何事にも理由が存在する。
前回学んだこと
忘れていた孤独
決闘の後、貴族やその父親は教会へ搬送され、俺は小鹿亭に戻った。
フベルト曰く、後々王城に呼ばれるだろうと言っていた。
しでかしたことがそれなりに大きいため、もしかしたら罪に問われるかもしれないらしい。
そんなことよりも、急に思い出してしまった孤独感でどうにかなりそうだった。
家族が亡くなったときの遺族の気持ちと似ているが、全く逆だ。
現世のみんなは俺がいなくなって、その気持ちだろうけど、俺は1度に家族から親友まで一気に失くした。
死んだわけではないが、別世界にいるのだから、ほとんど変わらない。
理解はしていたが、納得が出来ない事実。
どこにもぶつけようのない怒り、憎しみ、苦しみ、悲しみ……
それに押しつぶされそうなのを必死で堪えて、誤魔化してきたのに……
『会いたい』
苦しくて、涙が止まらなかった……
俺が部屋にこもった後、フベルトが来てみんなに説明したらしい。
翌日からは、珍しく誰も話しかけてこなかった。
数日後、王城に呼ばれて、訪れた。
広めの部屋で、貴族の父親と、貴族の生徒、王様、そして数人の役人?が集まった。
いわゆる裁判なのだろう。
俺は思い出してしまった孤独感でこの数日、一睡も出来ていない。
「では、まずなにがあったのか説明してもらえるかな?」
王様がそういうと、貴族の父親が話し出した。
内容は、息子と自分が殺されかけたとか、あまりにも危険だとかそういうものだった。
「王様! 何卒、こやつを死刑に!」
「普通ならそうするところだが、今回は少し違う」
貴族の父親と生徒が驚いた。
「まず、リョウタロウ君はいじめにあった生徒を助けた。そして君の息子が逆上し、決闘を申し込んだ。しかし、その決闘では、審判は買収され、10人もの援軍も来た。謝罪は軽いもので、謝罪と呼ぶには相応しくないものであった上、父親の君は真剣を持った私兵に止めさせようとした。そしてリョウタロウ君がやめたところでリョウタロウ君の両親を侮辱。それに怒ったリョウタロウ君に腕と耳を斬られたと。私にはどう見ても、君たちに根本的な原因があるようにしか思えないがね」
貴族の2人は沈黙した。
なにも言えないのは当たり前だ。
「今回の件は、原因の君たち、過剰反応したリョウタロウ君どっちにも罪がある。よって、死刑はなしだ。しかし、リョウタロウ君には、治療費など、罰金をいくらか払ってもらう必要があるがね」
「王様!」
貴族の父親が不服そうに立ち上がった。
「だいたい、権力を振りかざすなと前から王の私が言っているのにも関わらず、このような事を起こした時点で君は貴族としての名誉を剥奪されてもおかしくないんだぞ?」
そのときの王様の声は少し恐ろしく感じた。
裁判?が終わり、貴族達は帰った後、俺は少し王様と話す時間をもらった。
「今回は、ありがとうございました」
「いいや、君は正しいことをした。少しやり過ぎてしまったがね」
「すいません……」
「いや、むしろ謝るのはこちらの方かもしれない。普段から私の統治が不十分なせいで、あのような貴族を生んでしまっている。エヴリーヌの結婚の件もだ」
王様は窓の外を少し眺め、俺に向き直った。
「エヴリーヌから聞いているよ。故郷はかなり遠いのだろう?」
「えぇ……まあ……」
「親を貶されて平気でいられる人はそういないし、貴族のいじめをなにも躊躇わずに止めた君には感心するよ。両親の育て方が良かったんだろうね」
「ありがとうございます……」
「ふふ、君がエヴリーヌの仲間で良かったよ。きっとエヴリーヌも、君から学ぶことは多いだろうしね。全く、あの結婚の件以来、ルイーズが君を婿にしようとうるさくてね」
「そ、それは……」
「私も正直なところ、君のような感性を持った人に娘をあげたいところなんだけどね、エヴリーヌからいろいろ聞いているからね」
「お気遣い、ありがとうございます……」
「ところで、そっちでのエヴリーヌはどうだい?」
「どうと言われても……」
「怒ったりしないよ。正直に言ってくれ」
「では……」
1度深呼吸をして、王様に向き直る
「正直、迷惑です。トラブルをたくさん持ってくるし、何かにつけてとっかかってくるし、物事の解釈の仕方がズレています」
「ハハハ! なかなか手厳しいね」
「あえて言うなら、育て方に不備があったかと」
「そこを突かれるとなにも言えなくなってしまうな……」
それからも、王様と俺でいろんな話をして、いつしか、ある程度の敬語が無くなるくらいに仲良くなった。
「君は大臣達よりも的確なアドバイスをくれるな。どうだい? 将来は城で働いてみたらどうかな?」
「遠慮しときますよ。堅苦しいのは嫌いなので。でも、もし働くなら、この城が良いですね」
「それは、どうして?」
「この国は平和だ。城下の人たちはみんな笑顔ですし、それは王様の政治がうまくいってる証ですから」
「嬉しいけど、まだまださ」
王様は窓の外の城下町を眺めている。
「魔王が現れて、戦争がずっと続いているせいで、本当の平和とは程遠い。勇者も現れないしね」
「勇者……ですか……」
「実は、古い文献に、別の世界のことについて書かれていてね」
別の世界と聞いてギクっとした。
まさか、俺がこの世界の人間じゃないって気付いているのか?
「昔は、勇者を別の世界から召喚したらしいんだ。でも、随分前に失われてしまってね。前の勇者からだいぶ経ったけど、なかなか現れてくれないんだ」
王様曰く、魔王は世襲制で、倒しても次が生まれてくるらしい。
しかし、勇者はその時の1回限り。サイクルが間に合わないのだ。
召喚の術式も失われてしまったせいで、次の勇者も呼べない。
前の勇者はかなり前で、今は人間側が頑張って持ち堪えている状況なんだとか。
「私としては、君のような人が勇者だとありがたいんだけどね」
「嫌ですよ。面倒くさい。それこそエヴリーヌが黙ってない」
「そうだね。あの子はブレーキがあまり効かないから。どうしたら君みたいに育ってくれたのかね」
「うちの親は特に変なことはしてないですよ。強いて言うなら、飴と鞭の使い分けが上手かったくらいです」
「飴と鞭?」
「褒める時は褒めて、叱るべきときは叱る。それだけです」
「そうか……これから意識してみるよ」
「間に合いますかね?」
「それは分からないな。ハハハ」
フベルトがお茶を持ってきてくれて、結局、日が暮れるまで話し合った。
すると、王様が急に話を変えた。
「リョウタロウ君、君は、別の世界を信じるかい?」
「どうして、そんなことを?」
「実は、魔王戦線の最前国の祈祷師から信託があってね。別の世界から来た者が、魔王を打ち倒すって」
「それで?」
「私はね、君がそうなんじゃないかって思ってるんだ」
「!」
驚いた。この人、心の中が読めるのか?それとも頭の中?
とにかく、気づいているのか?
急にこの人が怖くなった。
「理由は?」
「歳の割に多くを知っているし、他の人とは色々違う。ヨームの1件から、君の名前を多く聞くようになったしね。君に関しては、謎が多いし」
たしかに……俺は別世界の人間だ。
でも、それを言っていいのか?言ったらどうなるんだ?
俺は……どうするべきなんだ?
少し考え、結論が出た。
「王様、1つ問題を出します」
「ほう?」
「箱の中に、1匹の猫と、30分後に発動する猫を殺す魔法の装置を入れて、誰も、なにもさせずに30分放置します。さて、猫は生きているでしょうか、死んでいるでしょうか」
有名な「シュレリンガーの猫」を少し変えたものだ。
あれは、俺には少し難し過ぎるため、俺は、独自の解釈であれを考えているため、正しいかは分からないがとりあえずそう言うことにしておこうという魂胆だ。
今回、説明するのにちょっと借りるだけだ。
「それは、死んでいるのではないか?30分後に魔法で」
「でも、なにかの不具合で、魔法が発動しなかったら?」
「生きている……」
「つまり、箱を開けるまでは誰にもわからないってことですよ。つまり、俺はその別世界の人かもしれないし、違うかもしれない。それが分かるまではね」
「でも、君自身はわかるのではないか?」
「神様が記憶を改ざんしていたりしたら意味ないでしょう?」
「成る程。そう言うことか。やはり君は面白い。やっぱり、うちの婿に……」
「ご遠慮させていただきます」
その日はその話で終わり、俺は小鹿亭に帰った。
結局のところ、神が存在する以上、俺たち人間は、生き物は、この地球という大自然の1つの小さな要因に過ぎないということだ。
俺の孤独も、あいつらにらとってはちっぽけなものなんだ……
次回、戻ってくる日常




