異世界の入国審査は緩い。
前回で学んだこと
返り血が汚い。
助けた人は行商人で、ポールさんといい、馬車には妊娠した奥さんも一緒だった。
実家に帰るついでに届け物をしていたらしいく、襲われたのはその帰り道。
護衛の人も怪我をしたが命に別状はなく、3人とも無事だった。
ポールさんはお礼にこの道の先にあるアリスター王国というところまで乗せて行ってくれるらしい。
「しかし、本当に助かりました。リョウタロウさんが居なかったら今頃どうなっていたか」
馬車を走らせながらポールさんが話す。
「リョウタロウさんはどこから来たんですか?」
別世界から!とは勿論言えない。
「だいぶ遠くから旅して来たんですよ。まあ自分探し? みたいなものですかね」
だいぶどころか遥か彼方からだけどね。
道中、ポールさんからアリスター王国について聞いた。
アリスター王国は人類側の国の中でもかなり大きい国で、多くの種族が住んでいて、魔王との戦線からは遠いため、戦争とはあまり縁がなく、平和な国らしい。
しかし、この時代の国では貴族や奴隷などが平気でいる。
理由は簡単。人権問題なんかが取り扱われる前の時代だからだ。
ポールさんは一般の人と比べると割と裕福な方らしく、アリスターでは雑貨屋を営んでいる。
値段は少し高いが、貴族のお得意様もいてまあまあ儲かっているらしい。
雑貨屋といっても卸売業に近く、生産者に顧客の求めるものを発注したりして売っていて、いろんなところにコネクションがある。服や生活用具だったり、値段の高い100円ショップという例えがしっくりくるかも知れない。
値段が高い時点で100円ショップでは無いのだが。
少しすると、アリスター王国が見えてきた。
見えてきたといっても見えるのは大きな壁だけなのだが。
おそらく、魔物から国を守るために作られたものだろう。
そしてとにかくデカイ。
高さは10階建てのビル程かそれ以上かも知れない。
そこで俺は気づいたのだが、これパスポートも無しに入国出来るのだろうか。
しかし、ポールさんが衛兵と少しやりとりをすると、あっさり通してくれた。
どうやら異世界での新生活で素晴らしい友人が出来たのではないだろうか。
アリスター王国に入ると沢山の人がいた。
渋谷のスクランブル交差点ほどでは無いが、とてつもない量だ。
道の両脇には宿など多くの施設があるが、飲食店が多い印象だ。
この時代の人々はお酒が大好きなのだろう。
こんな昼間から酔っ払って騒いでいる人も見える。
多くの人混みの中には冒険者もいる
冒険者とは、国にあるギルドに登録した魔物退治や依頼をこなすことを生業としている人たちのことで、現代社会で言うサラリーマン並みに人口の多い職業だ。
俺もこの後ギルドを覗いてみようとは思っている。
この世界に来るときに多少の路銀は持って来ているが、多くはない。
この世界の通貨は、銅貨、銀貨、金貨でそれぞれカッパー、シルバー、ゴールドと呼ばれていて、100枚で位が上がり、小さいコインと大きいコインがあり、大きいものは10枚分の価値がある。
この世界の一般市民の月収が10ゴールドで、俺の今の有り金は3ゴールド。
まあ切り詰めれば、2週間から3週間程は大丈夫だろうが、お金に余裕があることに越したことはない。
そして街を見ていると、人間以外の種族も多い。
ゲームのキャラクターの種族と呼び名が一緒なら、ドワーフ、エルフ、リザードマンなどが見える。
それぞれの種族が特徴を持っており本当にゲームの中に入ったかのような気分になる。
しかし、ゲームの中でもなければ夢でも無い。ここは異世界なのだ。
俺は、自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。
街を通り、しばらくすると、ポールさんの店についた。
中は綺麗で、いろんなものが売っている。
「今、お茶を持って来ますね」
「いえ、別に俺は……」
「遠慮しないでください。待ってる間、ぜひ色々見ていてください」
相手の好意を断るのもあれなので、少し見て回ってみた。
雑貨屋に相応しく、多くのものが売ってある。
どれもこれも品質の良いものばかりで、俺はキッチン用具に目が止まった。
フライパンや鍋、包丁などを見てみるが、値段がそこそこ高い。日常生活をしていて買い換えようという気分で買う物では無い。
少しすると、ポールさんがお茶を持って来てくれた。
「ありがとうございます」
「いえ、命の恩人ですから。それと、これを」
するとポールさんは奥からローブのようなものを持ってきた。
「旅をするなら、羽織るものの1枚くらいあった方が良いですからね」
「そんなつもりで助けたわけでは」
「あはは、いえ、お近づきの印ということで。それに、こう言ってはあれですが、売れ残りですから。気にしないでください。あ、でも売れ残りだからって中途半端なものでは無いですよ?」
俺は、ありがたくそのローブを受け取った。
「そうだ、リョウタロウさん、今夜の宿はお決まりですか?」
この国どころかこの世界が初めてだから決まっているわけがない。
「いえ、まだですが」
「なら、この通りの先にある『小鹿亭』に行ってみてください。オーナーが知り合いなので、紹介状も書きますよ」
「何から何まで申し訳ないです」
「いえいえ、私は貴方のおかげで妻も子供も失わずに済んだんですから。」
そう言ってポールさんは紹介状を渡してくれた。
「では、今日は本当にありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。また来ますね」
ポールさんと奥さんに見送られ、俺は店を後にした。
ステータスを盗賊系にしたのに、やってることが騎士様とかと変わらなくて少し調子が狂うが、気持ちがいいのでオーケーだろう。
次回、初めてのスリ




