災害は予測が効かない
前回学んだこと
家を建てる時は確認を多くしなければならない
家への引っ越しが間近に迫った時、ソレはやって来た。
ある日の朝、いつも通りに起きて朝食を食べていると、外から鐘の音が聞こえて来た。この鐘の音はギルドが魔法で拡大させて鳴らす物で、緊急事態を知らせる場合にのみ鳴る。
例えば、魔王軍の出現した時とか、“それくらい面倒なこと”が起きた時だ。
この場合、ギルド所属の冒険者はギルドに集まるようになっている為、俺、エヴリーヌ、ディアナ、フェリクス、ロボルの5人(内1匹)は素早く身支度を済ませてギルドに向かった。
「一体なにがあったんでしょうか」
「分からないが、良くないことだろう」
フェリクスに同意だ。とりあえず、面倒事ということはわかりきっている。
ギルドの前は冒険者でごった返していて、みんな口々に「何があった」とか、「何をするんだ」など言っている。
すると、ギルドの職員が、魔法で声を大きくして話しかけて来た。
「みなさん、先程、ドラゴン族の長から、ドラゴンが1匹、こちら側に向かっているという知らせがありました。そのドラゴンは、逆賊的なので、危険とのことです。スチール以上の冒険者の皆様は、ドラゴン族の応援が来るまでの時間稼ぎ、それ以外の冒険者は国民の避難をお願いします!」
つまりはなんかヤバイドラゴンがそっち向かってるから捕まえるまでちょっと耐えてってことか。
てか、ドラゴン族なんていたのか。やっぱ、人の姿に翼と尻尾と角生えてたりするのかな。だとしたらなんとかなりそうだけど……
とか考えていると、頭上を大きな影が通った。
四つの足、大きな翼、尻尾、爪、角、牙。まさしくザ・ドラゴンといったものが空を走っている。
って、そこはリアルガチかよ……前言撤回。めっちゃ面倒くさそう。
ドラゴンが現れたことでみんな自分の仕事に取り掛かり、一般の人は逃げ出した。
一気に周りがいつもの5倍以上に煩くなった。
悲鳴、怒号が飛び交う中、俺たちも動き出した。というのも、登録してからしばらく経った上、それなりに場数をこなしたおかげで、俺たちのランクは上がっていて、足止め組に入っているのだ。
ドラゴンは周りを少し飛び回ったあと、街に降りて暴れ出した。
「みんな、行くぞ!」
と、意気揚々にエヴリーヌが突っ込もうとするのを慌てて止める。
「馬鹿! お前は城に戻れ!」
「でも!」
「お前は冒険者の前に王女なんだぞ!? 足止めよりやることあるだろう!」
「わ、分かった……みんな、気をつけてな」
流石に今回は折れるのが早かった。
これで駄々を捏ねられたら、気絶させてフェリクスに運ばせているところだ。
やることはあくまで足止めだ。
ドラゴン族の援軍が来るまでは様子見しつつ、ちょっかいかけるくらいで大丈夫だろう。
え?もっと頑張れって?馬鹿言え。それで死んだら元も子もない。家やら建物は直せても、死んだら帰ってこれないんだからな……
そして、俺たちはドラゴンが暴れているところに駆けつけた。
そこでは、すでに多くの冒険者が戦っているが、かなりの数の冒険者が血を流して倒れている。
「やはり人間とは小さい生き物よなぁ!」
一際大きい声が響く。
ってお前その形態で喋れるんかい。
ドラゴンは冒険者たちを蹴散らしながら高笑いしている。
聞こえてくる声も、「無駄だ」とか、「邪魔だ」とか、そういう感じだ。
相当人を下に見ているようだ。
正直こういう性格の奴は1番気に食わないが、相手が相手だ。今回は我慢するしかない。
ドラゴンの周りは上位の冒険者が集まっているため、そこまで役に立てないだろう俺たちは、負傷者を引っ張ることにした。
ディアナには下げた負傷者を回復してもらうことにして、俺とフェリクスは人を担いでは走りを繰り返す。
「正にバケモノだな……」
「口動かさないで体動かせ! これは持久戦だ! 耐え抜けば勝てるはずだ!」
少しビビリ気味のフェリクスを怒鳴りつけ、1人でも多くの負傷者を助ける。
ロボルというと、その華麗なフットワークと、咥えた短剣でドラゴンを斬り付けている。
「ちぃ! 子犬が煩いわ!」
すると、ドラゴンが痺れを切らし、体を大きく使って範囲攻撃をした。
流石のロボルも逃げきれず、吹っ飛ばされてしまった。
「ロボルさん! こんのぉ!」
と、回復に回っていたディアナが前へ出て行き、魔法でドラゴンに攻撃を始めた。
エルフお得意の風を使った魔法だ。
しかし、タイミングが悪かった。
ドラゴンはロボルのせいでご機嫌斜めだったらしい。
魔法の攻撃が顔に当たってさらに機嫌が悪くなったドラゴンは、大きな口を開けてディアナの方に首を伸ばした。
「あの馬鹿!」
俺は出来る限りの速度でディアナの元へ行き、ディアナを蹴り飛ばした。
当たるまでをゆっくりに、それでいて遠くまで吹っ飛ばせるようにディアナの腹に当たった足に力を込める。ディアナはくの字に曲がりながら後ろへ向かって吹っ飛んだ。
俺はすぐさま着地し直し、左足で地面を蹴って退避した。
しかし、馬鹿だったのは俺の方だった。
普通、アクションゲームの攻撃はプログラム的に攻撃範囲が決まっている。
だから、俺はドラゴンの首の長さより遠くに飛べは当たらないと思っていた。
ここが俺の甘さだった。異世界のことをゲーム基準で考える。
相手は生き物だ。
無論、リーチは不定、“首も少しは伸びる”。
飛んだ俺の右足にドラゴンの牙が刺さり、血が流れる。
どうやら、今日の俺はとことん不運だったらしい。
噛まれた時点で足が千切れていれば良かったのだが、足は千切れず、そのまま上へ投げられた。
空中では逃げ場が無い。下には地面ではなく、大きな口があった。
次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
「……ぃ」
何がが聞こえる。
「……ぉぃ」
呼んで……いるのか?
「おい。起きろ」
「誰だ?」
なんの感覚もない真っ暗な空間で、誰かが俺を呼んでいる。
「そうだなー。友達……かな?」
「お前みたいなのを友にした覚えはないぞ?」
「ククッ。皮肉が言えるくらいには元気か。良い。私が目をつけただけはある」
「さっきからなんなんだ?」
「それは置いといて、このままだと、死ぬぞ?」
「死ぬ?」
「あぁ。トカゲにパックリといかれてしまったからな」
思い出した。
そう、俺はパックリと“食べられたのだ”。
「そうか……案外短い“2回目”だったな……」
「諦めるのか? では、置いて来た親友達になんと言うのだ?」
「それは……」
「お前は向こうの者たちに恥じない人生を送るのではなかったのか?」
「それは!」
「ククッ、やる気が出たみたいだな。まあ良い。今回は初回サービスだ。少しだけ延命して助けてやる。ここで終わるのは私としても面白くないからな。その代わり、2度と変な終わり方はしないことだな」
「あんたは一体誰なんだ?」
「さっきも言っただろう?」
真っ暗な空間が少しだけ明るくなって来た。
「ちょっとした友達さね」
意識がはっきりしたのと同時に体が勝手に動いた。
剣を抜き、真っ暗でベトベトしていて、動いている空間に突き立てる。
すると、剣から力が湧いてくる。
砂漠に雨が降ったみたいに体が剣を通じて力を、命を吸収する。
ある程度吸い取ったあと、本能に従って狭い空間を斬り進む。
魔力探知のスキルで一際デカい反応のところにところに行き着いた。
「「お主の命、貰うぞ!」」
無意識に、俺の口から俺の声でそんな声が出るが、どこか別の声が混ざっている。
俺はその脈動する塊に剣を突き立てる。
そこからは先ほどよりも多く、上質で、濃厚な力、命が湧き出た。
剣というストローを使って体がひたすらにそれを吸う。
体がますます元気になり、意識もはっきりしてくる。
「グォォォォォォ!」
遠くで何か声が聞こえて、空間が揺れる。
『ま、こんなところかの。あとは任せたぞ……』
頭の中でそんな声がすると、体から力が抜け、一気に倒れてしまう。
全身が燃えるように痛い。特に右足が痛い。
自分でも何があったはっきりしないが、ここはドラゴンの腹の中で、出なきゃならないってことだけはわかる。
暗い空間の中で、右も左わからないが、重力があるのが下だ。とりあえず、前へ進む。
すると、何か硬い壁に打ち当たり、剣を突き立てる。
すると、斬ったところから眩しい光が差し込む。
俺は、不幸にもドラゴンに食べられ、幸運にも、生還した。
次回、入院




