異世界にパターンは存在しない。
前回学んだこと
物だって人を選ぶ。
まさかもう1体いるとは思わなかったが、この剣なら勝てる気がする。
この1週間程この街に滞在していたが、衛兵の数がアリスター程多くない。
つまり、今この街でヨームに対応できるのは俺達のパーティか、たまたまこの街に立ち寄った強者しかいないだろう。
被害が広がる前に止めなきゃならないな。
現場に着くと、住宅街はひどい有様になっていた。
家は壊され、瓦礫の山となっていて、多くの人が倒れて、助けを呼んでいる。
着くのが遅かったか?いや、1体目を倒してから2分も経ってない。その間にここまで破壊されるのはおかしい。
すると、少し先で大きな音がした。
そこに駆けつけると、さっきのよりも大きいヨームが暴れていた。
ヨームはただでさえ大きいのに、それより大きい個体が暴れていれば、ここまで被害が出るのも納得だ。
俺は正義のヒーローになるつもりは無いが、コイツの存在が気に入らないので斬る。
ちなみに、アリスターからの謝礼も目的に入っている。
俺は、その大きなヨームに向かって行き、後ろから右足を斬り裂き、そのまま、正面に立ち、胸にあった黒魔石を貫いた。
しかし、ヨームは倒れず、そのまま正面の俺を腕でぶっとばそうとしてきた。
一瞬の判断で、俺は横に飛んだが、腕は当たってしまい、体が宙を飛んだ。
横に飛んだおかげで、衝撃を最小限に抑えられたが、痛いものは痛い。
まともに着地出来ず、瓦礫に突っ込んだ。
「何がどうなって……」
起き上がって見てみると、斬り飛ばした足が再生している。
貫いたはずの黒魔石もだ。
どういうことだ?確実に黒魔石に剣を突き刺した筈だ。手応えもあった。なのにどうして……
考えてる間にもヨームは暴れ続けている。
とにかく、今は足止めだけでもしなきゃな!
その後も、ヨームは、腕や足を斬っても斬っても再生を繰り返した。
少しして、ロボルがみんなを連れて来た。
俺は状況を伝えるために1度下がったが、このヨーム、他より頭がいいのか、瓦礫を投げてきた。
瓦礫は左肩を直撃した。
「すまん。治療頼む」
なんとか撤退し、物陰に隠れ、エヴリーヌとディアナに治療を頼んだ。
「どうしてここにヨームが?」
フェリクスがバレないように様子を伺っている。
てか、ヨームのこといつ知った?まあ、十中八九エヴリーヌだろうが……
「わからない。しかも、胸の黒魔石を貫いたのに死なない。腕や足も再生を繰り返すし、不死身……は無いだろうが、とんでもなく厄介だ」
「うぅ……傷はとりあえず、大丈夫だ……」
まだ頭痛が取れないのか、エヴリーヌとディアナは少しフラフラしている。
「ん?あれ、魔力源2つありません?……イタタ……」
ディアナがヨームを見て言った。魔力源とは、黒魔石のことか?
「2つ? どういうことだ?」
ディアナは頭を抑えながら答える。
「私、魔力探知が使えて、それで見てみたら、胸の奥に、もう1つ大きな反応が……うぅ……頭がっ」
そう言われて自分でも魔力探知で見てみると、たしかに胸の黒魔石の奥にもう1つ黒魔石と同じように反応がある。
そうか。黒魔石が2つあるから、その分エネルギーも2倍で、再生魔法も連続で使える訳だ。
「仕組みが分かったらあとは簡単だな」
「リョウタロウ、作戦があるのか?」
「あぁ、だが、リスクもある。それでもやるか?」
みんなの意見は一致しているようだ。
約2名使い物にならないが……
「分かった。作戦はこうだ。エヴリーヌとディアナで、フェリクスの身体強化をしてやってくれ。そのあと、フェリクスは、あいつと正面から対峙して、あいつの拳を少しの間止めて欲しい。そうしたら、俺が懐に入って黒魔石を2個とも貫く。ロボルは、その間、あいつの足を再生したところから斬りまくって体勢を崩したままにして欲しい」
「あいつとレスリングか……楽しそうだな」
「頭が悲鳴をあげてるが、やるぞ! 私は」
「はい。そのためのパーティです……っ! イテテ……」
「ワンワン!」
女性陣頼りないなぁ……大丈夫かな……てか、この世界にもレスリングあるんだ。
「だが、リョウタロウ、本当に貫けるのか?」
「任せとけ。この新しい剣なら出来る」
……よな?
そして、作戦が開始された。
まず、バフ盛り盛りのフェリクスが突っ込み、ヨームと取っ組み合う。
そこに横からロボルが剣を咥えて走り込み、足の裏を右へ左へと斬り続ける。
最後に、俺がフェリクスとヨームの間に入り、剣を突き刺す。
先程の通り、胸の黒魔石を貫く。
しかし、思いの外、2個目が硬い。
「くそっ!」
ひたすら力を込めるが、なかなか刺さらない。
歯を食いしばり、剣を少しでも奥へ突き刺す。
「リョウタロウ……! 早く……2個目を!」
フェリクスが苦しそうに言う。
「こっちも必死なんだよ!」
ここに来てステータスの筋力を疎かにした罰が来るとはな!
(頼む! 貫いてくれ! 今しかないんだ!)
「リョウタロウ!!!」
フェリクスが叫んだ。
「いい加減……くたばれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
すると、剣から何かが腕に流れて来た気がした。
次の瞬間、剣はヨームに深く突き刺さり、ヨームは断末魔をあげ、倒れた。
その場に残されたのは、剣を持った俺とロボル、そして腕をだらりと垂らしたフェリクスだけだった。
「やった……のか?」
おいやめろフェリクス。それを言った時は大体ダメなんだから。
しかし、今回はしっかり死んだようで、ヨームは溶けて無くなった。
フェリクスは、よほど腕が疲れたのか、その場に座り込み、腕を伸ばしている。
すぐにエヴリーヌとディアナが駆けつけて、治療を行なった。
最後の瞬間、剣から何か来たと思ったら、腕により一層力が入ったように感じた。
やっぱり、コリンナとヨルクさんの説明通り、コイツには何かを吸い取る力があるのかもしれないな。
(って、そうだ! コリンナとヨルクさん!)
思い出した俺は鍛冶屋の方へ走った。まだ関係は薄いが、心配なものは心配だ。
思いというものは、物にも伝わるのかも知れない。
つまりは俺の思いの伝わらない女性2人は物以下ってことか……
次回、別れは突然に




