奇跡は起こる時は起こる。
前回学んだこと
ドラゴンの首は意外と伸びる
そんなつもりはなかった。
私はただ、ロボルさんのやられた分を返すだけのつもりだった。
しかし、ドラゴンは私を標的にした。すると、恐怖で体が硬直して、動けなくなった。蛇に睨まれたカエルの気分だった。
次の瞬間、体が曲がり、宙を舞う。
お腹に来る痛み、そして着地したときのショックで我に帰った。
そして私は、その瞬間を見てしまった。
大好きな人が、食べられる瞬間を。
「あ……あ……あ…」
何も考えられなくなった。
私のせいで彼が死んだ。私が彼を殺した。
声も出なくなった。現実を認めたくなかった。
私はその場で動けなくなり、ただその後を見ていることしか出来なかった。
「グォォォォォォ!」
少しして、ドラゴンが苦しみ出した。
すると、みるみるうちにドラゴンの大きな体が痩せていき、ついに倒れた。
周りは歓喜の渦に満ちた。
私を除いて……
私はそのまま意識を手放してしまった。
「一体何をしたらこんなことになるの!?」
それは俺が聞きたい。
リョウタロウが食べられたと思ったら、ドラゴンが倒れて、腹の中から真っ赤に染まったリョウタロウが出てきて……俺のトカゲ脳でも処理が追いつかない。
俺はリョウタロウを引っこ抜き、大急ぎで教会に向かった。
教会のシスターに大急ぎで治療してもらう。
「全身火傷に、右足に風穴って……」
次の瞬間リョウタロウが何かを吐き出した。治療をするシスター達が悲鳴を上げる。
吐き出したものから少し煙が上がっている。
「中まで焼けてるの!?」
それからは席を外すように言われて見ていないから分からないが、今日の中で1番の重傷であることは分かった。
だんだんと意識がはっきりしてくる。
ゆっくりと目を開けると、知らない天井がそこにはあった。
少し体を動かすと、全身に痛みが走った。
その上、まともに身動きが出来ないほどに包帯で巻かれている。
俺は……生きているのか?まあ、痛いんだから生きてるんだろうけど……
少しずつ、記憶が蘇ってくる。
食べられたこと、誰かに起こされたこと、ドラゴンを“喰った”こと……
「目が覚めた?」
視線をずらすと、1人の修道女がいた。
「体動かさないで。まだ治ってないから。あたしカルメン。あんたのことはエヴリーヌから聞いてるから安心して」
「あいつの知り合いなのか?」と、聞こうとしたが、口も動かない。舌が辛うじて動くくらいだ。
俺は生き残った。名も知らない“友達”のお陰で。
目が覚めてからしばらく経ち、包帯も少しづつ取れ、上半身は大分良くなった。
喋れるし、体を起こせる。
それまではひたすらじっとしているだけだったから、素直に嬉しいな。
しかしまだ下半身はダメだ。
聞いた話だと、右の太腿に風穴が空いていたらしい。ドラゴンに噛みつかれたときのものだろう。噛み合わせが悪かったせいで、千切れなかったのだ。お陰で食べられてしまった。
しかし、足に穴が空いても治せるって魔法凄いな。触るとまだ痛むが、穴は塞がっているのが分かる。
さらに、腹の中まで火傷していたらしい。
なんでも、食べられた際にドラゴンの強烈な胃酸を大量に飲んだらしい。搬送された時に吐き出したが、口から胃まで結構爛れていたらしく、もう少し遅かったら死んでいたと言われた。
なんでも、魔法で防護されていたから、そこまで深刻ではなかったようだ。
きっと、あの“友達”がやってくれたのだろう。
それはそれとして、先日、みんなが面会に来た。みんな無事だったらしく、怪我をしたのは俺だけらしい。
蹴り飛ばしたことをディアナに謝ろうと思っていたが、まだ面会には1度も来ていない。
「リョウタロウが怪我したことの責任を感じているんだ」
エヴリーヌから話を聞いて分かった。きっと、俺がこうなったのを自分のせいにしているんだろう。
1度ゆっくり話さないとな。
こうなったのは俺の甘さが原因だ。彼女は悪くない。
しかし、みんなが無事だったこととか、良いニュースばかりでもなく、悪いニュースもあった。
実は、あの襲撃で、新築の家が半壊したらしい。
とりあえず、家具も何も入れる前だったから良かったが、建て直すのにしばらくかかるらしい。
というのも、他に直さなきゃならないものがいっぱいあるからだ。
さらに日にちは経って、松葉杖で歩けるようになり、今はリハビリ中だ。
魔法のお陰で完全に回復できそうだ。
エヴリーヌが口利きしてくれて、カルメンが付きっきりで見てくれている。
彼女は、エヴリーヌの学校での友人で、カミラとよく3人で連んでいたらしい。
そして、一時的に小鹿亭への帰宅が許された。
「ただいま〜」
『お帰りー!』
なんだかすごく久しぶりな感じだ。しかし、ディアナの姿が見えない。
「部屋に篭ってるんだ」
フェリクスに言われて、ディアナの部屋に行く。
「入るぞ」
ディアナはベッドで蹲っていた。
俺は、ディアナの横に座った。
「前みたいにお迎えしてくれないんだな」
「私には……そんな資格……」
「気にするな。怪我したのは俺だからな。俺が甘かったんだ。それより、お腹大丈夫だったか? 結構強めに蹴って、悪かったな」
「そんなことよりも!」
起き上がったディアナの目には涙が浮かんでいた。
「確かに、感情的になって、突っ込んだのは悪い。でも、そこから助けて怪我したのは俺の自己責任だ。お前のせいじゃない」
「でも……」
「結果的に倒せたんだから良いだろ。そうでなくちゃ、もっと被害が出てたかもしれないし」
「ごめんなさい……」
ディアナは鼻をすすりながら、涙声で謝った。
「謝られてもなぁ……」
すると、ディアナが俺に抱きついてきた。
もう抑えられないのだろう。
ディアナは声を上げて泣き出した。
「よしよし。怖かったな」
どうして良いか分からず、親戚の子供をあやすみたいに頭を撫でる。
すると、より一層大声で泣き出した。
「どうすりゃいいんだよ……」
誰だって心底怖い時は泣いていいんだ。
大人は泣いちゃダメなんて法律はどこの世界にもないんだからな。
次回、ドラゴン族




