家が新しくなれば暮らしも新しくなる。
お待たせしました!
前回学んだこと
女性を団結させてはいけない
この世界における建築は古い。というのも、基本木造かレンガ造りだからだ。
しかし、作り方は一味違う。
大工達は魔法を駆使して、重い資材をいとも容易く運んでしまうのだ。
コリンナの仕事場を作るときもそうだったらしいが、俺は見ていないので建築風景は初見だった。
お陰で1人だけびっくりしてしまって少し恥ずかしかった。
しかし、普通家を建てるとなると、結構掛かるものだが、この手法を使っている大工達の手にかかれば3週間ほどで完成するらしい。
その間、みーんな小鹿亭に集まって新しい家について話し合っている。
「ここの部屋は私だな!」
「いえ! 私が貰います!」
どうやら部屋割りで揉めているようだ。
まあ、俺はふかふかのベッドが有ればどうでも良いが……
そんな日が続いたある日の朝。いつも通りに起床する。
俺の起床に気付き、ロボルも起きる。
「おはよう」
「ワン!(おはようございます! 主)」
いつもロボルは俺に合わせて起きてくれる。いつか忠犬ハチ公も超えるだろう。
……ん?今他に誰か居たような……
「まあいっか。朝ごはん食べに行こう」
「ワン!(はい!)」
俺は尻尾を振っているロボルを眺める。
「ロボル?」
「ワフ?(はい?)」
……まだ夢見てるのか?それともなんか変なもの食べたか?ロボルの言葉が分かる。
音的には「ワン」とかしか言っていないのに、その言葉に込められた意図がわかる。
いつもより早くに階段を降りて、カミラのところに行く。
「カミラ、耳かきあるか?」
「え? あるけど……」
「ちょっと借りて良いか? 長らくしてないから耳掃除しようと思ってな」
「わかった。ちょっと待ってて」
きっと異世界では耳垢にも魔力がこもっていてそれが原因に違いない。不便って訳じゃないが、少し気持ち悪いので、一応掃除しておこう。
すると、話を聞いていたディアナが来た。
「リョウタロウさん、耳掃除するんですか?」
「あ、あぁ」
「よかったら、やってあげましょうか?」
「いいのか?」
「最近何もお役に立ててませんから。これくらいはやらせてください」
「そうか。じゃあ頼む」
自分でやるより、人にやってもらったほうが綺麗になるだろう。
そう思って、俺は長椅子に座る。
すると、ディアナが不思議そうに耳かきを持って眺めてきた。
「何してるんですか?」
「何って、何が?」
するとディアナも長椅子に座って、膝をポンポンと叩いた。
「えー」
「えーじゃないです。耳かきはこれがお決まりと聞きましたから」
一体どこからそんな知識を持って来たんだ。
「じゃあ自分でやるよ」
「ダメです。自分でやったのではちゃんと綺麗になりませんから」
ぬぐぐ……意地でも耳かきを手放そうとしないか……仕方がない。今回は負けてやろう。
俺はディアナの膝に頭を乗せた。
柔らかいディアナの太ももに左の頬を付けていると考えると恥ずかしくて堪らないので片手でロボルを撫でて気を紛らわす。
ディアナは意外と耳かきが上手く、なかなか気持ちいい。
「ふふ、珍しいですね。リョウタロウさんが折れるなんて」
「今すぐ起き上がっても良いんだぞー」
「はいはい。お口チャックですね」
少しして、右耳が終わった。
「じゃあ、反対むいてください」
「いや、それはハードル高いかと……」
流石にディアナのお腹に顔を密着させるのは17歳の男子にはキツイので、位置を入れ替わって貰った。
すると、左耳の途中で、エヴリーヌが降りて来た。
「な! ディアナ! 抜け駆けとは卑怯だぞ!」
「早起きは三文の徳と言いますからね!」
だからどこでそんなもの覚えてくるんだ?日本のことわざだぞ……
それから少しして、みんなが降りてくる前に耳かきが終わった。
「はい。これで終わりです」
「あぁ、ありがとう」
終始心臓がバクバクで逆に疲れてしまった。
「こんどはロボルさんもやってあげますからねー」
「ワン!(よろしくお願いします!)」
あ、ダメだわ。治ってねえわ。
と、そこで俺はステータスを作ったときの神様との会話を思い出した。
「とりあえず、持っていくスキルはこれで終わりね。あと、向こうにいったら新しいスキルにも出会うと思う」
「新しいスキル?」
「ええ、向こうでは、特定の条件を満たすと、新しいスキルを身につけられるの。その条件はまちまちだけど、意外とひょんなことから発現したりするんですよ」
もしそうなら、犬と会話するスキルが発現したってことなのか?
しかし、何が引き金なんだ……
すると、上からオレールとアンスが降りて来た。
「ロボルおはよー!」
「ワン!(おはようございます!)」
もしかして、こいつらか?獣族との会話が引き金だったりするのか?
まあ、それならそれで良いけど……待てよ?そうなると、あの耳かきの気苦労は無駄ということか?
2週間半後、ついに新しい家が出来た。
小鹿亭より少し小さめのサイズの家だが、それなりに広く感じる。
小鹿亭とはそこまで距離は離れておらず、徒歩5分程といったところだ。
本格的な引っ越しはまだだが、今日は新しい家をみんなで見に行った。
1階は、キッチンとリビングがちょっとしたカウンターを挟んで繋がっており、割と現世の雰囲気に近いところがある。また、暖炉が付いており、3人がけのソファも置いてある。また、大きめのテーブルが置いてあり、食事がみんなで食べられるようになっている。こっちでは椅子に座っての食事が主流らしく、低めのテーブルを座って囲むことはないそうだ。
2階は、みんなの部屋になっていて、それぞれにネームプレートがかけてある。小鹿亭のように、部屋ごとにトイレが付いていたりはしない分少し狭いが、それでもまあまあ広い。
みんな素晴らしい家に喜んでいる。
「それはそれとして、なんで俺の部屋のベッドはダブルなんだ? シングルかセミダブルで良いって言ったはずだけど……それに、俺の部屋だけ鍵ついてないんだけど……大工の手抜きか?」
「そ、それは、ほら。大工も忙しかったんじゃないのか?」
「そ、そうですよリョウタロウさん。こんな良い家を建てるんですから、そりゃあどっかにミスは出ますよ」
「「はははははは」」
「お前らなぁ……」
もはや俺にはため息しか出なかった。
この2人にはしっかりと首輪をつけなければ。
そう思った俺だった。
次回、ドラゴン




