女性とはしつこい生き物である(偏見)
前回学んだこと
人の不幸は蜜の味。
エヴリーヌの結婚式から1週間。
俺たちは平穏な日々を過ごせていた。
厳密には完全に平穏ではないが、エヴリーヌという因子が無いだけでだいぶ変わる。
今日も今日とていい朝、いい朝食、そしていいコーヒーだ。
「あぁ〜これよこれ〜ズズズ……「今戻ったぞー!」ブフゥゥゥ!」
コーヒーを飲んでいたら、エヴリーヌが現れ、思わずコーヒーを吹き出してしまった。
「ゲホッゲホッ……なんで帰って来た!?」
気管に入ったコーヒーに咳き込みつつも、席から立ち上がってエヴリーヌに聞いた。
すると、エヴリーヌはパッと笑顔になり、俺に抱きついて来た。
「リョウタロウー!」
「なになになに!?」
エヴリーヌは抱きついた状態で顔をすりすりしている。
「やめろ! 何がどうしてこうなったか説明しろぉぉぉ!」
するとエヴリーヌは一度離れて、俺の両肩に手を置き、満遍の笑顔を浮かべた。
「リョウタロウ、あのクソ貴族を捕まえさせたのはお前だろう? 本当に助かった! ありがとうー!」
そしてまた抱きついてはしゃいでいる。
「え!? リョウタロウさんそんなことしたんですか!?」
ディアナやフェリクス、カミラが驚く。
「んなわけないだろう! おい! 誰がそんなホラ吹きやがった!」
「? 誰ってフベルトだが? 依頼されてやってくれたんだろう?」
あのバカ、喋ったのか!?内密にーとか言ってたくせに!?
「そんなことしてない! あいつが俺との仲を取り持つために嘘言ったに違いない!」
「そうなのか? んー、フベルトに限ってそれはないと思っているんだが……それに、リョウタロウ、式の途中で抜け出しただろう?」
「あれは、その……そうだ! 前に食糧庫に忍び込んで食材くすねたのがバレたのかと思ってだな!」
咄嗟に思いついた嘘を言う。実際やって見たいのは本当だ。
「それくらいどうってことないのに。とにかく、これでまた一緒にいれる訳だな!」
「ふざけんな! 王女としての仕事はどうした!?」
「ふふふ、実は今回の一件で父上にある程度発言出来る様になったからな!」
バカ親父ぃぃぃ!そこで折れたらダメだろう!
「もう理由ないだろう?」
「いや、これで正式に婿探しができる訳だからな! これからもよろしく頼む!」
「預かるこっちの身にもなってくれぇぇぇ!」
仕方がない。こうなったら王様に直談判するしかない。
俺は小鹿亭を飛び出して、王城に向かった。途中、フベルトに会った。
「あ、リョウタロウ!」
「このバカ野郎がぁぁぁ!」
「グハァ!」
『騎士長ーーー!』
俺はフベルトに綺麗な◯◯ダーキックをお見舞いした。
案の定、周りの騎士達が騒いだ。
「なぜあのことを話した!?」
「それについてはすまない。仕えてる人に嘘はつけず……」
「くっ、あくまでも騎士道ってやつか! だとしても俺に内密に頼んだ意味ないだろうがぁぁぁ!」
「わかった、わかった! 悪かった! ちゃんと違約金みたいなのは払うから!」
「こればっかりは金じゃどうにもならねぇよぉ〜!」
そんなフベルトを連れて王様に会いに行った。
フベルトの顔パスでアポなしてもなんとかなるのがありがたい。
全く、主君に嘘つかないとか、素晴らしい忠誠心だなチクショウ!
「おぉ! リョウタロウ君。ちょうど良かった。先日の件のお礼をと思っていたところだ」
「そんなことより、エヴリーヌのこと、どうにかして下さい!」
「と、いうと?」
「また俺たちのパーティに入るとか言い出して大変なんですよ! それに王女なんですから、そう簡単に城外に出したらダメですって!」
「いや、私もそのつもりだったのだが、先日の件で父親としても王としても立場が無くてな……」
「せめて1週間か2週間毎に王城と行き来するとかにしましょうよ。王女の命預かるこちらの精神疲労も考えて下さい! 俺たちは精鋭部隊じゃないんですから」
「ふむ……わかった。検討しよう。迷惑をかけてしまって、申し訳ない」
「あら、この方がリョウタロウさん?」
王様と話していると、女の人が声をかけて来た。
金のブロンドヘアに、綺麗なドレス、後ろには数人のメイドを連れていて、どこか母性を感じる。
「紹介しよう。妻のルイーズだ」
なるほど、エヴリーヌのお母さんということか。たしかにどことなく似ているな。
「はじめまして。ルイーズと申します。娘がお世話になっているようで」
「ええ、お世話しすぎかも知れません」
少しずつ落ち着いて来たが、まだ頭の中が半ば暴走状態だ。
「ふふ、エヴリーヌにこんな友人が出来たなんて、私嬉しいわ!」
奥さん、友人として進言するなら、彼女はとんだ暴れんぼうでっせ……
「ええ、自分もまさか王女とお近づきになるとは思ってませんでしたよ」
相手は目上なのに、口から皮肉じみた事しか出てこない。
疲れているんだ。そう疲れているに違いない。
「クヌート家の一件では、本当にありがとうございました。全く、この人ったら私のアドバイスを全く聞かないんだから……」
「私もこうなるとは思わなかったんだ」
「そ、それは……俺じゃなくて……」
「いや、フベルトから聞いているぞ。きっと否定するだろうが、フベルトが依頼して、それをこなしたと。やったことは違法だが、今回は帳消しだ。本当に感謝している」
「何話してんだ……っていねぇ!」
振り向くとフベルトはすっかり姿を消していた。
あいつ……今度ボコボコにしてやろうかね。
しかし、ここまで来たら認めざるを得なくなって来た。
下手に騒ぐより、それを認めてお礼をもらう方が楽な気がして来た……
「ま、まあ、警備はそこまで大したものではなかったので」
「そうだ! リョウタロウさん? うちの婿にならない? あなたならエヴリーヌとも仲がいいでしょうし、なかなか見所があるわ」
「いえ、そこはお断りさせて頂きますよ」
なんだろう。ルイーズさん……第1印象は良かったけど、中身エヴリーヌに似たところがあるな……流石親子ってことか。
「ほう、それはどうして?」
王様も少し気になったようだ。
「この際だから話しますが、1週間前の夜、エヴリーヌに告白されまして……」
するとルイーズさんは「あらあらまあまあ」とニコニコし出した。
あ、この人他人の恋話に飛びつくタイプだ。
「まあ、最終的に王様になるのとか、国まとめるとかあまり得意でもないし、好きでもないので、断ったんですよ。結果的にそれはエッカルトを退けるための代わりだった訳ですが、まだまだ未熟者だし、彼女を幸せにできる自信もないので」
「なるほど。娘をフったという点は少し気になるが、君はしっかりしているようだし、理由も納得だ」
「でも、それだけしっかりしていると、余計婿に欲しくなるわね」
「こらこら」と王様がルイーズさんを抑えるが、あの人の目、知っているぞ。蛇の目だ。これは完全にマークされたな。
全く親子揃ってこれか。
いや、むしろ親子だからこれなのか?
とりあえず、エヴリーヌには1、2週間おきに城と俺たちのところを行き来することを考えてもらうことをお願いして、俺は小鹿亭に戻った。
「ただいまー」
「あ、リョウタロウ! どこ行ってたんだ?」
「ちょいとお城にね」
「それより! リョウタロウさん! 例の件リョウタロウさんの仕業ってほんとですか!?」
ディアナが立ち上がって聞き、いつのまにか来たコリンナも一緒に俺を見ている。
「あぁそうだよ! フベルトの依頼でやりました! これで満足か!?」
「やっぱりな!」
エヴリーヌは誇らしげだ。
いやお前が誇る要素ないだろ。
「わ、私もリョウタロウさんを信じていましたとも! 黙って見ている人ではないと!」
「その割には思いっきり引っ叩いたよな」
「そ、それは……その……」
「とにかく! これからもよろしくな! リョウタロウ! みんな!」
元気とは時に他者への毒となる。
特に、俺みたいな元々陰キャな人には結構響く。
俺はゆっくり異世界で過ごしたいだけなのに…
次回、犬?探し




