犬は人間より早く成長する。
前回学んだこと
異世界で賢いのは人間だけじゃない。
初の4人でのクエストは成功したが、心に深ーい傷を残した。俺とフェリクスはそこそこ大丈夫だったが、エヴリーヌとディアナにはちとキツ過ぎたらしい。
3日ほど部屋から出て来なかった。出てきた時は恐ろしいほど食事を取った。
「太るっての……」
まあ、腹減るだろうさ。でも食い方ってもんがあるだろうよ。
俺とフェリクスも流石に休暇として、その間小鹿亭でゆっくりしていた。
そして、1つ気が付いたことがある。
ロボルについてなのだが、成長が早い。
連れてきた時は子犬くらいのサイズだったのに、少なくとも、エヴリーヌとディアナが食事したときには柴犬くらいになった。
最初は寝ぼけてるのかと思ったが、違った。
もう少し大きくなりそうだが、いくらなんでも早過ぎないか?
その時は、「まあ、育ち盛りで、親がアレだからだろう」と思っていた。
しかし、蜘蛛の一件から帰ってきて、1週間、サイズがゴールデンレトリーバーくらいまでになった。
んー、異常だ。
ロボルに、「何か食べてるのか?」と聞いても、首を横に振る。というか、いつの間にこれが否定を意味するって覚えた?
正直、最近エヴリーヌ達よりロボルが怖い。親のサイズになったら流石にここでは飼えんぞ。
それにしても、最初の時に比べて、めっちゃ凛々しくなった。
顔つき、体のライン、牙、爪、全てが親に似てきた。そりゃあ親子(?)なんだから似るのは当たり前だが、犬というより、狼に近いか?
……犬ということにしておこう。
そして、そのロボルだが、非常に頭が良いのだ。この間、部屋のトイレを使っていた時は、中に人でも入っているのかと、背中にチャックを探したものだ。
その上、身体能力もとんでもない。
これは本格的に“お供”に出来そうだな。
気になった俺は、かなり回復してきたみんなを置き、ロボルとクエストに行ってみた。
クエストは野犬の退治。
結果は、成功だった。
しかし、成功の仕方が少しおかしい。
目標の野犬を見つけてからのロボルと言ったら、ハンターそのものだ。
正直、狩りの域を超えている。なんなら、“駆逐”や、“陵辱”の方が言葉的には似合う。
そして仕事を終えたら、いつも通りの可愛い顔で尻尾を振りながら戻ってくる。
口周りと足が血でベトベトだけどな……
もしかしたら、俺はとんでもないものを飼っているのかも知れない。
そんなロボルだが、小鹿亭でいる時はかなーり躾のされた犬だ。
お昼寝もするし、呼んだら膝の上で寝転がる。
もし話せるなら是非問いたいね。「お前はなんなんだ」と。
蜘蛛のクエストから1週間と2日。
遂に(喜ぶべきことではないが)、エヴリーヌとディアナが復活した。
やる気は前より無いが、問題なさそうだ。
「世間の厳しさを知ったか?」
「身に染みたよ。」
「はい……怖かったです。」
この1週間、カミラが2人の看病(?)に部屋に入ったりしてたが、たまに部屋からすすり泣く声が聞こえて怖かった。
まあ、流石に“怖い”を超えて、“恐怖”したらしいから、哀れみも混みで、飯を作ってやった。
「ほれ」
「「いただきます……」
今回は、フェリクスの店の協力もあり、良い鮭が手に入った。俺はこれでシチューを作った。そう、鮭のシチューだ。
シチューに魚は、普通、あまり見ないだろうが、なかなかに合うのだ。
鮭の脂の旨みと、ホロホロした身がシチューのコクと混じり合って、なかなかに美味しい。
本当は、刺身とか寿司とか、あら汁、味噌汁とかにしたいのだが、仕方がない。
しかし、エヴリーヌ達はもちろん、犬(?)のロボルにもかなり好評だ。
料理人として、自分の料理を「おいしい、おいしい」と言いながら笑顔で食べてくれるのは素直に嬉しく、こっちも笑みがこぼれそうになるが、隠す。
理由は簡単。
これにつけ込まれて料理当番にはなりたくないからな。なっても良いのだが、その時はまだだ。俺の守備範囲というか、得意分野はあくまで和食だ。
だから、こいつらに本気を見せるのは和食を作った時だ。
実際、俺の和食に比べたら、洋食はまだまだ未熟だ。
前に爺ちゃんに教わったのだ。
「いいか?本当の料理人ってのはな、半端な料理を出しちゃいけねぇんだ。本当の料理人は、人間の代表的な3大欲求の1つ、“食欲”を満たすことを仕事にしてるんだ。つまり、その人の体……いや、人生の3分の1は満たすものを出さなきゃならねぇのさ」
俺は、親友との約束とか、いろいろと守れなかった。まあ、俺のせいじゃないが、そこは関係ない。
だからせめて、せめて家族に教わったことだけは守って生きていきたいんだ。
シチューを出してから2日後気づいたが、(ロボルって犬系だよな……あれ、シチューに玉ねぎ……)
ロボルはというと、カミラにワシワシされている。
まあ、ロボルはスゲェってことだな。うん。深く考えたら負けな気がする。
次回、旅行へ行こうぜ!




