物にも意思はあるのかもしれない。
前回学んだこと
どんな引退にもそれなりに理由がある。
牙を預けてから、数日が経った。
その間、俺たちはドワーフの街で過ごしたのだが、うちの女子2人はつくづくバカなのかもしれない。
2日酔いが治って早々にまた飲みやがった。結果は言うまでもない。
その日、フェリクスが大剣を新調しに行っていたので、俺が面倒を見ていたが、正直アホらしくてやってられない。
「うぅ……リョウタロウ……水ぅ……」
「はぁ……」
ため息しか出ないね。
前の日にバカ飲みしてゲーゲー吐いてた奴が3日も経たずに飲むとかどうかしてる。
流石の俺も見た目は良いと思ってるディアナがリバースしてる姿はちょっと引いたぞ。
わかりづらいなら今流行りの女優とかアイドルが目の前で吐いてる姿を想像してくれれば良い。
エヴリーヌもエヴリーヌで、それなりの見た目してるから絵面が酷いったらありゃしない。
さらに数日後、そんなことがありながらも、武器ができたという知らせを受け、俺とロボルはヨルクとコリンナのところに向かった。
店に着くと、ヨルクが出迎えてくれた。
「ようこそ。ささ、こちらに」
少しすると、コリンナが奥から、武器を持って出てきた。
「こちらです」
2振りの長さの違うブレードは、長い方が俺ので、短い方がロボルのだ。
長い方は、木刀より少し短いくらいで、短い方は、ナイフとほとんど同じ長さだ。
なかなかの出来に驚きつつも、持ってみる。
「あ、気をつけて……」
「軽いな」
武器の軽さを重視し、持ち手は普通の武器のように柄を使わず、ブレードをそのまま伸ばし、布を巻いた仕様にしてあるのだが、ブレードそのものが軽い。布はグリップが効く素材にしているため、手に馴染む。
国語辞典より軽いか?
本当に金属か疑うほどに軽い。
「そうなんです。素材が相当良い物だったのか、他にも色々とあるんですよ。それより、平気……ですか?」
「どういうことだ?」
コリンナは、何かを気にしているようで、少しあたふたしている。
「実は、その長い方、魔力なのか何かは分からないんですけど、“吸い取る”んです」
「吸い取る?」
「はい。作ってる最中からだったのですが、こう……魔力? のような、気力? みたいなのが吸われる気がしていて」
コリンナはヨルクの方を向いた。
「あくまで憶測ですが、その牙の持ち主は、その牙で、多くの命を喰らって来たせいか、その記憶からなのか、切ったもの、触ったものから、魔力や気力といった物を吸い取っているように見えます。リョウタロウ様が平気ということは、その剣は、あなたを主人と認めたということかも知れませんな」
えぇ……使うと寿命が減ったりしないだろうな……呪われてたりしたら怖いなぁ。
「それだけじゃなくて、その剣は、魔力を流すことで、刃の部分に1枚の層が出来、切れ味が増すんです!」
「つまり、魔力を流せば流すほど切れ味が上がるってことか?」
「これほどの武器はワシも見たことがない。コリンナが作ったのが不思議なくらいじゃ。詳細な鑑定をすれば、とんでもないスキルが付与されてるかも知れませんな」
「とにかく、コリンナに作られたのは正解だったってことだな」
「い、いえ! 私は、師匠に教えてもらったことをしただけで……」
「教えてもらったことを覚えるのと、実際にやるのとでは大きな差がある。それをやってのけた君の実力だよ。ありがとう」
コリンナは嬉しそうにニコッと笑った。って、今思い出したが、歳上だったわ……
「あ、あと、鞘の方も……」
そう言ってコリンナは、2本分の鞘を出した。
俺の方は背負うタイプで、ショルダーバックのようになっている。ロボルの方は、胴体に巻きつける皮の帯に付いている。
鞘のデザインも、刀身を覆うだけの質素な物になっていて、しっかりカチッと収まり、逆さまにしたくらいでは落ちてこない。
代金を払い、俺とロボルは、店を出た。
「こんな良い物を作ってくれて、本当にありがとう。大事にするよ」
「はい。また、何かご依頼が有れば、よろしくお願いします」
「あぁ、じゃあまた」
ここの鍛冶屋は行きつけになりそうな気がするな。
しかし、早く試し斬りをしてみたい物だ。なにせアイツの牙だからな。間違いなく素晴らしいだろう。
それにしても軽いな。背負ってるのを忘れてしまいそうだ。
そう考えながら街を歩いていると、タイミングよく……本当は良くないし、コイツで試し斬りは少し怖いが、路地裏から、ヨームが突然現れた。
街の人もビックリして逃げ惑っている。
「ロボル、フェリクスたちを呼んできてくれ」
「ワン!」
ロボルに増援を頼み……って、向かわせてから思い出したけど、うち2人は“また”ダウンしてるんだった!
くっそ……とにかく、今はコイツを止めないと。
俺は新しい剣を背中から抜く。てか、名前付けないとな……
名前は後にして、俺はヨームに向かって走った。
「悪いな。俺は1度勝った相手には負けたくないんでね!」
俺は正面から突貫し、ヨームの目の前でジャンプし、ヨームの頭上を通り過ぎて着地した。
そのまま前のオークのように、足を斬りつけた。
しかし、予想外のことが起こった。
俺は、オークの時みたいに、足の腱を斬ろうとした。しかし、結果は、膝そのものを真っ二つに斬り裂いてしまった。
ヨームは、片足の膝から下がなくなったことで、体勢を崩し、後ろに倒れてきた。
俺はとっさに避け、そのまま、胸にあった黒魔石に剣を突き立てた。
前のナイフと違い、カキンッ!という音と共に、黒魔石は割れた。
俺は、改めて自分の新しい武器に驚いた。
軽さ、長さ、取り回しの良さ、そして威力。全てにおいて予想を遥かに超えている。
これが有ればなんだって出来る気がした。
そんな余韻に浸っていると、どこかの人が叫んだ。
「誰か! 住宅街にも奴が! 助けてくれ!」
俺は迷わず向かった。方向的にはヨルクさんたちの店の方だったからだ。
この剣、俺に扱いきれるかどうかはわからない。本物の達人とは、武器や道具を選ばないものだ。武器の性能に驚いているようでは、俺もまだまだなのかもしれない。
次回、速さが足りない




