人との関わりは大切な物
気がつくと、よくわからない空間だった。
もっと具体的に説明しようにも、よくわからないのだから、どうしようもない。
少しすると、何処からか、女性が1人歩いてきた。
「あなたは、茨涼太郎さんで合ってますね?」
「は、はい」
「おめでとうございます。あなたはこの度、誰もが夢見る異世界への切符を手にする人に選ばれました」
ん?なんだ、こいつ。急に現れて選ばれただのほざきおって。俺の中で、この女は「ヤバイ奴」に分類されたぞ。
「すまない、状況が飲み込めないのだが?」
「ですから、選ばれたのです。これからあなたを、異世界に飛ばします」
成る程、こいつは本当に「ヤバイ奴」らしい。
するとここは何処だ?拐われたのか?いや、にしては拘束がない。
「まず、ここは何処で、お前が誰なのか教えてくれるか?」
「私は神のメウで、ここは神の世界です」
お巡りさんこいつです。
「ヤバイ奴」通り越して「イカれた奴」だったわ。なんなら薬物中毒者か?
「そんなの信じられるか。はやく元のところ戻せ。神なら出来るだろうが」
「出来ません。1度死んだ者は2度と同じ世界には帰れないのです。」
「ん? 死んだ? 俺が? 一体いつ、どうやって?」
状況が急すぎて、頭が追いつかない……いや、思い出してきたぞ。そうだ、確か、一瞬に目の前が真っ白になって……体が爆発したような感じが……
「もしかして、あの雷か?」
「……はい」
なんだその溜めは。
とにかく、本当に死んだのか?となるともう戻れない?
一気にいろんな感情が込み上げてきた。
両親への謝罪の気持ち、親友達に会えなくなることが寂しい気持ち、ピーちゃんに提出物出し忘れたことへの申し訳ない気持ちと、あげたらキリがない。
しかし、さっきから、この自称神様の女の様子が変だ。目が泳いでいたり、忙しない印象を受ける。
なにかやましいことがあるのか?そういえば、「選ばれた」とか言ってたな……
「なあ、選ばれたのに、死ななきゃならなかったのか?」
「っ! そ、それは、神隠しにするわけにも行かず……」
怪しい。間違いなく何かを隠している。
こう見えてもシャーロックホームズなどの、推理物の小説とかをよく読んでいたのだ。
そこら辺のミステリーはだいたい序盤で犯人が分かるくらいにはなっている。
「なあ、本当は選ばれたんじゃないんだろう? 何か理由があって死んだ、俺はまだ死ぬ予定では無かったんだろ? となると、なにかのミスか? 誰のミスだ? 知る権利、あるよなぁ?」
「うぅ……」
メウと名乗った女神は少し間を置いて、決心したようだ。
次の瞬間、土下座した。
「すいませんでしたぁぁぁ!」
「へ?」
予想外の反応にこっちが驚いたわ。
「実は、人界の監視中に、コーラでも飲もうと思ったら、目に炭酸が入って、その勢いで、殺しちゃいました! 本っ当に、すいませんでしたぁぁぁ!」
女神は泣きながら謝罪を続けているが……え、何?俺の人生炭酸に負けたの?二酸化炭素に?え、ちょ、それはそれでショックなんだけど……
「それで、帰せないんだっけ?」
「うぅ……はい」
怒りで暴走しそうになるが、落ち着いて、よーく考える。
人(まあ、こいつは神様らしいが)は誰しも失敗する。俺だって何回もしたことがある。
向こうも、こうして誤っているし、ミスに対する謝罪として、異世界に行くことができるのだろう。
ボコボコにしたいのは山々だが、ここは許してやろう。
「メウって言ったか?」
「……はい……って、くぼぁ!」
俺は女神の顔面目掛けて右ストレートをかました。
ボコボコにしないのは決めたが、1発も殴らないとは決めてない。
今の拳には、俺の全てが詰まっていた気がした。
「2度と同じミスはしないこと。いいな……」
こんな目に他の人が会うのは正直俺も気分が悪い。
「は、はい……」
「それで?異世界に行くって、このまま行かせる訳じゃないんだろ?」
そうと決まれば、切り替えよう。悲しむのは後でいい。
「はい、えっと、転移と、転生、どっちが良いですか? 転移は、体を新しくして、どこかに飛ばす、転生は、どこかの家庭で、生まれ直す感じですが」
「転移で頼む。思い出は無くしたくないしな。命と違って」
「ぐっ……では、新しく、異世界に行くための、体を作りますが、要望はありますか?」
「そうだな、外見はこのままでいいや。慣れてるし」
「わかりました。では、向こうのルールブックを出しますね」
そう言うと、女神は、どこからともなく、ド◯◯もんの如く、分厚い本を取り出した。
こうしてみると、神ってスゲェ。中身ポンコツ以下だけど。
「まず、ステータスですね、項目は、筋力、俊敏、器用、耐久、魔力の5項目で、15のポイントを振り分けてください。」
ルールブックを見た感じ、筋力は、力に関係する物全般の能力。
俊敏は、速さに関係する物全般の能力。
器用は、そのまま手先の器用さが要求される物全般の能力。
耐久は、打たれ強さなど、生命維持に関係する物全般の能力。
魔力は、魔法を使うためのエネルギー量と、扱うための技量に関係する物全般の能力らしい。
そして、その15ポイントで、ステータスの比率を決めるらしい。
たしかに実際の数値をいちいち振っていられない。
俺は、異世界で、どのような生活をしたいか考えた。
ルールブックの内容に寄れば、異世界は正にゲームの世界で、モンスターや魔法、魔王なんかもいるらしい。
正直、そんな世界に行くなら戦闘したい。
考えた結果、筋力2、俊敏7、器用2、耐久2、魔力2にした。
どこかの赤い彗星も言っていた。「当たらなければどうと言うことはない」と。
さらにそれから結構時間が経ち、俺の新しい体が出来上がった。
「では、良いですか?」
「あぁ、これでいい」
「それでは、いってらっしゃい」
またしても目の前が真っ白になった。そのほんの一瞬の間に、いろんな人の顔が頭をよぎった。
実際にはそんなことにはなっていないのだろうが、俺は多分、泣いた。
周りの人と会えなくなるなら、もっと色々話しておけば良かった。
人は、いつ会えなくなるかわからない生き物だと言うことを、身をもって実感した。
次回、第2の俺!




