろうな。




