恐怖心は人をおかしくさせる。
前回学んだこと
女心は怖い
翌朝、早めに起きてリョウタロウを見に行った。
「大丈夫かー」
「【3次元機動】でなんとかね。でも頭に血登ってヤバイ……」
「……面白いからもう少し吊られてろ」
「……なんか……言い返す元気もないわ……」
あ、これは結構重症だな。でも、この世界には回復魔法があるから大丈夫だろ。
しばらくして、みんなが起きてリョウタロウは下された。顔色は悪く、フラフラしているが、生きているから大丈夫。
朝ご飯を食べて、みんなと色々と話し合う。リョウタロウについてとか、この国のこととか、様々な情報を貰った。
おれはまだこの世界についてあまりにも無知だからな。できる時に色々知っておかないと。知識が有れば何でもできる。あと少しの筋肉ね。
その日はギルドに行ってクエストを受けたりせずに街をぶらついていた。
ついでにリョウタロウと一緒にロボルの散歩をした。
なんでも、本人はロボルの言葉がわかるらしいが、おれには「ワンワン」の繰り返しでさっぱりだ。
しかし、ロボルはこちらの言葉を理解しているらしく、かなり頭が良い。
「親が親だからなぁ」
「そんなデカかったのか?」
「「黙れ小僧!」とか言いそうな雰囲気?」
「それはデケェ」
など、少し頭の悪い会話をしつつ、色んなところに行ってみた。レストラン、酒場、カフェなど、時代的には中世くらいだというのに、レパートリーが豊富だ。
「こっちは中学生くらいから酒嗜むらしいからな」
「リョウタロウも飲むのか?」
「少しだけならな」
「美味しい?」
「分かんないけど、基本ワインとかビールばっかりだから、炭酸飲料と思えば美味しい方じゃない?」
「酒の意味よ」
おれも少し飲んだが、まだ良さは分からない。
正月に親戚と集まった時にちょびっと飲んだことがあったが、全然違う。
その後、家に戻ってソファーでダラ〜っとしていた。
ロボルの抱き心地が良くて気持ちいいのだ。
「一応俺の犬なんだけど……」
「えー良いじゃん。てか犬じゃなくね?」
「それは触れてはいけない」
「てか、犬ならいるじゃん」
そう言って掃除をしているアンスを指差す。
「殺されてぇか」
「すまんすまん」
その時のリョウタロウの目は割と怖かった。
それから昼寝をして、夜になった。
「リョウタロウーなんか作って〜」
「えぇ……」
「久しぶりにリョウタロウの飯が食べたいからさ」
そう言いながら近づいて耳打ちする。
「葬式でドタバタしててコンビニ飯とかインスタントばっか食ってた時期あったからさ。ね?(ヒソヒソ」
「はぁ、分かったよ。それで? リクエストは?」
「んじゃシチューで。具材あるでしょ?」
「微妙に面倒なの選びやがって……」
そう言いつつも、リョウタロウは料理を始めた。
本当は和食の方が得意なのは知っているが、まあ味噌とかないしな。
すると、エヴリーヌたちがぞろぞろと集まってきた。
「リョウタロウが料理してくれるのか!?」
「ダメだったか?」
みんなリョウタロウがキッチンに立っているのが不思議なようだ。
「いえ、リョウタロウさん、普段あまり料理したがらないんですよ」
アンスがテーブルを拭きながら話す。
「そうなの?」
「はい。基本は私とキーラさんでやっています」
「何故かしたがらないんだ。全く、妻の私が頼んでもやってくれないとは……」
「今日はなんで料理しているんでしょうか」
コリンナが椅子に座りながら聞いてきた。
「おれは特別だからなぁー」
「ショウさんがですか?」
「おれらの間の頼みごとはそんじょそこらの頼みごととは違うって訳よ」
そんな話をしながら夕食を食べ、その日は終わった。
……筈だった。
その夜、リョウタロウが部屋に来た。
「用意しろ。出るぞ」
するとリョウタロウはロボルを連れて外出した。
「こんな時間にどこ行くつもりだ?」
「とりあえずいいから」
リョウタロウはそう言って、結局森まで来た」
「いい加減どこ行くか聞かせてくれよ」
流石のおれもアリスターからそこそこ離れてきたのでリョウタロウを止めて問いただす。
「アリスター以外のところだ」
「はぁ?」
「確か東にかなり行けば別の国があった筈だからな」
「いやいや、待てって。エヴリーヌ達はどうするんだよ」
「……」
リョウタロウの表情は暗い。
「まさか……お前正気か?」
「正気だよ。この上ないくらい元気だよ」
「じゃあなんで……あいつらがお前のことどう思ってるか知ってるだろ! 空成みたいな朴念仁じゃあるまいし!」
「理由は簡単だ。邪魔だったからだ。トラブルしか持ってこないし、しつこく付きまとってくるし、俺の要望なんか聞きゃしない」
「だから、逃げるのか?」
「俺からすれば、ショウとロボルがいれば十分だからな!」
おれはリョウタロウを思いっきり殴り飛ばした。
「だから捨てるのか!? お前をあんなに思ってくれる人たちを!」
するとリョウタロウはおれの胸ぐらを掴んできた。
「誰が頼んだ! 誰が思ってくれと願った! お前に何が分かるってんだよ!」
リョウタロウはおれを突き飛ばし、木にぶち当てた。
「1人ぼっちでこんな所に飛ばされて、寂しくて、怖くて、毎日毎日寝る時には「夢であってくれ」と願い、目が覚めて絶望する日々を送り、そんな自分が情けなくて、死のうとしても怖くて死ねない!」
リョウタロウは顔を手で覆い、その指の隙間からおれを見ている。
「なのにいくら突っぱねても引っ付いて来やがる! その度にショウや湊人、空成の顔がチラついて、イライラする! 俺にとっては、あんな奴ら、邪魔で仕方がないんだよ!」
おれは木に手をつきながら起き上がる
「だから、逃げて、捨てるのか?」
「ショウが来てくれた今、あいつらは本当の意味で必要なくなった。ショウの話じゃ、湊人や空成も来るみたいだし、だったら、4人で楽しく……」
おれはリョウタロウの顔を蹴り飛ばした。
「ふざけるのも大概にしろ! そんなもの、お前の現実逃避じゃないか! 本当は親しくしたいくせに!
今のお前は、また失うのが怖くてできないだけの、ただの腰抜けだ!」
「うるさい! あんなちょっと優しくしただけで惚れ込むような奴らと馴れ合いする気は無いんだよ!」
「本当にそれだけだと思ってるなら、お前は大馬鹿野郎だ! あいつらがただ優しくされたから、命を助けて貰ったからでお前を思っている訳ないだろう!」
「じゃあどうすればいい! 受け入れて、また失って、自分から破滅の道選べってのか!」
「そうならないようにすればいいだけの話だろう! この世界はいわばゲームの世界だ。レベルやステータスも存在はする。だったらそれを上げて、守るのが筋だろう!」
「そんなもので守れるものか!」
「そのためのおれたちだろうが!」
「っ!」
おれはリョウタロウの肩を掴む。
「湊人や空成もそのうちくる。また4人で“ゲーム”するんだけなんだよ! この“ゲーム”をプレイして、誰にも負けないくらい強くなればいい! おれたち4人なら出来る! “ゲーム”なんだから、クリアがどっかにある筈だろ!」
「……でも……俺は……!」
「怖くて命預けられないか? 俺らのこの10数年間はそんな薄っぺらかったのか!?」
「それは……!」
「違うってんなら証明してみせろ! 戦って、生きて、生き抜いてみろ! 4人で守りきれなかったその時は腹切って詫びてやる! だから、逃げんな!」
すると、リョウタロウは拳の力を抜き、その場に座り込んだ。
「やっぱ、口喧嘩でショウには勝てなかったか……」
「次、今と同じことほざいて見ろ。本気でぶっ殺すからな」
リョウタロウが起き上がるのを手伝い、アリスターに向かって歩き始めた。
きっと、リョウタロウは怖くて怖くて仕方なくて、こんなことしたんだろう。
おれがなんとか支えてやらないといけないな……
次回、トレーニング




