異世界には遠慮が足りない。
前回学んだこと
ドラゴンには生贄が必要
翌日、竜王に時間を取ってもらって、2人で話し合いをさせて貰った。
「ルイシーナの事ですが……」
「分かってる。迷惑かけてる事はね。でも、あの子、一度言い出すと聞かないんだ。前に駄々を捏ねた時は私と大喧嘩になってねー」
「それで、どうなったんですか?」
「もちろん本気の親子喧嘩だったからね。山が1つなくなったよ。それに、私も全盛期に比べて鈍っているから、こっ酷く負けちゃってねー。流石我が子といったところだよ」
「えぇ……」
「そういえば、君は気付いたかい? 母親がいない事」
そういえば見ていないな。
「実は、ルイシーナを産んですぐに亡くなっていてね。だから、あの子は僕だけで育てたんだけど、王族だから、色々と我慢させたこともあったんだ」
そうか……王族で育つってことは庶民の俺らに出来ないことが出来る反面、俺らが出来たことは出来なかったってことか。
「だから、あの子はこれまで恋を知らないで育って来たんだ」
「えっと、ルイシーナっていくつなんです?」
「今年で214歳だ。ドラゴンは人間の10倍は生きるからね」
「なっ!? そんなに長く生きてきて恋の1つもしてこなかったんですか!?」
「君も経験したと思うけど、ドラゴンは存在自体が災害級なんだ。下手に外へ出せば君が倒したドラゴンのように討伐されなきゃならない。現に、世界にはまだ祖先たちのように穴蔵に籠って生活しているドラゴンもいる」
「この国に彼女に合う男性はいなかったんですか?」
「国といっても小さいからね。数もたかが知れている」
竜王は改めて俺の方に向き直り、頭を下げた。
「すまない。無理を言っているのは承知の上だ。しかし、私としてはあの子の初めての恋を全力で応援したい。だから、ルイシーナをよろしく頼めないだろうか」
「……わかりました。でも、条件があります」
「それは?」
「即結婚は流石に無理です。なので、友人から。ということなら問題ありません。しばらく一緒に過ごして見て、結婚はお互いのことを良く知ってからです。勿論、その段階でどうしても無理と自分がフるかも知れません。それでも構わないなら、その……娘さんをお預かりさせていただきます……? これで言葉が合っているか分かりませんが……」
すると竜王は笑顔になった。
「ルイシーナの初恋相手が君のような人で良かった。私の予想以上に君はしっかりしているようだね」
「親元を離れて、(距離的に)長いですから……」
その日の午後、またドラゴン便に乗ってアリスターに帰った。そこにはルイシーナの姿もあり、お付きの人が1人荷物を持っていた。
ルイシーナはドラゴン便の上でウキウキしていたが、エヴリーヌはソワソワしていた。
「な、なぁ、リョウタロウ? 本当に連れて行くのか?」
「仕方ないだろう? 竜王と話し合った結果だ。結婚するかはかなーり先の話になるし、ドラゴンの姿で暴れられても困るしな……」
するとルイシーナが後ろから抱きついてきた。
「リョウタロウー。妻の前で他の女と話すとはいい度胸だな?」
「まっ……俺たちは結婚してないだろうが! まずは友人からって竜王と決めただろう?」
危うく「まだ」と言いそうになって堪える。
「父上の言うことなどどうでも良い。腕っぷしで喧嘩したら私の方が強いからな!」
「とにかく! その自己中心的な考え方を何とかしろ。これからは一応俺のパーティメンバーなんだからな。俺はそんな女を奥さんにする気は無いぞ!」
「むぅ……そうか……それは考えなければな……」
あ、俺こいつの扱い方分かったかも知れないな。
そんな会話をしつつも、ドラゴン便は進み、アリスターに戻ってきた。
「父上には私の方から話を通しておくから、リョウタロウはルイシーナを連れて先に戻っててくれ」
「分かった。ありがとうな」
そして、ルイシーナと一緒に王城から小鹿亭に戻る。
「人間の国は随分と大きいな」
「まあ、ドラゴンの国と人口が違うからな」
しばらく歩き、小鹿亭に着いた。
今の俺の頭の中はみんなにどうやって説明しようかでいっぱいだ。
「ただいまー」
『お帰りなさーい!』
みんなが出迎えてくれるが、途中でみんなの表情が曇る。
理由はもちろんルイシーナだ。
「リョウタロウ、その方は?」
「あー、紹介しよう。今日からパーティに加わったルイシーナだ。一応、ドラゴン族だ。あ、カミラ、部屋数足りる?」
「それは問題無いけど、なんでこんな事になったの?」
すると、ルイシーナが前へ出て自己紹介をした。
「私はドラゴンの国の竜王の娘のルイシーナだ。そして、リョウタロウの将来の奥さんだ。以後よろしく頼むぞ」
『なっ……なんだって!?』
みんながエヴリーヌと似たような反応をし、ディアナあたりは開いた口が塞がっていない」
「ワンワン!(主、おめでとうございます!)」
「だーかーらー! 結婚は可能性の話で確定した物じゃ無いだろうが! あとロボル!おめでとうございますは早いわ!」
それについてギャーギャー騒いでいると、あることに気がついた。
「あれ? みんなその荷物は?」
小鹿亭のロビーにみんなの荷物がまとめられている。よくよく考えれば、小鹿亭に全員集合しているのも珍しい。
「あぁ、そうだった。今から新しい家に行くのよ」
と、カミラが説明してくれた。
なんでも、行っている間にかなりの数の大工が動員され、家があっという間に出来たらしい。
流石王命……やることが派手だぜ……
そして、今からみんなで新しい家に引っ越すらしい。
「そうだったのか。俺の荷物は誰が?」
「ディアナ達がやるって言い出して喧嘩し始めたから、一応同性の俺がやっておいた」
「ありがとうフェリクス。やっぱ信頼できるのはお前しか居ないわ」
フェリクスがパーティに居て良かった。ディアナ達にやらせてたら何混ぜるか分かったもんじゃ無い。この世界に来てしばらく経ったから服も増えてるしな。そう言う面でもポールさんには世話になっている。お陰で色々格安で手に入っているし、新しい家の家具とかもポールさんを通じて買っている。曰く、
「命の恩人に贔屓にしてもらってこっちも嬉しいです」
とのこと。
あの日の判断は間違いなく正解だったな。
そして俺たちは荷物を持って新しい家に向かった。
しかし、転移してから1年経たずに家を持つようになるとはな……出来るなら翔や湊人、空成と一緒に住みたかったな……
次回、新生活(数回目)




