王族に庶民の感覚は通用しない。
前回学んだこと
ドラゴンだってお洒落したい。
ドラゴンの国に来た次の日、竜王と一緒に国を見て回った。
ドラゴンの国は山の上にあるため、少し寒いのだが、ドラゴン族の人達は、普通に半袖とかで過ごしている。
風邪……引かないのだろうか……
それはそれとして、竜王が国の中を歩き回っているのに、みんな普通に過ごしている。理由をお付きの人に聞いてみると、
「普段から出歩いて、たまに酔って帰って来たりしますから」
それで良いのか王様……
まあ、国民に寄り添っていると考えれば素晴らしい王様なのか?しかし、色々と危なそうだが……
ある程度街を案内してもらって、城に戻り、夕食を食べた。
予定では明日帰る予定だ。
食事をしていると、使用人とは違ったドラゴン族の女性が来た。歳はエヴリーヌと同じくらいだろうか。
「おや、ルイシーナ。お帰りー」
「ただいま戻りました。父上」
「紹介しよう! 私の娘のルイシーナだ! どうだい? 美人だろう? ははは!」
娘だったのか。父親と違ってパッと見大人しそうだから驚いた。割とギャルっぽい感じを予想していたが、なんだ。まともそうじゃないか。
するとルイシーナは俺の方に来て、ジロジロと俺を見始めた。
「な、なんでしょうかね……」
「ヨシ!」
現場猫みたいな声と共に、俺の腕を掴み、俺を立たせ、そのまま引っ付いて来た。
「父上! 私、彼に嫁ぎます!」
「そっか! 分かったよー!」
使用人は驚き、エヴリーヌはフォークを落とし、俺はSNSで流行った背景が宇宙の悟りを開いた猫みたいな顔になった。
「なっ……なっ……なっ……!」
エヴリーヌが驚きのあまり言葉が詰まって喋れていない。
俺は相変わらず悟り猫みたいに固まってしまっている。
「そうかー。とうとうルイシーナも親離れかー。いやー感慨深いね! 今晩は盛大に祝おうじゃないか! はっはっは!」
「って、いやいやいやいや! 話が急すぎますよ!?」
ようやく猫から戻ってこれた。
「嫁ぐって……えぇ!」
「お前は私の旦那に申し分ないからな!」
「本人の意思は無視かよ!」
「無視だ! 異論は認めん!」
やっぱダメだ。王族とか貴族にはまともな奴が居ない!この世界の富裕層はどいつもこいつも常識外ればっかりだ!やはり、あの親あってこの娘だわ!
俺は引っ付いたルイシーナを一旦引き剥がす。
「ま、待ってくれ。いくら何でも急すぎる」
「なんだ? 他に好きな女でもいるのか?」
「いや、居ないけど……」
「なら問題無かろう!」
「初対面だぞ!?」
「ドラゴンを腹の中から倒す根性の持ち主だからな! 会わなくても十分事足りる」
「こっちは足りないんだよ!」
ルイシーナはニコニコしながら俺の右腕に引っ付いてくる。
「ちょ! 離れろって!」
「んー? リョウタロウ君はルイシーナが嫌いなのかい?」
「いえ! 竜王様、娘さんは“きっと”素敵な方ですよ! ですが、こっちとしては結婚するにしてもちゃんとお付き合いを経てからしたくてですね」
「つまりはお付き合いすれば結婚するということだな! リョウタロウ」
「そういう訳じゃない! あと、もう呼び捨てかよ!」
「そりゃあお前は私の夫になるんだからな。それとも、“あなた”とかの方が良いか?」
「そこじゃなーい!」
食事はお開きになり、明日の午前中また話すことになった。
俺は客室のベッドに横になった。
「来なきゃ良かった……」
そう思いながら瞼を閉じる。
少しして、あと少しで眠れそうと言うところで、何かを感じた。何かはわからない。目を瞑ったまま考える。
……これは……
目を開き、布団を開けると、ルイシーナがいた。
悲鳴を上げそうになるが、バレるとそれはそれで面倒なので、堪える。
「お前! 何してるっ!」
「何って、夜這いだが?」
「平然とそんなことを言うんじゃねぇ!」
「しかし、夫婦とは、一緒に寝るのが普通だろう?」
「俺たちはまだ夫婦じゃねぇだろ!」
「ふふん、“まだ”と言ったな? その言葉、忘れないぞ」
しまった。感情に任せて喋ったせいで余計なことを口にしてしまった。
「しかし、私は不思議でならないんだ」
「何が?」
そう言うとルイシーナは起き上がり、ベットの上に座り込む。
「ドラゴンで、美人で、スタイル良くて、王族な私の求婚を断る理由だ。世の男なら、私を放って置かないはずなのだが……」
「あのな。俺は女をスペックで選ぶような人間じゃないんだ。大体、俺は人を見下してる奴は嫌いなんだ。まあ、お前の事を殆ど知らないから“嫌い”としていないだけだ。少なくとも俺は自分を棚に上げて人を軽視するような奥さんは欲しくないし、即刻斬るね」
するとルイシーナはニヤッと笑い、俺を押し倒した。
「おい! 何する……って力強っ!」
抑えられた腕が全く動かない。
人の姿しててもドラゴンってことか!
ルイシーナは、そのまま俺に抱きついた。
「ふふん、ますます気に入った! やはり私の目に狂いは無かった!」
「何を言って!?」
するとルイシーナは尻尾を俺に巻きつけ、俺の耳元に口を近づけた。ルイシーナの息遣いが耳にダイレクトに伝わってゾワッとする。
「お前は必ず私の物にする。他の誰にも渡さないからな」
その後、俺の耳をひと齧りして、ルイシーナは、部屋から出て行った。
高校2年の男子にはややキツイ体験だった。
まだ心臓がバクバク鳴っている。
その夜、俺は寝付けなかった。
出来るなら朴念仁の空成を代わりの生贄に差し出したいな……
次回、newハウス




