同類は感覚でわかる時がある。
前回学んだこと
死ぬときはスパッと
転移した場所はリョウタロウのいる国の近くの森にしてもらったが……ここは本当に異世界か?正直単なる森にしか見えないんだが。
服が変わっていたり装備があったりするからまあ異世界なんだろうけど、そのアリスターって国を見てみないと分からないな。
武器は剣と盾を選んだ。
おれは現世のゲームで大剣をぶん回していたが、それはあくまでゲームの中の話だ。
実際に体を動かすのとは、訳が違うからな。初心者向けの装備を選択した。リョウタロウは意外とこういうところ、無鉄砲だったりするからな。
少し歩くとそのアリスターが見えてきた。
前情報で、国に入るには検問で仮の通行証を貰い、役所のようなところで正式に手続きを踏まないといけないらしい。
意外としっかりした警備だな。割と治安の良い国なのかもしれないな。
と思っていたら前の荷馬車の荷物点検が無かった。あれでは中に人がいても、やばい薬が入っていても通過できる。
役所に行き、手続きを踏み、ギルドに向かった。
というのも、役所の人から
「ギルドに所属すれば身分証になるものが貰えるし、稼ぎ口も見つかるしでお得ですよ!」
と言われたのだ。
リョウタロウも所属しているのだろうかと思い、ギルドの周辺を散策したが、リョウタロウはいなかった。
「まあ、そう簡単に見つかる訳がないか。宿は多そうだし、街をぶらついてみるか。」
街を歩けば歩くほどに異世界という実感が湧いてくる。ゲームやアニメの世界が目の前に広がっていて、楽しい。
リョウタロウめ、1人で随分と楽しいことを……とか考えていて、気がつくと住宅街に来てしまっていた。
そのまま街中をぐいぐいと進んでいく。
理由はない。
なんとなく、こっちに行きたいという勘に任せて歩く。
そんなことをしていると、あっという間に夕方になってしまった。
今日のところはこれくらいにして、ギルドに戻ろう。そう考え、来た道を戻る。
もう夕方だと言うのに、まだまだ街は賑やかだ。
するとその時だった。
ふとすれ違った一団。
リザードマンとエルフと白い犬と2人の人間のパーティ。
その中の1人の人間の男。
背中に剣を背負い、ポッケに手を入れて歩くありふれた感じの冒険者。
しかし、どこか同じ“臭い”を感じた。
「リョウタロウ?」
振り返って名前を呼ぶ。
すると、その黒髪の男は振り返った。
その顔は間違いなく古き良き友の顔だった。
「リョウタロウ!」
と、歩み寄ろうとした瞬間、リョウタロウは剣を抜き、突進してきた。
慌てて左手の盾で受け流す。
「あっぶな! テメェ! 何しやがる!」
「それはこっちのセリフだ!」
何がなんだか分からない。
まさか、どっかで頭でも打っておれのことを勘違いしているのか?
「おれだよ! カザマ ショウ! 忘れたのか?」
「忘れる訳ないだろうが!」
リョウタロウは容赦なく剣を振り下ろす。
それを腰にある片手剣を抜いて受ける。
「じゃあなんで襲うんだよ!?」
「お前がここにいるはずないからだろうが!」
リョウタロウはおれを蹴飛ばす。
その細い足から出た蹴りとは思えない威力でおれは吹っ飛ぶ。
リョウタロウは倒れたおれに飛びかかり、仰向けのおれに馬乗りになって、剣を構えた。
そうか。リョウタロウはおれがこっちに来たことを知らないのか。
だから偽物と勘違いを……!
「9月8日!」
「っ!」
構えた剣が顔に突き刺さる一瞬でリョウタロウの誕生日を叫んだ。
剣はおれの耳スレスレを掠めて地面に突き刺さった。
「なんで……それを」
「まだあるぞ? 住んでたアパートは102,103,104,105号室で、全て2階だったろ?」
「……そのアパートの部屋番号が2階なのに10で始まる理由は?」
「1階が0から始まるからで、101は大家の鈴木さんの部屋だったろ?」
「……お前のゲーム内のIDは?」
「KaSu0013。本当はuをyにしたかったのにお前らが“カス”にしたくてこうなった。0013は1月3日がおれの誕生日だから!」
「……お前の薄い本の隠し場所は?」
「右から2つ目の本棚の3段目の本の裏にパネルが……って何言わせやがる! お前もう本物って分かって変なこと聞き出そうとしてるだろ!」
「あそこパネルになってたのか……どうりで見つからない訳だ……コミケで買ってるのは分かってたのに行き先がわからなかったんだよなぁ〜」
「てか、いい加減どけよ! 重いっつの!」
するとリョウタロウは剣を仕舞い、おれの上から退き、手を貸してくれた。
「何でいるんだよ?」
「話せば長いさ」
そう言ってお互いに再会のハグをする。少しリョウタロウが鼻を啜ったのが聞こえた。
その後、リョウタロウと近くのカフェに行った。
「ここ行きつけでな。マスターは寡黙だけど、腕は確かなんだぜ」
「相変わらずブラックなのか?」
「そういうショウはまだブラックが飲めないのか?」
「それは良いだろ? 苦いの嫌いなんだから……それより、話すことが山ほどあるんだぞ」
「それはこっちもだけど、まず何でお前が“こっち”にいるのかを聞かせてくれるか?」
周りに聞こえないように小声で、リョウタロウの願いの話、それに対する神達の対応についてを話した。
「喜ぶべきか、怒るべきか悩むな……あ! 葬式とかやったのか?」
「やったやった。空成が泣き止まなくて苦労したんだぞ?」
「爺ちゃんは? 爺ちゃんは泣いた!?」
リョウタロウの爺ちゃんは厳格な人であり、リョウタロウの料理の師匠で、リョウタロウを山の中に放ってきた張本人だ。
「あの武士が泣くと思うか? 「それがあいつの運命だ!」 とかいってたぞ? ちょっと我慢してたっぽいけど」
武士とは、おれたちの間で言われているリョウタロウの爺ちゃんのあだ名だ。
あまりにも厳格で、笑わないので、そう呼ばれていた。
「やっぱりな〜。でも我慢してたってことは泣きそうだったのかな? いや〜その顔見てみたかったわ!」
「武士以外はみんな泣いたけどな」
「親不孝で申し訳ないな。今じゃこうしてまったり暮らして……いや、全然まったり出来てないわ」
「そうなのか?」
「全く世間知らずの常識知らずばっかりでうんざりだ。やれ奉仕だの、やれ結婚だのとうるさい奴らだ」
結婚というワードに驚いて思わずコーヒーを吹き出してしまった。
「お前結婚するのか!?」
「する訳ねぇだろうが!」
それからも積もる話をたんまりとして、気づけば夜になっていた。
そして、そのままリョウタロウの家に来た。
「しかし、半年でこんなデカイ家もつようになったとはな……」
「これにも長ーい話があってな……まあ、入れよ。なんでか部屋多めに作ったらしいんだよ。ワンチャン宿にでもなりそうな感じだよなー」
そう言いながらリョウタロウが玄関を開けて、リビングに入った。
「ただいm……うっ!」
次の瞬間、リョウタロウが視界から消えた。
ふと見ると、リビングの天井から、ぐるぐる巻きにされたリョウタロウがぶら下がっていた。
「おい! なんだこれ!?」
『リョ ウ タ ロ ウ さ〜ん〜?』
すると、リョウタロウの話に出てきた女性達が笑いながら出て来た。
しかし、その目はまさに悪魔だった。
「早くおろせ! ってこれルイシーナ縛った時の縄かよ!?」
「リョウタロウ、なんで縛られているか、分かっているだろうな?」
たしかあれは……王女のエヴリーヌか?トラブルしか持ってこないで有名の……
「俺が何したっていうんだ!」
「急に人に襲い掛かったかと思ったら、そのまま私たちを放置で数時間お出掛けなんて、良いご身分ですねぇ?」
あのエルフはディアナだったか。ついて来ている理由がぶっ飛んでいるって言ってたな。
「それは説明するから、まず下ろせって!」
「その必要はないぞ。リョウタロウ。その当人がいるんだからな!」
と、女性達がおれの方を向いた。
「えっと……お手柔らかに……」
リョウタロウが苦労するわけだな。
これは確かに面倒くさい。
次回、俺とおれ




