異世界にも隠れた名店はある。
前回学んだこと
ディアナに酒はダメだ。
ディアナの酔っ払い事件の翌日、案の定、女性2人は2日酔いでダウンした。
「うぅ……」
「あ、頭がぁ……」
ディアナの酒癖は知らなかったので、意外性抜群だったが、エヴリーヌさ、国の王女が酒に対して考えが甘いってどうなのよ?
「リョウタロウ、俺が2人を見ておくから、お前は用事行ってこい」
「いいのか?」
「勿論。そのためにこの街に来たんだろ?」
フェリクスは相変わらず大人だ。
2日酔いバカ2人をフェリクスに任せ、俺はロボルと共に、ドワーフの街に出た。
しかし、ドワーフは酒にも強いんだな。
朝から店先で飲んでるやつもいれば、昨日から飲んでるやつも居る。
それはそうと、鍛冶屋だ。
この牙を良く加工してくれる鍛冶屋を探さなきゃならない。
実は、フベルトからある程度情報は仕入れている。
なんでも、このドワーフの街で、かつて1番の腕を持つと言われていた人で、名前はヨルクというらしい。
しかし、彼はある時、突然、鍛冶をしなくなったらしい。街にはいるらしいので、練り歩いて探してみる。
ドワーフの街の中でも、鍛冶屋が固まっている所と、住宅街が固まっている所と、ある程度分かれているため、探す範囲はそこまで広くはない。
1時間ほど経っただろうか。ようやく目当ての場所を見つけた。
そこは、鍛冶屋の区画の中でも、かなり端っこの方で、ひっそりと存在していた。
「ごめんくださーい」
中に入ってみると、外見通り、中も質素というか、こじんまりしている。
「はいはい。どちら様かな?」
すると、おくから髭の多い老人が出てきた。
「あなたが、ヨルクさん?」
「いかにも。それを聞くということは、貴方の目的は鍛治の依頼かな?」
「え、えぇ」
「済まないが、ワシはもう歳でね。とても鍛冶が出来る体では無いんじゃ」
なるほど、年老いてしまったということか。それならば仕方ないな。
お年寄りは労わる。
両親からの教えだ。
「じゃあ、変わりと言ってはあれだけど、こいつを上手く扱えるところを紹介してくれないか?」
そう言って俺は、ロボルの親の牙を見せた。
かつては街1番の鍛冶屋だったのだから、それくらいは知っていると思った。
「これは……どこで?」
「え……あぁ、こいつの親のものでな。残ったのがそれだけだったんだ」
そう言ってロボルを抱える。
って重っ!いつの間にこんな重くなったんだ!?この間まで普通に抱っこ出来たぞ!?
「そうですか……これは、かなり多くの記憶を持っている……」
「分かるんですか?」
「えぇ。長年鍛冶をやっていると、その分多くの素材に出会いましたから。しかし、これはワシの人生でも1番の上物かもしれませんなぁ……」
ヨルクさんは、牙を撫でながら、牙から何かを感じ取っているようだった。
「こちらからお願いするのも失礼かもしれませんが。この牙、うちで扱わせてくれないでしょうか?」
「え?しかし、鍛冶は……もう……」
「ええ、ですから私ではなく、私の弟子に、作らせては貰えないでしょうか」
そういうと、ヨルクさんは、奥の方に声をかけた。すると、1人の少女が出てきた。
ヨルクさんと同じドワーフの少女だ。彼女は出てきて、こちらに一礼した。
鍛治仕事をしているのか、体は煤で汚れていたりするが、それだけ精進しているということなのだろう。
「コリンナ、挨拶しなさい」
「はい。コリンナです。よ、よろしくお願いします」
「この子に、これを使わせて欲しいのです。勿論、腕は保証します。私の最初で最後の弟子ですから」
「お師匠様、まだ、私は……」
ヨルクさんはこう言っているが、当の本人は、あまり賛成ではないらしい。
「教えることは全て教えた。あとは、コリンナが自分を認めるだけじゃよ」
「っ……」
なるほど、腕はあるが自信がないと言うわけか。
「わかりました。これをお預けします」
「え?」
「そうですか。ありがとうございます」
俺の言葉にコリンナは戸惑った。
「待ってください。私は、まだ……」
「昔街1番と言われたヨルクさんの弟子なんだろう?それなら安心して預けられる」
俺はコリンナに牙を渡した。
「だから、これを頼む」
コリンナは戸惑って、ヨルクさんの方を向いた。
ヨルクさんは、そんなコリンナに向かって、ただ、何も言わずに頷いた。
それで、コリンナも決心したようだ。
「わかりました。全力で作らせていただきます!」
その後、俺と、ヨルクさん、コリンナの3人で、どんなものを作るかを考え、ある程度のイメージが出来た。
その後、コリンナは牙を持って鍛冶場へ持っていき、作業に入った。
「最初で最後の弟子だから。ですか」
俺はヨルクさんに聞いた。
「えぇ、実は、コリンナには、両親がいないんです。早くに亡くしていて。それで、友人だった私が引き取ると、私の鍛治仕事に興味を持ちましてね。丁度引退を考えていたので、ここに移って、コリンナに鍛冶を教えたんです。あぁ、見えて、もう23なんですよ?」
「え!?同い年くらいかと……」
俺今17だぞ……6歳も違うのか……
「ハッハッハ。ドワーフとはそういうものなのですよ。それに、あんまり世の中を知らずに生きてきましたから。少し内気な性格でしてね」
そんな話をして、その日は終わった。
完成には、しばらくかかるらしく、泊まっている宿を教え、完成したら呼んでもらうことにした。
あの牙が、どんな武器になるか楽しみだ。ある程度のイメージを決めたとはいえ、どうなるかは分からない。なんだかドキドキする。
今日、ヨルクさんに出会って、どんな生き物も、老いには勝てないのだと、改めて思った。
ロボルの親は、一体幾つだったのだろうか。
……考えるのやめよう
次回、試し斬り




