初めての共同作業
前回学んだこと
私情は合理性に負ける。
フェリクスが小鹿亭に来た次の日、仕方なく俺、エヴリーヌ、ディアナ、フェリクスの4人でクエストに行くことになった。
俺とフェリクスはいつも通りだが、残りの2人はウキウキが止まらないのか、時折スキップしている。
恥ずかしいから辞めてくれよマジで……
「なあ、これなんてどうだ?」
貼り出されたクエストの1枚を見せてくるエヴリーヌだが、内容が大型モンスターの討伐クエストだ。
そんなもの一体どこから持って来たのやら……
「バカ。俺たちはパーティ初心者なんだから、もっと簡単なのにしなきゃダメだろ。連係だってロクに出来ないかも知れないってのに……」
何事も事前にテストすることは大事だし、これは現世の模試にも当てはまる。
まあ、俺はその中で、割と無駄な物も多いと思っているが。
浮かれていると大変なことになるのは目に見えている。ここは、俺とフェリクスだけでも行けるようなクエストを選ぶべきだ。
そう考えて、クエストは昆虫系のモンスター退治にした。
この世界に於いてモンスターとは、現世の犬や、鳥、虫とあまり変わらない。
生きて、繁殖をし、そして死んでいく。
しかし、この世界では、魔力よって、強くなり、知性を得て、外見も変異する。
それがモンスターだ。
そのため、クエストは定期的に更新されるし、倒すモンスターも底を突かない。
しかし、クエストには食べ物のように期限がある。
相手が生き物という都合上、相手が一定の場所に留まることはない。ゲームみたいにクエストを受ければそこに絶対にいるとは限らないのだ。
ただ、クエストに行き、目標がいなかった場合、ギルドから“調査料”という形で報酬が少なめに貰える。
この世界はまだまだ未知で溢れている。
そんな中で人間やエルフやリザードマンとかの俺たちみたいな生き物が生きているんだ。
俺たちはあくまで、自然の侵略者でしかない。
これは、田舎でクマが来たとか、イノシシが出たとかのニュースを見れば分かることだ。
クエストは、期限が危ない物を選んだ。
相手がいなければそれでよし、いれば退治してよし。
ちなみに、期限が迫って来ているものほど報酬も少しだけ高くなる。
アリスターから西の森に来たが、一向に目標の気配がない。
「もしかして、もう別のところへ行ってしまったんでしょうか。」
「いや、相手は昆虫で、情報によると蜘蛛らしいし、巣を作ってるはずだ。どこかへ移動したとは考えにくいな。」
ディアナの言う通りなら良いが、フェリクスの言う通りだ。蜘蛛なら巣を張るはずだ。
周りに注意しながら、森を進む。
「いた!」
見つけたのはエヴリーヌで、確かに目標のクモだが、思ったより小さい。
といっても、30センチはあるけどな。
「くそ、待て!」
「バカ! 追うんじゃねえ!」
エヴリーヌはなんと逃げた蜘蛛を追いかけて森へ入っていった。
俺たちはもちろん追いかける。
すると、エヴリーヌが前で止まった。どうやら見失ったらしいが、追いついた直後、俺はなにかを感じた。
4人が集まった時、茂みの奥を見て戦慄した。
感じたものは気のせいではなかった。
クモは基本1匹で巣を張る生き物と思っていた。しかし、そんな蜘蛛も群れる時があるらしい。
それはいつなのか。
世の中には、親蜘蛛が孵化した子供達を背負ってしばらく生活する蜘蛛がいるらしい。
確かな知識ではないので断言は出来ないが、この種類の蜘蛛が魔力を持ち、知性を持つと、どうなるか。
茂みの奥には、莫大な量の蜘蛛がいた。10やそこらなんかじゃない。
俺は集合体恐怖症じゃないが、茂みの奥に、30センチくらいの蜘蛛を大量に見た場合、いくら蜘蛛が好きな人間でも、こうなるだろう。どうなるかって?そりゃあ……言わなくても分かるだろ?
『逃げろぉぉぉぉぉぉ!』
人間、本能には逆らえないってこと。
どんな本能かって?
そりゃあ、“生命の危機”に決まってるだろ。
みんな全力疾走だが、生憎、俺ほど他のみんなは足が早くない。
戦闘向きじゃない女子2人は特にだ。
こうなったら俺とフェリクスが担ぐしかない。
「重いのどっちだ!」
振り返って叫んだ。
しかし、叫びながら逃げる女子2人を見比べて即決した。
「フェリクス! エヴリーヌを頼む!」
俺は迷わずディアナを抱えて走った。
「リョウタロウさん! もしかして私を心配して!(ポッ」
「バカ! お前の方が明らかに向こうよりついてる脂肪大きいだろうが!」
「おい!聞き捨てならないぞ! 私の体に不満があると言うのか!」
「どうでもいいから、迎撃の1つでもしてくれ!」
フェリクスの声で我に帰ったエヴリーヌとディアナは、俺たちに担がれながら、魔法で後ろの蜘蛛たちを迎撃した。
でっかい脂肪の塊ががっつり体にあたってるが、この際どうでもいい。
そんなもの、後ろのカサカサ言いながら追いかけてくる数十匹の子蜘蛛を見たら道端の落ち葉とおんなじくらいだからな!
逃げ続けていると、平原に出た。すると、数の実態が分かった。
まあ多いこと、多いこと。
「お前らなんとかしろぉぉぉ!」
すると、エヴリーヌが詠唱を始め、すぐ後に、後ろで大爆発が起こった。
後ろを振り返ると、平原が大きく円形に焦げていた。
エヴリーヌの魔法で、蜘蛛たちは驚いて退散してくれたようだ。
残されたのは、焦げた蜘蛛の死体と、くたびれた俺たち4人だけだった。
その後、ギルドにそのことを報告し、しっかりとした調査隊を派遣してもらうことにした。
報酬は少し多めに貰えたのが救いだった。
小鹿亭に戻った俺たちは、ヘトヘトで、ご飯を食べずに就寝した。
ロボルの時もそうだったが、この世界では向こうの常識は一切通用しないことを痛感した。
あと、しばらく森には行かないことにした。
次回、育ち盛り




