普段怒らない奴ほどキレると怖かったりする。
前回学んだこと
(方向性はともかく)モフモフはみんな大好き
獣族の一件から少し経ち、2週間ぶりにエヴリーヌが帰って来やがった。それもとんでもない知らせと共に。
内容はこうだ。
「なんか大臣達がリョウタロウが怪しくて不信感を持ったから、ちょこっとの間学校行ってくれない?」
本当にこいつはトラブルしか持ってこないな……
まあ確かに、ディアナ、フェリクス、コリンナはある意味社会人だから、パーティの中で唯一浮いているのが俺なのはわかるけどさ、なんで異世界に来てまで学校に行かなきゃならんのだ。
いやいや、「制服代とか教科書代はこっち持ち」とかそういう問題じゃなくてね?
というわけで学校にしばらく行かねばならなくなった訳だ。
学校と言っても、午前中だけで、レベルもそこまで高くないゆるーい学校だ。
科目は人によって違うが、俺の場合は歴史、数学、魔法に剣術だ。
歴史はその名の通り、この世界の歴史についてだ。
正直俺は社会科目が苦手なのだが、こっちの歴史は興味深いことが多い。
数学は、高校入学レベルのもので、現世でまあまあなレベルの高校に通ってた俺としては物足りないくらいだ。好きじゃないけど。
魔法だが、これは現世にないものだから、新鮮で楽しい。
魔法とはなんたるかを学ぶことが出来るからな。
剣術だが、冒険者として実戦を積んだ俺からすれば子供のチャンバラもいいところだ。
一定の動きしかしない“型”しかやらないため、退屈で仕方がない。
ちなみに、俺の高校時代の得意科目は国語だった。
そんな一部退屈な学校生活は思いの外楽しい。
本当は2ヶ月くらい行かなきゃならなかったが、すべての科目で優秀すぎて、2週間ほどで済みそうだ。
まあ、歴史はゲームの背景と思えば楽だし、数学はそもそも世界的にレベルが低いし、魔法はスキルの応用みたいなところだし、剣術はそれなりのモンスターを殺せるくらいの腕はあるしで、教わるのがほぼ無意味なのだ。
あっという間に、あとは卒業試験を受けるだけってところまで来てしまった。
それにしてもこの学校、貴族が混じっているせいか、カーストが酷い。
簡単に言うと、家の権力で大体決まる。
廊下を歩いていると、いわゆる“いじめ”の現場にぶち当たった。
いじめられてるのは貴族ではない生徒、いじめているのは貴族の生徒。
「おい」
もちろん止めに入る。
いくら人権って概念が無くても、やって良いことと悪いことがある。
「なんだ? ただの一般生が、この私になにか意見する気か?」
あーウザい。
親の権力でイキる奴ほどムカつく奴はいない。正に「虎の威を借る狐」だな。
個人的には狐は好きなので、狐に失礼だと思っているが。
適当に流して、いじめられた生徒を助ける。
すると取り巻きが肩を掴んだのでその腕を捻ってはっ倒す。
「デカイのは態度だけだな」
「なんだと!」
ここで殴り合いになっても俺は一向に構わなかったのだが、事は面倒な方向に行った。
なんとこいつ決闘を申し込んで来やがった。
この後、剣術場(体育館みたいなところ)で剣で1試合やろうぜって話だ。
まあ、負ける気はしないので受けたが、なんと決闘するときは書類にサインしないといけないらしい。
内容は、「決闘中の怪我については学校は一切の責任負いません」とか「お互いの怪我も自己責任」と言った内容だった。
意外と多いのかな。決闘する奴。先生に聞くと、色恋沙汰で結構あるらしい。
そういうところは変に平和な学校だな。
決闘は、木剣による1対1の勝負らしい。
まあ、軽ーくボコすか。
2時間後、剣術用の服に着替え、バスケコートくらいのサイズのフィールドに出た。
ちょっとしたアリーナみたいなところで、観客席もある。
木剣はわりと重い。
というか、普段振ってるあの剣が軽すぎるんだ。
審判がつき、試合が始まる。
まあまあ集まってきた観客の中でやるのは少しやりづらいが、まあ良いだろう。
どうせすぐこの学校から居なくなるんだし。
審判が開始の合図をすると、なんと周りから10人ほど乱入して来た。
「おい! 審判! おかしいだろ!」
しかし審判は知らぬ存ぜぬで、相手の貴族はニヤニヤしている。
ははーん?さては買収したな?
どこまでも汚い手を使いよる。まるでドロドロした韓国ドラマみたいだ。
まあいい。
何奴も此奴もこの学校の生徒らしいし、パッと見特に強そうなのはいない。
1対11。
「いいぜ。本物の剣術見せてやるよ!」
多人数戦に置いて、俺が個人的に大事と思っていることは、まず、数を減らすことで、そのために1人をどれだけ早く仕留められるかにかかっている。
今回は加減なしで行くため、死のうが半身不随になろうが知ったこっちゃない。
ルールを破った此奴らが悪い。
10人まとめてかかって来たが、遅い。
躱して、斬って、躱して、殴って、躱して、蹴ってを繰り返すだけの単純な作業だ。
「オラァ!」
途中、蹴ったやつを審判にぶつけておく。
買収された罰だ。
「どうした! その程度かよぉ!」
それなりにタフなのだが、いかんせんどいつも弱すぎる。ゴブリンとかの方がまだ厄介かもしれない。
そして、あっという間に10人片付いてしまった。
「雇う奴間違えただろ?」
「バ、バカな……」
「さてと、あとはお前だな」
相手の貴族と間合いを取り、構える。
相手はきっと剣で斬りかかってくると思っているだろう。
だから、俺はあえて剣を貴族に向かってぶん投げた。
すると、驚いて動けなかったのか、剣は貴族の頭に直撃した。
この隙に一気に距離を詰め、肩を掴み、膝蹴りを入れる。
分かっていたが、あっけなく終わった。
しかし、なんか物足りない。
こう、痛ぶり足りないというか、スッキリしないのだ。
昔、空成がいじめられてたことを思い出したせいか、気分が悪い。
倒れた貴族を何回か踏んでみる。
「ご、ごめんなさいぃぃぃ!」
「謝る相手違うだろうがっ!」
そう言って蹴り上げていじめていた生徒の方を見させる。
貴族は立ち上がり、そいつの方を向いた。
「す、すまなかった……」
謝罪の言葉はこれだけだった。
これに無性に腹が立った。
こいつのいじめは酷かったが、謝罪がこれだけでは意味がない。
これでは、またどこかで絶対にいじめをやる。
“いじめ”ということに対して、そしてこの貴族の態度に対して、我慢が出来なかった。
いじめを撲滅するなら、“徹底的にだ”。
「謝るときはよぉ?」
「ヒィィ!」
俺は貴族に向かって足を高々と振り上げる。
「土下座だろうがぁぁぁ!」
俺は貴族の頭を思いっきり蹴り下ろし、ズガン!という音とともに、剣術場の床に頭が半ばめり込んだ。
「どうだよ、いじめられる気分はよぉ!?」
「ガハッ!」
周りは引き始めているが、関係ない。
こんな奴に育てた親が悪い。
なら、再教育しなきゃならない。
「人を雇って? 審判も買収し? それでも勝てない気分どうだ? 少しは相手の気持ちが分かったか!?」
喋るたびに貴族の頭を踏みつける。
「ゆ、ゆるじでぇ……」
「お前は今までそうやって許しを乞う人にどうした? 許したか? やめたか!?」
貴族を蹴飛ばして仰向けにする。
「なあ、人って関節いくつあると思う?」
「……へ?」
「俺もよく知らないからさ、数えさせてもらうわ。お前の体で、1つ1つ外していくからさぁ」
「や、やめ……」
「指から行くか? 膝か? 肘か? それとも肩からにするかぁ?」
「も、もうやめっ!」
「ひとぉつ!」
貴族の右腕が踏み抜いたことによって逆に曲がる。
「ガァァァァ!」
「ふたぁつ!」
膝を踏み抜き、ガコンッ!と音が鳴る。
「やめろ!」
3つ目に行こうとしたところで、誰かが叫んだ。
見ると、離れた扉のところに知らないおじさんが立っていた。
「誰だ?」
「私の息子になにをしている!?」
「なんだ父親か。待ってろ、今関節数えてる最中なんだ」
「黙れ! このバケモノが。お前たち!」
すると、そばにいた大人の男2人が本物の剣を抜いて向かって来た。
「全く、随分と乱入が多いなぁ!」
足下にあった剣を蹴り上げて握る。
男2人はさっきの奴らよりは手練れだが、俺の反応速度の方が速い。
両方とも胴体や頭を重点的に滅多切りにし、ダウンさせた。
「クズの周りってクズしか集まらねぇんだな」
「お、お前! 私が誰だかわかっているのか!?」
「知らねぇし、知りたくもないねぇ!」
取り巻きの男を踏み締めながら答える。
すると、扉からフベルトが入ってきた。
「リョウタロウ! やり過ぎだ!」
「なんだよ、お前も買われたのか?」
「限度が過ぎていると言っているんだ!」
「こっちは決闘申し込まれて受けただけなのによぉ……チッ、しらける事するなよ……」
仕方なく男から足を外し、去ろうとしたときだった。
貴族の父親が言った。
「ま、全く、これだから下民はダメなのだ! どうせロクでもない親に育てられたからあんなバケモノになったんだ!」
プチンッ
その瞬間、何かが俺の中で外れた。
俺は男の持っていた真剣を握り、貴族の父親に突進し、そのまま奴の片腕を切り飛ばした。
「ギャァァァァァ!」
すると、横からフベルトが突っ込んできて、剣を弾き飛ばしたが、俺は剣に集中した隙を狙い、フベルトの側頭部を蹴り飛ばす。
「グッ!」
フベルトはそのまま横にぶっ飛んで行った。
1回の大きなバク宙で男2人のところへ戻り、もう1本の剣を拾い、構える。
標的はもちろん貴族の父親の眉間だ。
地を蹴り、高速で突進する。
「しまっ!」
フベルトは動けない。
誰の邪魔もなく殺せる。
『涼太郎!』
しかし、直撃の一瞬前、刹那の瞬間に、耳に聞こえる筈のない“親友3人”の声が聞こえた。
剣は外れ、貴族父親の耳を抉りながら突き刺さった。
急に胸が苦しくなった。
久しく聞かなかったみんなの声。
あの日からずっと空いている心の穴。
ずっと隣にあって、決して埋まることのない暗い穴。
孤独という現実が、一気に押し寄せた。
次回、裁判




